嘘言〜声を失った姫と嘘つき陰陽師の邂逅〜

 怒るでもなく、憐れむでもなく、ただ、興味がないと言わんばかりに言い切る。
 誰よりも他人から命令されることを嫌いそうなのに、父に言われてここまで来て。
 陰陽師でありながら呪いは解けぬと現実を見せてきたり。
 かと思えば、外の世界は碌でもないと言いつつ逃げるかと聞いてきたり。
 音羽は思わず真白を見上げ、その先を見透かそうとした。
 理解できなかったのだ。
 この男は、本当に何を考えているのだろう。
 音羽が忌み子だと知っても態度を変えない。
 呪いを恐れない。
 橘の名すら気に留めない。
 まるで最初から、“そんなこと”は問題ではないと知っているように。
 真白はそんな音羽の視線に気付くと、ふっと口元を緩めた。

「どうします?」

 選択を迫るようでいて、矯正する響きのない静かな声。
 だからこそ、音羽は返答を失った。そんなこと考えたこともなかったから。
 ここから出るか。
 それとも、このまま留まり続けるか。
 生まれて初めて突き付けられた問いに、音羽の指先が微かに震える。

「このまま此処で朽ちますか」

 返答を迷うように伏せられた視線を追うように、真白がゆっくりと身を屈める。
 そして、しなやかな指先がそっと音羽の顎に触れた。

「……っ」

 びくりと肩が跳ねる。
 逃げるように顔を逸らそうとしたが、真白はそれを許さない。
 強引ではない。けれど、有無を言わせぬ静かな力で、音羽の顔を持ち上げる。
 自然と視線が絡んだ。
 切れ長の瞳が、真っ直ぐに音羽を映している。
 こんなにも近くで誰かと目を合わせたことなど、ほとんどなかった。
 誰かが目を逸らさずに見てくれることもなかった。
 逃げたいのに、逸らせない。
 真白はそんな音羽を見つめたまま、ふっと目を細める。

「それとも――俺と、嘘みたいな世界を見に行きますか」