「───っは!」
突如として開けた視界。底に広がる見知らぬ天井に意識が鮮明になる。
「こ、こは……」
随分と長い間眠っていた気がする。目だけを動かして辺りを見てみると、何処かにある家の一室のようだ。
何故こんな場所で寝ていた?
確か、村で迷子だった駿太郎を無事親元に帰し、帰り道で骨喰から襲撃されて……。
そうだった。骨喰から攻撃されて、負傷した影裂を助けるために血を与えたのだ。
(それから私は……一体)
左腕を刀で切って影裂に血を吸わせてから、自分はどうなったのか。
思い出そうとしても、抜け落ちたようにそれからの記憶がない。意識を失って今に至るのだろうことは想像できた。
「え───」
寝起きでぼんやりとする頭を振りながら起き上がった時、目に飛び込んできた光景に目を疑った。
「影、裂さん……?」
深雪が寝ていた布団の脇に控えるように座り、静かに目を閉じる影裂がいた。
耳を澄ませば、微かな寝息が聞こえる。
初めて見る彼の寝顔だ。鬼の本能を殺して生きる彼は、やはり人間のようにしか見えない。異能を使わず、目の色を変え、角を隠していれば人間と何ら変わりない。
「……ん、寝ていたか。………は、み…ゆ……?」
「お、おはよう…ございます」
口に出してから、自分でも妙だと思う。状況も分からないまま、挨拶など。
けれど、それ以外に何を言えばいいのか分からなかった。
しばらく、影裂は状況が飲み込めていない様子で目を瞬かせる。それから、はっと我に返った。
「た、体調は。気分はどうだ」
「たくさん寝たからか、すっかり良くなりました。なんだか、口の中が苦いですけど」
前屈みで問うた影裂は、深雪の返事にほっと胸を撫で下ろした。
「そうか、良かった……」
噛み締めるようにそう言うと、再び畳の上に座る。そしてぐったりと項垂れた。
「影裂さん?」
「いや、このまま目覚めぬかと思うと気が気でなくてな。……はあ、良かった」
息を吐くようにして言ったその言葉は、裏側に「死んでいたらどうしよう」という不安が滲んでいた。
元はと言えば、骨喰との交戦によって負った傷を癒やすために深雪の血を使ったから。本能に抗って拒んでいれば、こんなことにはならなかったのに。そう影裂は自身を責めていたのである。
「あの、勝手に寝ていて悪いのですが、ここは一体何処なのでしょう?」
「おーおー、起きたみたいやなぁ」
「おき、てる」
深雪の問い掛けを遮るように勢いよく障子が開いた。外からそよ風と共に光が差し込む。
「はえっ? だ、だだだだ誰ぇ!?」
「こいつとちょーーーーー仲が良い友人です」
「違う」
「ちがぁう」
突然現れた二十代程の男と、五、六歳程の少女が当たり前のように部屋に入ってきた。
あの影裂が警戒していない。同族の骨喰にすら殺意を向けていたというのに。
「ま、お巫山戯はこんくらいにして。君のことはこいつから聞いとる。深雪ちゃんやね」
「え……何、どういう」
「こいつ等のことは一旦放っておいていい。先に何があったのか説明しよう」
先程の焦ったり安堵したりと感情豊かだった男とは思えないほど、冷たい態度で一蹴した。

