チリン。
真白の指先で、鈴がもう一度鳴る。
その音を聞いた瞬間、廊下中に漂っていた妖気が、まるで怯えるようにざわついた。
「な……」
目の前の壮絶な光景に、悠真は息を呑む。
あれだけ禍々しい妖気を漂わせていた妖ですら、先程までの凶暴さを失っていた。
白い術式へ押さえ付けられ、低く唸りながら後退している。
真白はそんな様子を一瞥すると、困ったように肩を竦めた。
「全く。人が折角、護身用まで渡していたのに」
真白は妖気渦巻く廊下のど真ん中に立ちながらも、まるで緊張した様子がない。
周囲では札が燃え、異形の妖が唸り声を上げているというのに、本人だけが妙に気怠げだった。
指先で鈴を弄びながら、楽しそうに目を細める。
「貴方……陰陽師ですか」
「左様」
軽薄で飄々とした笑みを浮かべるのに、その瞳だけは、少しも笑っていなかった。
「姫様、あれを手放すなんて命知らずにもほどがありますよ」
「っ……!」
軽い口調なのに、珍しく呆れたような響きが混じっていた。
けれど音羽は、それどころではなかった。
目の前に真白がいる。ただそれだけで、張り詰めていた恐怖が少しずつ解けていく。
喉の奥が熱い。
震えていた身体から、ゆっくり力が抜けていくのが分かった。
怖かった。死んでしまうのではないかと思うほどに。
なのに、白い髪を見た瞬間、不思議なくらい安心してしまったのだ。
真白はそんな音羽の様子へ気付いたのか、ふっと目を細める。
「姫様に触れた瞬間、術式が発動するよう細工してたんですが」
さらりと告げられた言葉に、悠真の眉がぴくりと動く。
思い返せば、年若い娘が陰陽術が掛けられた根付を持っているなど不自然だった。
音羽へ触れた瞬間、指先へ走った鋭い痛み。あれは偶然ではなかった。
真白はゆるりと視線を細める。
「まあ、まさか壊されるとは思いませんでしたけど」
あの部屋にいたのは、音羽の女中と久我家の使用人、当たり前に音羽と悠真のみ。
真白の姿などあるはずがないのに、彼の口からは明確にあの時の出来事が語られた。
知らぬ間に見られていたことを知った悠真は、みるみる内に表情を歪めていく。
「……貴方、最初からこうなると分かっていたんですか」
「ある程度は」
チリン。
鈴が鳴る。
「未来視なんて便利なもの持ってると、嫌でも見えるんですよ」
あの日、真白が突然現れたこと。
見合いの話を知っていたこと。
護身用だと言って根付を渡してきたこと。
全部、最初から分かっていたのだ。
真白は音羽へ視線を向けると、ふっと笑みを和らげた。
「……無事で何よりです、姫様」
その声音だけが妙に優しく、音羽の目からは大粒の涙が零れる。
静かに音羽の前に屈んだ真白は、そっと指先で涙を拭った。
真白の指先で、鈴がもう一度鳴る。
その音を聞いた瞬間、廊下中に漂っていた妖気が、まるで怯えるようにざわついた。
「な……」
目の前の壮絶な光景に、悠真は息を呑む。
あれだけ禍々しい妖気を漂わせていた妖ですら、先程までの凶暴さを失っていた。
白い術式へ押さえ付けられ、低く唸りながら後退している。
真白はそんな様子を一瞥すると、困ったように肩を竦めた。
「全く。人が折角、護身用まで渡していたのに」
真白は妖気渦巻く廊下のど真ん中に立ちながらも、まるで緊張した様子がない。
周囲では札が燃え、異形の妖が唸り声を上げているというのに、本人だけが妙に気怠げだった。
指先で鈴を弄びながら、楽しそうに目を細める。
「貴方……陰陽師ですか」
「左様」
軽薄で飄々とした笑みを浮かべるのに、その瞳だけは、少しも笑っていなかった。
「姫様、あれを手放すなんて命知らずにもほどがありますよ」
「っ……!」
軽い口調なのに、珍しく呆れたような響きが混じっていた。
けれど音羽は、それどころではなかった。
目の前に真白がいる。ただそれだけで、張り詰めていた恐怖が少しずつ解けていく。
喉の奥が熱い。
震えていた身体から、ゆっくり力が抜けていくのが分かった。
怖かった。死んでしまうのではないかと思うほどに。
なのに、白い髪を見た瞬間、不思議なくらい安心してしまったのだ。
真白はそんな音羽の様子へ気付いたのか、ふっと目を細める。
「姫様に触れた瞬間、術式が発動するよう細工してたんですが」
さらりと告げられた言葉に、悠真の眉がぴくりと動く。
思い返せば、年若い娘が陰陽術が掛けられた根付を持っているなど不自然だった。
音羽へ触れた瞬間、指先へ走った鋭い痛み。あれは偶然ではなかった。
真白はゆるりと視線を細める。
「まあ、まさか壊されるとは思いませんでしたけど」
あの部屋にいたのは、音羽の女中と久我家の使用人、当たり前に音羽と悠真のみ。
真白の姿などあるはずがないのに、彼の口からは明確にあの時の出来事が語られた。
知らぬ間に見られていたことを知った悠真は、みるみる内に表情を歪めていく。
「……貴方、最初からこうなると分かっていたんですか」
「ある程度は」
チリン。
鈴が鳴る。
「未来視なんて便利なもの持ってると、嫌でも見えるんですよ」
あの日、真白が突然現れたこと。
見合いの話を知っていたこと。
護身用だと言って根付を渡してきたこと。
全部、最初から分かっていたのだ。
真白は音羽へ視線を向けると、ふっと笑みを和らげた。
「……無事で何よりです、姫様」
その声音だけが妙に優しく、音羽の目からは大粒の涙が零れる。
静かに音羽の前に屈んだ真白は、そっと指先で涙を拭った。

