┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
真白と申します
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その名が胸の奥に落ちていく。直接彼の口から聞いたわけではないのに、何故か頭の中で反響する。
思わずその文字に見惚れていると、真白と名乗った陰陽師が筆を差し出した。
「っ!」
次は君が名乗る番だと無言の笑顔を向けてくる。
何度も頷きながら筆を受け取り、慌てて文机に向かった。
普段、ひっそりとこの部屋に籠もっているからか、誰かに見られながら書くのは慣れない。筆を握る手が震えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈
音羽です
┈┈┈┈┈┈┈┈
「音羽」
随分と嬉しそうに目を細めて、真白は和紙の上に綴られた文字を読み上げた。
何度も何度も声に出して、噛み締めるように呟く。
「姫様。俺は正直者です。ですから、一つ言っておきましょう」
改まった態度で向き直られ、音羽は小首を傾げて真白を見る。
切れ長の澄んだ真白の目が音羽のつぶらな瞳を捉えた。じっと見入るように見つめられ、音羽は思わず硬直する。
「声を出せぬ呪いは解けません」
「……?」
一瞬、時が止まったように感じた。
呪いは解けない。声を出せぬ呪い。解けない。とけない。トケナイ。
真白の言葉の意味を理解した瞬間、音羽の頭の中は真っ白になる。
「!! っ……!」
そんなはずはない。呪いが解けないはずが。
全力で首を振りながら、そんなはずはないと否定を体現する。
どれだけ嘘を吐かれようと、この呪いはいつか必ず解ける。今までずっとそれだけは信じてきたのだ。
それなのに、突然現れた得体の知れない男に呪いは解けないと言われて信じられるはずがない。
涙目になりながら必死に首を振る音羽を見て、真白は小さく息を吐いた。
「筆を」
しなやかな手を伸ばし、簡単に筆を奪い取る。
和紙の空白部分に筆を立てると、小さな文字で付け加えるように書いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺は本当のことを言えません なので 筆談で
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
身を寄せるようにしてその言葉を読んだ音羽は、小さく首を傾げた。
理解できていない音羽を見た真白は、再び付け加えるように綴る。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺も呪われています
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その一文を見つめたまま、音羽の動きが止まる。
――俺も呪われています。
墨の色は先程と何も変わらないはずなのに、その言葉だけがやけに重く見えた。
じわり、と胸の奥に何かが沈む。
視線を上げと、真白何処か軽い表情を浮かべていた。
深刻さなど微塵も感じさせない顔。まるで、どうでもいいことを告げたかのように。
音羽は、もう一度和紙に目を落とす。
“呪われています”
同じ言葉が、頭の中で繰り返される。けれど、不思議と恐ろしさはなかった。代わりに、ほんの僅かだけ、引き寄せられるような感覚があった。
(同じ……?)
そう思ってしまった瞬間、はっとして首を横に振る。
違う。
同じなはずがない。この男は、平然と「解けない」と言った。
音羽がどれだけ呪いによって苦しんで、痛みに耐えてきたのか知らずに、あまりにも簡単に言ってのけた。
何の躊躇いもなくだ。
そんな人の心がない薄情者と同じなど、音羽は屈辱に感じた。
「早速嫌われてしまいましたか」
吐き捨てるように落ちたその言葉に、音羽はぎゅっと唇を噛み締める。
視界の端が滲んでも、目は逸らさなかった。
真白と申します
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その名が胸の奥に落ちていく。直接彼の口から聞いたわけではないのに、何故か頭の中で反響する。
思わずその文字に見惚れていると、真白と名乗った陰陽師が筆を差し出した。
「っ!」
次は君が名乗る番だと無言の笑顔を向けてくる。
何度も頷きながら筆を受け取り、慌てて文机に向かった。
普段、ひっそりとこの部屋に籠もっているからか、誰かに見られながら書くのは慣れない。筆を握る手が震えた。
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音羽です
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「音羽」
随分と嬉しそうに目を細めて、真白は和紙の上に綴られた文字を読み上げた。
何度も何度も声に出して、噛み締めるように呟く。
「姫様。俺は正直者です。ですから、一つ言っておきましょう」
改まった態度で向き直られ、音羽は小首を傾げて真白を見る。
切れ長の澄んだ真白の目が音羽のつぶらな瞳を捉えた。じっと見入るように見つめられ、音羽は思わず硬直する。
「声を出せぬ呪いは解けません」
「……?」
一瞬、時が止まったように感じた。
呪いは解けない。声を出せぬ呪い。解けない。とけない。トケナイ。
真白の言葉の意味を理解した瞬間、音羽の頭の中は真っ白になる。
「!! っ……!」
そんなはずはない。呪いが解けないはずが。
全力で首を振りながら、そんなはずはないと否定を体現する。
どれだけ嘘を吐かれようと、この呪いはいつか必ず解ける。今までずっとそれだけは信じてきたのだ。
それなのに、突然現れた得体の知れない男に呪いは解けないと言われて信じられるはずがない。
涙目になりながら必死に首を振る音羽を見て、真白は小さく息を吐いた。
「筆を」
しなやかな手を伸ばし、簡単に筆を奪い取る。
和紙の空白部分に筆を立てると、小さな文字で付け加えるように書いた。
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俺は本当のことを言えません なので 筆談で
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身を寄せるようにしてその言葉を読んだ音羽は、小さく首を傾げた。
理解できていない音羽を見た真白は、再び付け加えるように綴る。
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俺も呪われています
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その一文を見つめたまま、音羽の動きが止まる。
――俺も呪われています。
墨の色は先程と何も変わらないはずなのに、その言葉だけがやけに重く見えた。
じわり、と胸の奥に何かが沈む。
視線を上げと、真白何処か軽い表情を浮かべていた。
深刻さなど微塵も感じさせない顔。まるで、どうでもいいことを告げたかのように。
音羽は、もう一度和紙に目を落とす。
“呪われています”
同じ言葉が、頭の中で繰り返される。けれど、不思議と恐ろしさはなかった。代わりに、ほんの僅かだけ、引き寄せられるような感覚があった。
(同じ……?)
そう思ってしまった瞬間、はっとして首を横に振る。
違う。
同じなはずがない。この男は、平然と「解けない」と言った。
音羽がどれだけ呪いによって苦しんで、痛みに耐えてきたのか知らずに、あまりにも簡単に言ってのけた。
何の躊躇いもなくだ。
そんな人の心がない薄情者と同じなど、音羽は屈辱に感じた。
「早速嫌われてしまいましたか」
吐き捨てるように落ちたその言葉に、音羽はぎゅっと唇を噛み締める。
視界の端が滲んでも、目は逸らさなかった。

