飴細工の店から少し離れた所にある広場に向かい、適当な長椅子に並んで座る。
こうして横並びに座っていると、少し歳の離れた兄妹のようにも見えた。橘家、久我家から逃げるため、真白が陰陽師の装束からありふれた淡い色合いの着物に着替えていたからかもしれない。
何処で調達したのかは考えないでおく。
「それで、見合いはどうでした?」
「……」
満面の笑みで飴細工を頬張っていた音羽の顔が引き攣る。
心底不快気な顔をすると、傍らに転がっていた枝を拾うなり地面に書いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
みあいもけっこんも いや
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
偶然、呪具を扱う名高い名家との見合いが舞い込んできただけ。
それだけでは言い切れないほどのことが、あの半日ほどの間に起こったのだ。
単純に悠真が恐ろしいのもある。何を考えているのか分からないし、何処となく不気味だった。
「いいんじゃないですか? 橘の名を捨ててでも自由になりたいんでしょう」
「……!」
「俺が見合いなんてしなくとも済むようにしてやれば……」
その時、音羽の耳に真白の言葉が届くことはなかった。
楽しげに飴細工を頬張る音羽は、真白が何と言いかけたのかなど知らない。
ぱきり、と、音羽は桜の飴を小さく噛み砕く。
透き通った飴が灯りを反射して、きらきらと輝いた。
真白はそんな様子を横目で眺めながら、小さく息を吐く。
「───」
……危ない。
今、うっかり余計なことを口にしかけた。
別に音羽へ聞かれたところで問題はない。ない、はずなのに。
(……まさか、俺がこんなことを考えるようになるとは)
喉の奥へ妙な違和感が張り付くのを誤魔化すように、鈴を指先で弄んだ。
チリン。
小さな音が夜風へ溶ける。
「まあ、姫様はああいう家には向いてませんよ」
音羽が飴を咥えたまま真白を見る。見た目こそ悠真と然程変わらないが、声が出ない分感情が身体に出る。仕草が子供っぽいのだろう。
「閉じ込められて、静かに笑って、適当に嫁がされて」
どれだけ無邪気な笑顔を浮かべようが。
初めて見る飴細工に目を輝かせようが。
年相応に街中を楽しげに歩こうが。
橘音羽という籠の中の鳥である限り、定められた運命に抗うことはできない。
「そんなのつまらないでしょう」
「……」
だったら、束縛する身分という身分を捨て、自分が望むように羽ばたかせたい。
いつの日からか、真白は言葉にできない想いを抱くようになっていた。
決して声に出してはならないため濁して言えば、音羽は少しだけ目を丸くする。
それから、ゆっくりと視線を街へ向けた。
賑やかな人混み。
人々の笑い声。
屋台の灯り。
目の前に広がるそれらは、橘家では決して見られなかった景色。
こうして横並びに座っていると、少し歳の離れた兄妹のようにも見えた。橘家、久我家から逃げるため、真白が陰陽師の装束からありふれた淡い色合いの着物に着替えていたからかもしれない。
何処で調達したのかは考えないでおく。
「それで、見合いはどうでした?」
「……」
満面の笑みで飴細工を頬張っていた音羽の顔が引き攣る。
心底不快気な顔をすると、傍らに転がっていた枝を拾うなり地面に書いた。
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みあいもけっこんも いや
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偶然、呪具を扱う名高い名家との見合いが舞い込んできただけ。
それだけでは言い切れないほどのことが、あの半日ほどの間に起こったのだ。
単純に悠真が恐ろしいのもある。何を考えているのか分からないし、何処となく不気味だった。
「いいんじゃないですか? 橘の名を捨ててでも自由になりたいんでしょう」
「……!」
「俺が見合いなんてしなくとも済むようにしてやれば……」
その時、音羽の耳に真白の言葉が届くことはなかった。
楽しげに飴細工を頬張る音羽は、真白が何と言いかけたのかなど知らない。
ぱきり、と、音羽は桜の飴を小さく噛み砕く。
透き通った飴が灯りを反射して、きらきらと輝いた。
真白はそんな様子を横目で眺めながら、小さく息を吐く。
「───」
……危ない。
今、うっかり余計なことを口にしかけた。
別に音羽へ聞かれたところで問題はない。ない、はずなのに。
(……まさか、俺がこんなことを考えるようになるとは)
喉の奥へ妙な違和感が張り付くのを誤魔化すように、鈴を指先で弄んだ。
チリン。
小さな音が夜風へ溶ける。
「まあ、姫様はああいう家には向いてませんよ」
音羽が飴を咥えたまま真白を見る。見た目こそ悠真と然程変わらないが、声が出ない分感情が身体に出る。仕草が子供っぽいのだろう。
「閉じ込められて、静かに笑って、適当に嫁がされて」
どれだけ無邪気な笑顔を浮かべようが。
初めて見る飴細工に目を輝かせようが。
年相応に街中を楽しげに歩こうが。
橘音羽という籠の中の鳥である限り、定められた運命に抗うことはできない。
「そんなのつまらないでしょう」
「……」
だったら、束縛する身分という身分を捨て、自分が望むように羽ばたかせたい。
いつの日からか、真白は言葉にできない想いを抱くようになっていた。
決して声に出してはならないため濁して言えば、音羽は少しだけ目を丸くする。
それから、ゆっくりと視線を街へ向けた。
賑やかな人混み。
人々の笑い声。
屋台の灯り。
目の前に広がるそれらは、橘家では決して見られなかった景色。

