――ギィィィィッ!!
突如、第三蔵の奥から耳障りな咆哮が響き渡る。
びり、と空気が震えた次の瞬間、蔵の奥に貼られていた札が、一斉に燃え落ちた。
「……な」
第三蔵の奥から、びりびりと嫌な気配が溢れ出してくる。
封じられていた妖達が、一斉に目を覚まし始めていた。
暗闇の中で揺れる無数の気配に、久我家の使用人達から悲鳴混じりの息が漏れる。
そんな中、真白だけが呆れたように肩を落とした。
「……あーあ」
視線の先では、封印を破ろうとする妖気が際限なく膨れ上がっていた。
「これは流石にまずいですねえ」
チリン。
鈴が鳴る。
それだけで周囲の妖気が僅かに押し返されるが、完全には止まらない。
むしろ、音羽がここにいる限り、妖達は際限なく惹き寄せられていく。
悠真もそれを理解したのだろう。苦々しく歯噛みをすると、背後で怯える使用人達に向かって叫んだ。
「……姫君を下がらせろ!」
「いやあ、それじゃ遅いでしょう」
真白はさらりと言ってのけると、ゆっくりと音羽を振り返った。
不意に、音羽の脳裏へ過去の光景が蘇る。
薄暗い部屋で胡散臭そうに笑っていた陰陽師。
あの時は冗談だと思っていた。けれど今、真白はあの日と同じ目で音羽を見ていた。
『攫ってあげましょうか』
軽薄に笑っていた、あの時と。
「姫様」
真白は音羽の前へ屈み込む。
恐怖で強張った身体を見つめ、困ったように笑った。
「前に約束しましたよねえ」
その瞬間、音羽の身体がふわりと浮く。
「……っ!?」
次の瞬間には、音羽の視界がぐるりと変わっていた。
気づけば、真銀に軽々と抱き上げられている。
真白の腕の中へ、すっぽり収められているのだと理解した瞬間、心臓が大きく跳ねた。
白い髪が揺れ、鈴の音がすぐ傍で鳴っていた。
「ちょ、待っ――!」
悠真が咄嗟に声を上げるが、真白は振り返りもしなかった。
暴走する妖気の中でも、その声音だけは妙に穏やかで。
まるで前から決めていたことを、今ようやく実行に移しただけだと言わんばかりだった。
「姫様は俺が攫いますので」
白い術式が、足元から一気に広がっていく。
吹き荒れる妖気を押し返すように、幾重もの光が廊下を駆け抜けた。
その中心で、真白だけが不思議なほど落ち着き払っている。
腕の中の音羽を抱え直すと、真白はようやく悠真へ視線を向けた。
「それじゃあ久我の坊ちゃん」
チリン。
鈴が鳴る。
「また会いましょう」
直後、白光が炸裂した。
暴風が廊下を駆け抜け、無数の札が宙を舞う。
悠真が咄嗟に腕で視界を庇った、その瞬間――二人の姿は、消えていた。
「……消え、た?」
悠真は呆然と呟く。
視界の先には、崩れた廊下と暴走しかけた妖達だけ。
白髪の陰陽師も、音羽の姿も、今や何処にもない。
静寂。いや、違う。
耳障りなほど騒がしいはずなのに、心の中は妙に静かだった。
悠真は手の中の紙へ視線を落とす。
『姫様の声は妖を誘う』
ぐしゃり、と紙が握り潰された。
「……無能な陰陽師と称したのは、私の落ち度か……」
すでに消えている真白が発動した白い術式は、無詠唱ながら妖を封じるには十分な力があった。
無詠唱。それが一体何を示すのか。
本来、妖を誘う強力な霊力を持った声を持つ音羽と、そこらの陰陽師とは並外れた異常な霊力を持つ真白。
あの二人が常識の枠から逸脱した存在であると気づいたのは、悠真が独りになってからだった。
「随分と厄介な陰陽師ですね」
そう呟きながらも、その声音には微かな熱が混じっていた。
また会おうという真白の発言が現実にならぬよう、弱った妖を睨め付けた悠真は強く蹴りつけた。
