嘘言〜声を失った姫と嘘つき陰陽師の邂逅〜

 窓の外を流れる街灯の光が、ゆっくりと室内の壁を滑っていく。
 見合いから数日。巡り巡って、音羽と真白は再び久我家の屋敷の一室にいた。だが、見合いのためではない。
 悠真が掴んだという橘家の過去、主に緋彩についての情報を共有するため。
 三人は静かな部屋で向かい合って座っていた。けれど、その沈黙は決して穏やかなものではない。

「……つまり、その夜鷹って人に会いに行くんですね?」

 卓上へ資料を広げたまま、悠真が低く問い掛ける。
 向かい側では、真白がソファへ深く腰掛けたまま視線を伏せていた。

「会うしかない、でしょう?」

 短い返答だが、その声音には妙な硬さがあった。
 音羽の封印。
 十五年前の異常活性。
 橘緋彩の失踪。
 そして真白自身に掛けられていた沈黙の呪。全ての中心にいるのが夜鷹なら、避けては通れない。
 難しい顔をする真白の装束の裾を音羽がさり気なく引いた。視線を落とせば、筆談用の紙を差し出される。

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  もし 本当に お母さまが 生きてたとして

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 ぺらりと紙が捲られる。その下には、彼女の心の内が記されている。

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  わたし どうしたらいいのか わからない

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 ずっと死んだと思っていた母親だ。
 それが実は生きていて、自分の知らない場所で囚われているかもしれないなど、簡単に受け止められるはずがない。
 しかも、その全ての原因が、自分自身にある可能性まで見えてしまっている。
 どうしたらいいのか以前に、呪という業を背負わされているのだ。

「姫君。貴方のせいではない」
「……!」

 反射的に顔を上げるが、すぐにまた下げてしまう。
 悠真と真白は孤立した席に座る音羽へと視線を向けていた。
 少しして、徐ろに筆を取った音羽は筆談を続ける。

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  でも わたしのこえが あやかしを

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 その続きを記すのを真白は手を掴んで止める。驚いて顔を上げた音羽は、不安に揺れる目を真白に向けた。

「だったら尚更でしょう」
「……?」
「全部確かめに行きます」

 逃げるように視線を逸らそうとした音羽を今度は許さなかった。

「誰が何を隠してたのか、何のために呪を掛けたのか、貴方の母親が何考えてたのか」

 一つ一つ、噛み締めるように言葉を落としていく。

「全部聞く」

 不思議なほど揺らぎのない声が音羽の胸に深く落ちる。