祓えぬ巫女と喰えぬ鬼

 こういう村には、事件や近々開催される祭りの情報、安くなっている野菜の情報などが掲げられた掲示板があるのが常。
 一先ずその掲示板を探そうと、三人は村を練り歩いた。
 が。

「ないな」
「ないですね」
「ないよ」

 特売の情報は愚か、掲示板自体がこの村にはないらしい。
 あっという間に村を一周してしまった三人は、村の入口で寂しく突っ立っていた。

「ねえ、駿太郎君。お母さんはどんな人?」

 こうなれば、駿太郎の口から母親の特徴を聞き出して探すしかない。

「えーっとねぇ。大きくて、怖くて、大きくて、大好き!」
「そ、そっかぁ……」

 そんな気はしていた。
 二回も大きいことを言う必要があったのかは分からないが、子供が気にするのはそういう分かりやすいものばかり。
 それでも、歩きながら駿太郎はぽつぽつと答えていた。
 駿太郎を挟むようにして深雪と影裂は歩く。小さな駿太郎の左手は、しっかりと深雪が握っていた。

「つかれた……」
「だいぶ歩いたもんね。少し休もっか」

 丁度いい所に家屋のない広場があった。
 大きな松の樹が真ん中に悠然と立っており、その下には涼し気な木陰がある。
 誘われるように広場に入ると、木陰に円の形で三人は座った。

「駿太郎君にいいものをあげる」

 細い草を数本摘み取り、指先で編み始めた。
 慣れた手つきで、くるり、くるりと輪を作る。

「はい、できた」
「わあっ! かんむりだ!」
「お母さんが見つかるおまじないだよ。これでもう大丈夫」
「ありがとう。おねえちゃん」

 頭の上に乗せられた草の輪を見ながら、駿太郎は無邪気に笑う。
 何も知らない純粋無垢な子供だからこそ、目の前のことに喜び悲しむのだ。
 草の輪を編んだ娘が家族から虐げられてきたことも、男が人を喰らえない鬼であることも、駿太郎は何も知らない。
 そう、あの時の子鬼も深雪が妖祓いの巫女であることなど知らなかった。

「……っ」

 指先が震える。視線を落として両手を見れば、真っ赤に染まっていて。

「どうした」
「い、いえ……」

 低い声が聞こえて一度瞬きをすると、少し泥で汚れた両手があった。
 泣いていた小さな鬼。
 無邪気に笑っていた顔。
 同じように草を編んで、渡したこと。
 そして、血に濡れたその後が脳内で蘇る。

「おねえちゃん、おねえちゃん」
「ん、なあに?」

 蘇るあの時の記憶を掻き消すように、駿太郎の幼い声が聞こえた。
 落としていた視線を彼に向けると、好奇心に満ちた大きな瞳を深雪と影裂へと向けている。

「おねえちゃんたちは、ふーふ? それともこいなか?」
「はあっ!?」

 深雪の叫び声が広場中に響き渡った。

「な、ななななななんで! ちっ、違う! 何処でそんな言葉覚えたの!」
「おかあさんがいってたよ。わかいおとこのひととおんなのひとがわらってるのは、あいしあっているからだって」
「条件が広すぎない!? 違う、私達は違うからね!」
「ちがうのー? じゃあ、ふたりはどうしていっしょにいるの?」

 時が止まった。
 単なる子供特有の質問攻めであるはずなのに、最後の問いは触れてはならない一本糸に鋏を向けた。