結局、駿太郎の無邪気さに流れるまま、三人は横並びで歩き出した。
繋がれた手は思っていたよりもずっと強く、確かで。振り解こうと思えば、きっとできる。
(……離したくないなぁ)
ふと、そんな感情が胸を過ぎる。
理由は分からない。意味も、きっとない。
それでも、隣にある温もりを確かめるように、ほんの少しだけ握る力を強めた。
「おじさんはー、おねえちゃんのことすきなのー?」
「ごふぅっ!?」
子供というのは、中々どうして真っ直ぐ過ぎる。
誰が村の中を歩いている時に、好いているかどうか問われるなどと思ったことか。
「すき、とは?」
「ああああ! 隙! 隙だらけってことだよねぇー!? 私ってばすぐ油断しちゃうから隙だらけだって言われちゃうんだなー。あはは」
「文法がおかしくないか?」
「おねえちゃん、ちがうよ。ぼくがきいたのはこいびとっ───」
「そこまでぇ!」
空いていた右手で駿太郎の口を覆う。これ以上好き勝手に言わせるわけにはいかない。
というより、影裂に聞かれるわけにはいかないのだ。
「あっ、見て見て! 行きたがっていたのってあの川のこと?」
「わあっ!! ついたー!」
駿太郎が声を弾ませる。
目の前には、陽の光を受けてきらめく川が広がっていた。
透き通る水が、さらさらと流れている。
「走ると危ないよー」
深さは駿太郎の足首程。流れも然程速くはない。
ここは自由にさせてやるべきだと、無理に走り出した駿太郎を追いかけようとはしなかった。何かあれば、影裂がいるから大丈夫というのが本心ではあるが。
「わあ……」
遅れて河原に足を踏み入れると、目の前に広がる光景に思わず声が零れた。
深雪はゆっくりと川に近づき、そっと手を伸ばす。指先が水面に触れた。
「……冷たい」
指先から伝わった感触は、思っていた以上に鋭かった。
肌に触れた瞬間、ひやりとした冷気がすっと這い上がり、腕の奥まで沁みてくる。
流れる水は絶えず形を変えながら、容赦なく熱を奪っていく。
じっとしていればいるほど、その冷たさは深く、確かに残った。
「ね! つめたいでしょ!」
駿太郎は嬉しそうに声を弾ませると、そのまま迷いなく川の中へと踏み込んだ。
ぱしゃり、と水が跳ね、裾がみるみる濡れていく。
冷たさなど意にも介さず、さらに奥へと進もうとする小さな背中。
「こら、急に入ったら危ないよ」
「へーきだもーん!」
振り返りもせず、駿太郎はそのまま水を蹴って進んでいく。
浅瀬とはいえ、足元の石は丸く滑りやすい。
一歩踏み違えれば、簡単に体勢を崩してしまいそうだった。
それでも駿太郎は気にも留めず、流れに逆らうようにさらに奥へと進もうとする。
その危うい足取りに、深雪は思わず息を呑んだ。
「滑るから気をつけるんだよ」
そう言いながら手を伸ばすと、駿太郎は振り返ってにっと笑う。
「だいじょーぶ!」
根拠なんてどこにもないはずなのに、その声には妙な確かさがあった。
駿太郎は、ぱしゃり、とまた水を蹴る。
その無防備な背中に、思わずため息が零れた。
「もう……」
呆れたように呟きながらも、口元はわずかに緩んでいた。
繋がれた手は思っていたよりもずっと強く、確かで。振り解こうと思えば、きっとできる。
(……離したくないなぁ)
ふと、そんな感情が胸を過ぎる。
理由は分からない。意味も、きっとない。
それでも、隣にある温もりを確かめるように、ほんの少しだけ握る力を強めた。
「おじさんはー、おねえちゃんのことすきなのー?」
「ごふぅっ!?」
子供というのは、中々どうして真っ直ぐ過ぎる。
誰が村の中を歩いている時に、好いているかどうか問われるなどと思ったことか。
「すき、とは?」
「ああああ! 隙! 隙だらけってことだよねぇー!? 私ってばすぐ油断しちゃうから隙だらけだって言われちゃうんだなー。あはは」
「文法がおかしくないか?」
「おねえちゃん、ちがうよ。ぼくがきいたのはこいびとっ───」
「そこまでぇ!」
空いていた右手で駿太郎の口を覆う。これ以上好き勝手に言わせるわけにはいかない。
というより、影裂に聞かれるわけにはいかないのだ。
「あっ、見て見て! 行きたがっていたのってあの川のこと?」
「わあっ!! ついたー!」
駿太郎が声を弾ませる。
目の前には、陽の光を受けてきらめく川が広がっていた。
透き通る水が、さらさらと流れている。
「走ると危ないよー」
深さは駿太郎の足首程。流れも然程速くはない。
ここは自由にさせてやるべきだと、無理に走り出した駿太郎を追いかけようとはしなかった。何かあれば、影裂がいるから大丈夫というのが本心ではあるが。
「わあ……」
遅れて河原に足を踏み入れると、目の前に広がる光景に思わず声が零れた。
深雪はゆっくりと川に近づき、そっと手を伸ばす。指先が水面に触れた。
「……冷たい」
指先から伝わった感触は、思っていた以上に鋭かった。
肌に触れた瞬間、ひやりとした冷気がすっと這い上がり、腕の奥まで沁みてくる。
流れる水は絶えず形を変えながら、容赦なく熱を奪っていく。
じっとしていればいるほど、その冷たさは深く、確かに残った。
「ね! つめたいでしょ!」
駿太郎は嬉しそうに声を弾ませると、そのまま迷いなく川の中へと踏み込んだ。
ぱしゃり、と水が跳ね、裾がみるみる濡れていく。
冷たさなど意にも介さず、さらに奥へと進もうとする小さな背中。
「こら、急に入ったら危ないよ」
「へーきだもーん!」
振り返りもせず、駿太郎はそのまま水を蹴って進んでいく。
浅瀬とはいえ、足元の石は丸く滑りやすい。
一歩踏み違えれば、簡単に体勢を崩してしまいそうだった。
それでも駿太郎は気にも留めず、流れに逆らうようにさらに奥へと進もうとする。
その危うい足取りに、深雪は思わず息を呑んだ。
「滑るから気をつけるんだよ」
そう言いながら手を伸ばすと、駿太郎は振り返ってにっと笑う。
「だいじょーぶ!」
根拠なんてどこにもないはずなのに、その声には妙な確かさがあった。
駿太郎は、ぱしゃり、とまた水を蹴る。
その無防備な背中に、思わずため息が零れた。
「もう……」
呆れたように呟きながらも、口元はわずかに緩んでいた。

