ぱさり、と布団が敷かれる音だけが静かな部屋へ響く。
真白はなるべく音羽から距離を取るように横になった。音羽には反対を向く真白の背中しか見えない。
「これで満足ですか」
投げやりな声が背中越しに聞こえる。けれど、隣へ来ること自体は拒まなかった。
音羽はそんな真白をじっと見つめる。
少しだけ疲れた顔。
誤魔化すように笑う癖。
苦しそうなのに、絶対に本音を言わないところ。
今日一日で、色んな真白を見た。
怖いくらい強い陰陽師。
飄々として掴めない人。
意地悪ばかり言うくせに、ずっと自分を守ってくれる人。
「……」
音羽はそっともう一つの布団へ潜り込む。橘の屋敷で普段横になっていた布団よりも幾分か薄い。けれど十分温かい。
行灯の灯りが、ぼんやりと天井を照らしていた。
隣からは真白の呼吸が聞こえる。
不思議だった。
橘家の部屋よりずっと狭いのに。
知らない場所なのに。
今の方が、ずっと安心できる。隣に真白がいるからなのか、ここが橘家ではないからかは分からない。
「姫様」
言われた通り自分も眠ろうかと目を閉じた時、静かな声が聞こえた。
音羽が振り向けば、真白は天井を見たまま口を開く。
「明日になったら、また色んな場所に連れてってあげますよ」
その声音には、今日一日ずっと張り詰めていた空気とは違う、穏やかな熱が混じっている。
まるでm本当にこれから先のことを考えているように聞こえた。
「今度は海でも見ます?」
海。
その言葉を聞いた瞬間、音羽の目がぱっと見開かれた。
知らない景色だ。
今日見た祭りと同じく、自分の知らない世界がまだ外には沢山あるのだと気づかされる。
驚きと期待が入り混じった感情が、そのまま表情へ出ていた。
「姫様、また凄い顔してますよ」
隣の布団に寝転がる音羽は、まるで子供のように目を輝かせている。
そんな無防備な反応を真正面から向けられると、胸の奥が妙に擽ったくなる。そんなことを彼女に気づかれるわけにもいかず、誤魔化すように目を瞑ったまま笑った。
「……まあ」
ちりん、と何処かで鈴が鳴った。
静かな部屋へ溶けるような、柔らかい音。
その横顔はいつも通り飄々としているのに、声だけが少し掠れていた。
「貴方といると退屈しないので、しばらくは攫っておいてあげます」
その瞬間、ぴしり、と小さく黒い紋様が浮かぶ。けれど、真白はもう気づかないフリをした。
一方の音羽は、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
攫う。
最初は恐ろしい言葉だったはずなのに、今はどうしてかその言葉が少しだけ嬉しかった。
真白はなるべく音羽から距離を取るように横になった。音羽には反対を向く真白の背中しか見えない。
「これで満足ですか」
投げやりな声が背中越しに聞こえる。けれど、隣へ来ること自体は拒まなかった。
音羽はそんな真白をじっと見つめる。
少しだけ疲れた顔。
誤魔化すように笑う癖。
苦しそうなのに、絶対に本音を言わないところ。
今日一日で、色んな真白を見た。
怖いくらい強い陰陽師。
飄々として掴めない人。
意地悪ばかり言うくせに、ずっと自分を守ってくれる人。
「……」
音羽はそっともう一つの布団へ潜り込む。橘の屋敷で普段横になっていた布団よりも幾分か薄い。けれど十分温かい。
行灯の灯りが、ぼんやりと天井を照らしていた。
隣からは真白の呼吸が聞こえる。
不思議だった。
橘家の部屋よりずっと狭いのに。
知らない場所なのに。
今の方が、ずっと安心できる。隣に真白がいるからなのか、ここが橘家ではないからかは分からない。
「姫様」
言われた通り自分も眠ろうかと目を閉じた時、静かな声が聞こえた。
音羽が振り向けば、真白は天井を見たまま口を開く。
「明日になったら、また色んな場所に連れてってあげますよ」
その声音には、今日一日ずっと張り詰めていた空気とは違う、穏やかな熱が混じっている。
まるでm本当にこれから先のことを考えているように聞こえた。
「今度は海でも見ます?」
海。
その言葉を聞いた瞬間、音羽の目がぱっと見開かれた。
知らない景色だ。
今日見た祭りと同じく、自分の知らない世界がまだ外には沢山あるのだと気づかされる。
驚きと期待が入り混じった感情が、そのまま表情へ出ていた。
「姫様、また凄い顔してますよ」
隣の布団に寝転がる音羽は、まるで子供のように目を輝かせている。
そんな無防備な反応を真正面から向けられると、胸の奥が妙に擽ったくなる。そんなことを彼女に気づかれるわけにもいかず、誤魔化すように目を瞑ったまま笑った。
「……まあ」
ちりん、と何処かで鈴が鳴った。
静かな部屋へ溶けるような、柔らかい音。
その横顔はいつも通り飄々としているのに、声だけが少し掠れていた。
「貴方といると退屈しないので、しばらくは攫っておいてあげます」
その瞬間、ぴしり、と小さく黒い紋様が浮かぶ。けれど、真白はもう気づかないフリをした。
一方の音羽は、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
攫う。
最初は恐ろしい言葉だったはずなのに、今はどうしてかその言葉が少しだけ嬉しかった。

