祓えぬ巫女と喰えぬ鬼

 その頃には深雪も歩き出していて、抱えられた駿太郎の顔を覗き込んで微笑んだ。

「一人で走り出したら危ないでしょう?心配したんだから」
「はやくかわにいきたかったから、ごめんなさい」
「そうだったんだね。ちゃんと謝れてえらいえらい」

 ぽんぽんと優しく頭を撫でてやれば、嬉しそうに目を細める。
 子供の頃は、こうして素直に謝れば許してもらえていただろうか。
 心配してくれる人がいて、叱った後は優しく撫でてくれるような人がいただろうか。

「ねえねえ、つぎはさんにんでてをつなごう?」

 影裂に下ろされ地に足を着けた駿太郎が、両手を前に突き出して言う。
 そんな駿太郎を見て、深雪は一瞬、意味を理解できなかった。
 三人で、手を繋ぐ。並んで、歩く。
 それだけのことのはずなのに、不自然にも戸惑ってしまう深雪がいた。

「……え」

 差し出された小さな両手の意味を理解した途端、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
 子供を真ん中にして、左右に並ぶ形。
 それはまるで——

(……親子、みたいな)

 そう思ってしまった瞬間、視線が揺れた。
 そんなはずはないとすぐに打ち消そうとするのに、意識してしまう。
 駿太郎の小さな手と、自身の手を見比べ、そしてもう一度想像してしまった。
 自分と影裂が並んで立つ姿。
 その間で無邪気に笑う駿太郎。
 あり得ないはずの形が、あまりにも自然に思えてしまう。それが怖かった。

「おねーちゃん?」

 小首を傾げて見上げてくる駿太郎を見てもなお、言葉が出ない。
 どう返せばいいのか分からないまま、ただ立ち尽くす。
 ふと、隣を窺った。
 影裂もまた、何も言わずに駿太郎を見下ろしているその横顔からは、感情が読み取れない。
 ただ、駿太郎の提案を拒む気配もなかった。

「ねえねえ!」

 痺れを切らした駿太郎が、ぐいっと深雪の腕を引く。
 微かに涙が浮かんでいたのは、無視されたと感じてしまったからだ。

「いこーよ!」
「あ、ちょっと……」

 抗う間もなく右手を取られ、そして反対の手は、躊躇いもなく影裂の手へと繋がれた。
 しっかりと力を込めて握ると、駿太郎は満足気な表情で前を向いた。両手を見知らぬ男女に握られているというのに、やけに嬉しそうだ。

(私が、誰かと手を繋いでる)

 そう思った時、びくり、と指先が跳ねた。さっきだって駿太郎と手を繋いでいたはずなのに、今は何が違う。
 小さな手に触れた瞬間、確かな体温が伝わった。
 離そうとするよりも先に、駿太郎が満足げに笑う。

「これでいっしょだね!」

 そのまま、ぐいぐいと前へ引っ張っていく。
 ここまで強引にされると、歩き出すしかない。
 逃げ場はなく、ただその流れに乗るしかないようだった。