全部、真白が口で言ったものは嘘なのだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
さらってあげるっていったの うそ
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ほんの少しだけ、期待してしまった。
碌でもないものばかりが待っているとしても、外に出てみたい。
そして、忌み子と知っても蔑むこと無く、声が出せないならと共に筆談してくれた真白が攫ってやると言った。
初めて存在を認めてくれた真白にならば攫われてもいい。否、真白に攫われたいとさえ思ってしまった。
「言ったでしょう」
部屋の中央からゆったりと歩み寄ってくると、静かに膝を折る。
そして、そっと音羽に覆い被さるようにして壁に手を着いた。
「迎えに来れるかどうかは、保証できないと」
これも嘘ならば、本当は逆。
「一々逆の意味を考えて話すのって面倒なんですよ」
音羽の後頭部に手を回して抱き寄せると、文机の上に転がっていた筆でささっと真実を記す。
静かに音羽を座らせると、殴りがいた和紙を目の前に突き付けた。
そこに書かれていたのは。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺と共に逃げよう
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
たった一言書かれただけなのに、どうしてかその一文が目に焼き付いて離れなかった。
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一週間後 姫様は見合いをすることになる
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
みあいって
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
好きでもない男と結婚させられるということです
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包み隠すこともせず、紙の上には到底言葉にはできない言葉が並んだ。
筆談だからこそ語れる真実。
真実を口にできない真白が紙の上に綴るものは、真実なのである。
「……!」
好きでもない男と結婚させられるなど、教えられなくとも嫌。
声に出せない代わりに強く首を横に振ると、真白はすぐに綴る。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
姫様は選ばなければならない 好きでもない男と結婚するか
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ただ、知らない外の世界を知りたいだけだった。
誰も忌み子だと蔑むこと無く、声を出せないのは異常だと罵ることもない世界。
普通の人生とやらを歩んでみたかった。
自由に外に出たい。色んな所を走り回りたい。たくさん誰かと話したい。声に出したい。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全てを捨てて自由を選ぶか
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
橘の名。
姫としての立場。
今まで生きてきた場所。
真白は一切誤魔化さず、甘い言葉で誘おうとしない。まるで、音羽が本当に耐えられるのか試しているように。
音羽は和紙を見つめたまま、小さく息を呑む。
すると真白は、さらに筆を走らせた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
追手も来るでしょう 見つかれば 今より酷い目に遭う
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その酷い目というものが何を指しているのか、分からないほど音羽も馬鹿ではない。
今までずっと蔑まれてきたのだ。唯一信じていた女中にすら見捨てられ、ようやく呪に理解を示してくれたと思った父は屋敷から追い出そうと企んでいて。
何もかも嘘に塗れた世界に生きていたのだと、真白に出会って気づいてしまったのだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ましろとにげる
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
先の一文の下にそう続けて書くと、視界の端にあった真白の筆の動きが止まった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
さらって わたしを
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
泣き出しそうになるのを堪えて背後を振り返れば、そこにいた真白は目を見開いて固まった。
それからふっと小さく笑うと、筆を置いて腕を回した。
「仰せのままに」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
さらってあげるっていったの うそ
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ほんの少しだけ、期待してしまった。
碌でもないものばかりが待っているとしても、外に出てみたい。
そして、忌み子と知っても蔑むこと無く、声が出せないならと共に筆談してくれた真白が攫ってやると言った。
初めて存在を認めてくれた真白にならば攫われてもいい。否、真白に攫われたいとさえ思ってしまった。
「言ったでしょう」
部屋の中央からゆったりと歩み寄ってくると、静かに膝を折る。
そして、そっと音羽に覆い被さるようにして壁に手を着いた。
「迎えに来れるかどうかは、保証できないと」
これも嘘ならば、本当は逆。
「一々逆の意味を考えて話すのって面倒なんですよ」
音羽の後頭部に手を回して抱き寄せると、文机の上に転がっていた筆でささっと真実を記す。
静かに音羽を座らせると、殴りがいた和紙を目の前に突き付けた。
そこに書かれていたのは。
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俺と共に逃げよう
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たった一言書かれただけなのに、どうしてかその一文が目に焼き付いて離れなかった。
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一週間後 姫様は見合いをすることになる
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みあいって
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好きでもない男と結婚させられるということです
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包み隠すこともせず、紙の上には到底言葉にはできない言葉が並んだ。
筆談だからこそ語れる真実。
真実を口にできない真白が紙の上に綴るものは、真実なのである。
「……!」
好きでもない男と結婚させられるなど、教えられなくとも嫌。
声に出せない代わりに強く首を横に振ると、真白はすぐに綴る。
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姫様は選ばなければならない 好きでもない男と結婚するか
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ただ、知らない外の世界を知りたいだけだった。
誰も忌み子だと蔑むこと無く、声を出せないのは異常だと罵ることもない世界。
普通の人生とやらを歩んでみたかった。
自由に外に出たい。色んな所を走り回りたい。たくさん誰かと話したい。声に出したい。
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全てを捨てて自由を選ぶか
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橘の名。
姫としての立場。
今まで生きてきた場所。
真白は一切誤魔化さず、甘い言葉で誘おうとしない。まるで、音羽が本当に耐えられるのか試しているように。
音羽は和紙を見つめたまま、小さく息を呑む。
すると真白は、さらに筆を走らせた。
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追手も来るでしょう 見つかれば 今より酷い目に遭う
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その酷い目というものが何を指しているのか、分からないほど音羽も馬鹿ではない。
今までずっと蔑まれてきたのだ。唯一信じていた女中にすら見捨てられ、ようやく呪に理解を示してくれたと思った父は屋敷から追い出そうと企んでいて。
何もかも嘘に塗れた世界に生きていたのだと、真白に出会って気づいてしまったのだ。
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ましろとにげる
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先の一文の下にそう続けて書くと、視界の端にあった真白の筆の動きが止まった。
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さらって わたしを
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泣き出しそうになるのを堪えて背後を振り返れば、そこにいた真白は目を見開いて固まった。
それからふっと小さく笑うと、筆を置いて腕を回した。
「仰せのままに」

