女中が背を押すがままに部屋の中に足を踏み入れるが、音羽は思わず顔を顰めてしまった。
薄暗い室内、焚かれた香の匂いが耐え難い空間の中央に一人の少年が静かに座っている。
白い肌。
病的なほど細い身体。
長い指先で湯呑みを持ちながら、こちらを見ている。その瞳だけが、不自然なほど昏かった。
「……初めまして」
少年──久我悠真は、ゆるりと口角を上げる。
「貴方が、呪われた姫君ですか」
初対面だというのに、挨拶より先に向けられた言葉はそれだった。
呪われた姫。
まるで珍しい見世物でも前にしたような声音に、音羽の指先がぴくりと震える。
女中に促されるまま、悠真と向かい合う位置へ静かに腰を下ろした。
宗一郎が音羽の前に湯呑みを置き、見合いが始まる。音羽は悠真の目を見ず、視線を膝の上に落としていた。
頭から下まで舐め回すように見られている。悠真から向けられる視線が不快で堪らない。
「随分と綺麗だ」
悠真は感心したように目を細めた。
「もっと痩せ細った娘を想像していました」
「……」
「声が出ないだけで、こうも違うものなのですね」
まるで品物の状態を確認するような言い方だった。
やはり変わらない。家族だろうが、見合い相手だろうが同じ。声が出せないと言うだけで、見る目を変えてくる。
これまでに何百回と見てきた視線に当てられ、音羽は着物の袖をぎゅっと握り締めた。
逃げたい。
この部屋に入った瞬間からずっと、胸の奥がざわついて落ち着かない。
香の匂いも。
薄暗い空気も。
悠真の視線も。
全部が気味悪かった。
「聞いておりますよ」
湯呑みを置き、悠真はゆっくりと身を乗り出す。
最早人間のなのか怪しい光のない目をこれでもかと見開き、怯えを隠せない音羽を真っ直ぐと見つめた。
「声を失った忌み子だとか」
「……っ」
その瞬間、部屋の空気がぴたりと止まった気がした。
女中達は何も言わない。止めようともしない。まるで、それが当然の話題であるかのように黙っている。
「安心してください」
悠真は怯えたように肩を震わせる音羽を見て、くすりと喉を鳴らした。
まるで、予想通りの反応だとでも言いたげに。
逃げ場のない部屋
閉ざされた襖。
幾つもの視線。
その全てが音羽を追い詰めるように重く圧し掛かっていた。
「僕は理解があります」
悠真は穏やかに微笑んだ。けれど、その笑みを見た瞬間、音羽の背筋に冷たいものが走る。
違う。
この男は、何も理解していない。否、理解しようともしていない。
昏い瞳が見つめているのは、音羽という人間ではなかった。
声を失った娘。
忌み子。
その“異質さ”だけを興味深そうに眺めている。
じっとりと絡みつく視線に、音羽は無意識の内に身を縮こまらせた。
「少し、近くで見ても?」
「!!」
返事を待つこともなく、悠真が手を伸ばしてくる。
白く細い指先が、逃げるより先に音羽の顎へ触れた。
薄暗い室内、焚かれた香の匂いが耐え難い空間の中央に一人の少年が静かに座っている。
白い肌。
病的なほど細い身体。
長い指先で湯呑みを持ちながら、こちらを見ている。その瞳だけが、不自然なほど昏かった。
「……初めまして」
少年──久我悠真は、ゆるりと口角を上げる。
「貴方が、呪われた姫君ですか」
初対面だというのに、挨拶より先に向けられた言葉はそれだった。
呪われた姫。
まるで珍しい見世物でも前にしたような声音に、音羽の指先がぴくりと震える。
女中に促されるまま、悠真と向かい合う位置へ静かに腰を下ろした。
宗一郎が音羽の前に湯呑みを置き、見合いが始まる。音羽は悠真の目を見ず、視線を膝の上に落としていた。
頭から下まで舐め回すように見られている。悠真から向けられる視線が不快で堪らない。
「随分と綺麗だ」
悠真は感心したように目を細めた。
「もっと痩せ細った娘を想像していました」
「……」
「声が出ないだけで、こうも違うものなのですね」
まるで品物の状態を確認するような言い方だった。
やはり変わらない。家族だろうが、見合い相手だろうが同じ。声が出せないと言うだけで、見る目を変えてくる。
これまでに何百回と見てきた視線に当てられ、音羽は着物の袖をぎゅっと握り締めた。
逃げたい。
この部屋に入った瞬間からずっと、胸の奥がざわついて落ち着かない。
香の匂いも。
薄暗い空気も。
悠真の視線も。
全部が気味悪かった。
「聞いておりますよ」
湯呑みを置き、悠真はゆっくりと身を乗り出す。
最早人間のなのか怪しい光のない目をこれでもかと見開き、怯えを隠せない音羽を真っ直ぐと見つめた。
「声を失った忌み子だとか」
「……っ」
その瞬間、部屋の空気がぴたりと止まった気がした。
女中達は何も言わない。止めようともしない。まるで、それが当然の話題であるかのように黙っている。
「安心してください」
悠真は怯えたように肩を震わせる音羽を見て、くすりと喉を鳴らした。
まるで、予想通りの反応だとでも言いたげに。
逃げ場のない部屋
閉ざされた襖。
幾つもの視線。
その全てが音羽を追い詰めるように重く圧し掛かっていた。
「僕は理解があります」
悠真は穏やかに微笑んだ。けれど、その笑みを見た瞬間、音羽の背筋に冷たいものが走る。
違う。
この男は、何も理解していない。否、理解しようともしていない。
昏い瞳が見つめているのは、音羽という人間ではなかった。
声を失った娘。
忌み子。
その“異質さ”だけを興味深そうに眺めている。
じっとりと絡みつく視線に、音羽は無意識の内に身を縮こまらせた。
「少し、近くで見ても?」
「!!」
返事を待つこともなく、悠真が手を伸ばしてくる。
白く細い指先が、逃げるより先に音羽の顎へ触れた。

