嘘言〜声を失った姫と嘘つき陰陽師の邂逅〜

 やがて、ギリッと強く奥歯を噛みしめると、低く押し殺した声を発する。

「……陰陽師」

 その呼び方から、夜鷹の中での真白の立場が腹立つほどに区分化されているのが分かった。
 愛想笑いを作る気すら失せて、真白は気怠げに視線を向ける。

「貴様、一体何処まで橘を調べた」

 探るような問いに、真白は一瞬だけ目を細める。
 そして次の瞬間には、いつもの胡散臭い笑みを浮かべていた。

「何処まで、とは?」
「誤魔化すな」

 ぴしゃりと言い捨てられる。
 室内の空気が僅かに軋み、夜鷹の顔には明らかな苛立ちが浮かんだ。
 けれど、真白は怖気付くどころか、面白そうに喉を鳴らす。

「ああ、なるほど」

 真白は夜鷹を見上げたまま、くつくつと喉を鳴らす。
 まるで今になって、相手が何を警戒しているのか気づいたと言わんばかりだった。

「自分の正体がバレてるか気になるんですね」

 その瞬間、夜鷹の目が鋭く細まる。
 空気が変わった。
 今まで抑え込まれていた“何か”が、一瞬だけ漏れ出す。人ではないものの気配。ぞわり、と肌を撫でる異質な圧に、普通の陰陽師なら顔色を変えていただろう。
 だが、真白は笑うだけだった。

「いやあ、隠す気があるのかないのか分からないんですよ、貴方」

 悪びれる様子もなく言い切る。
 普通なら隠し通そうとする秘密を、まるで大したことではないように暴いてしまうその態度に、夜鷹は握っていた手を僅かに開いた。

「妖気、かなり漏れてますし」

 夜鷹は答えない。沈黙が肯定代わりだった。
 真白は机の端へ腰掛けながら、指先で鈴を弄ぶ。
 チリン、と鈴が静かに鳴る。
 真白は細めた瞳で夜鷹を見据えたまま、まるで既に答えを知っていることを確認するような口調で続けた。

「人間と妖の間に産まれた忌み子。だから声を奪われた」

 チリン。

「橘家はそれを隠したかった」

 チリン。

「そして父親である貴方は、娘を閉じ込めた」

 一体どれだけの人間が、音羽は人間と妖の間に産まれた子であると知っているのだろう。
 声が出せないのは呪によるもので、本人が一番苦しみを抱いていることに気づいているのは、きっと誰もいない。

「……まあ、半分くらいは同情してますよ」
「黙れ……」
「妖と人の間に子を作るなんて、随分と酔狂だ」
「黙れと言っている」

 先程まで辛うじて抑え込まれていた感情が、今にも溢れ出しそうになっている。
 室内の空気が微かに軋み、びり、と障子が震えた。

「愛でもあったんですか?」

 その問いに、夜鷹は真白から見えない位置で開いた手を勢いよく前に突き出した。