突如、第三蔵の奥から耳障りな咆哮が響き渡る。
びり、と空気が震えた次の瞬間、蔵の奥に貼られていた札が、一斉に燃え落ちた。
「……な」
第三蔵の奥から、びりびりと嫌な気配が溢れ出してくる。
封じられていた妖達が、一斉に目を覚まし始めていた。
暗闇の中で揺れる無数の気配に、久我家の使用人達から悲鳴混じりの息が漏れる。
そんな中、真白だけが呆れたように肩を落とした。
「……あーあ」
視線の先では、封印を破ろうとする妖気が際限なく膨れ上がっていた。
「これは流石にまずいですねえ」
チリン。
鈴が鳴る。
それだけで周囲の妖気が僅かに押し返されるが、完全には止まらない。
むしろ、音羽がここにいる限り、妖達は際限なく惹き寄せられていく。
悠真もそれを理解したのだろう。苦々しく歯噛みをすると、背後で怯える使用人達に向かって叫んだ。
「……姫君を下がらせろ!」
「いやあ、それじゃ遅いでしょう」
真白はさらりと言ってのけると、ゆっくりと音羽を振り返った。
不意に、音羽の脳裏へ過去の光景が蘇る。
薄暗い部屋で胡散臭そうに笑っていた陰陽師。
あの時は冗談だと思っていた。けれど今、真白はあの日と同じ目で音羽を見ていた。
『攫ってあげましょうか』
軽薄に笑っていた、あの時と。
「姫様」
真白は音羽の前へ屈み込む。
恐怖で強張った身体を見つめ、困ったように笑った。
「前に約束しましたよねえ」
その瞬間、音羽の身体がふわりと浮く。
「……っ!?」
次の瞬間には、音羽の視界がぐるりと変わっていた。
気づけば、真銀に軽々と抱き上げられている。
真白の腕の中へ、すっぽり収められているのだと理解した瞬間、心臓が大きく跳ねた。
白い髪が揺れ、鈴の音がすぐ傍で鳴っていた。
「ちょ、待っ――!」
悠真が咄嗟に声を上げるが、真白は振り返りもしなかった。
暴走する妖気の中でも、その声音だけは妙に穏やかで。
まるで前から決めていたことを、今ようやく実行に移しただけだと言わんばかりだった。
「姫様は俺が攫いますので」
白い術式が、足元から一気に広がっていく。
吹き荒れる妖気を押し返すように、幾重もの光が廊下を駆け抜けた。
その中心で、真白だけが不思議なほど落ち着き払っている。
腕の中の音羽を抱え直すと、真白はようやく悠真へ視線を向けた。
「それじゃあ久我の坊ちゃん」
チリン。
鈴が鳴る。
「また会いましょう」
直後、白光が炸裂した。
暴風が廊下を駆け抜け、無数の札が宙を舞う。
悠真が咄嗟に腕で視界を庇った、その瞬間――二人の姿は、消えていた。
「……消え、た?」
悠真は呆然と呟く。
視界の先には、崩れた廊下と暴走しかけた妖達だけ。
白髪の陰陽師も、音羽の姿も、今や何処にもない。
静寂。いや、違う。
耳障りなほど騒がしいはずなのに、心の中は妙に静かだった。
悠真は手の中の紙へ視線を落とす。
『姫様の声は妖を誘う』
ぐしゃり、と紙が握り潰された。
「……無能な陰陽師と称したのは、私の落ち度か……」
すでに消えている真白が発動した白い術式は、無詠唱ながら妖を封じるには十分な力があった。
無詠唱。それが一体何を示すのか。
本来、妖を誘う強力な霊力を持った声を持つ音羽と、そこらの陰陽師とは並外れた異常な霊力を持つ真白。
あの二人が常識の枠から逸脱した存在であると気づいたのは、悠真が独りになってからだった。
「随分と厄介な陰陽師ですね」
そう呟きながらも、その声音には微かな熱が混じっていた。
また会おうという真白の発言が現実にならぬよう、弱った妖を睨め付けた悠真は強く蹴りつけた。

