探偵研究部。――カケラノセカイ―― ① うわさの新入生を追え!

 小川、平屋、未知は、生徒会室に昨日はたき落とされた部誌を、新たに書き加えて持って行った。

「ほら、実績なら、あるぜ」

 そこには、探偵研究部が顧問の先生にも協力を求め、テニス部に無事に藤崎ななみが入部したことが書かれていた。

「お前たち、規律規律の前に、生徒会として、一人一人が学校で楽しくやっているかとか、考えたらいい。俺たちの部活だって、まんざらじゃないってことだ」

 マタロウは、苦々しい顔をして、部誌を眺めた。
 しかし、ある欠点を見つけていた。

「まあ、お前たちにしては、よくやった、と褒めておこう」

 含みのある言い方に、小川の眉がピクリと動いた。

「しかし、この藤崎ななみは、残念ながら『噂の新入生』ではない。お涙頂戴のお話としてはいいだろうが、実績としてはなあ? まだ、噂の新入生のことが、ぜんぜん解決してない! これが解決できなければ、残念だが……」

 マタロウは、右手で首を絞めるようなジェスチャーをしながら、芝居がかって言う。

「廃部だ」

 即座にガタン! と小川は、マタロウの会長机を叩いた。
 小川は、怒りを込めた目をしていた。
 分かりやすい挑発に、分かりやすく乗りそうな小川の様子を見た平屋と未知は、思わずガシッと左右から小川の腕を掴んだ。

 平屋は、表情を殺して低い声で言う。

「……わかりました。では、実績で、お見せします」

 そう言うと、すぐさま生徒会室を後にした。

「しっかりした後輩で、良かったな! 小川!」

 という嘲りが廊下に聞こえていた。


   ******


 部室に戻ると、

「あんの野郎!! 今度の今度はマジでムカついた!」

 そう言って、小川はごちゃごちゃの部室の棚の古びたクッションをサンドバック代わりに叩く。
 平屋は、その様子に安堵の表情を浮かべた。

「あー。暴力沙汰にならなくて、良かった」

 未知は静かに、部室の棚の中から一冊の部誌のノートを取り出し、読み始めた。
 そんな未知の落ち着いた様子に、頭の血がおりた小川は言う。

「あ、それ、面白いだろ」

 と、持ち前の明るさを取り戻して自慢げだ。

「まあ、でもマタロウの言うとおり、まだ月を名乗る噂の新入生がわからないよな。さっさと解決させようぜ」

 と平屋の手元のタブレットを一緒に覗く。

「月……月……」

 未知は、虚空を見ながら静かに呟く。

 未知が顔を上げた先には、壁掛けのカレンダーがあった。
 未知の青みかかった光の強い目に、さらに光が集まるようだった。

 そして、また凛とした声で言った。

「みなさん、月に意味があることに、気づきましたか? ほら、カレンダーに卯月と書いてある」
 
 小川と平屋が顔を上げてカレンダーを見ると、『四月』の文字の隣に、確かに、『卯月』と表示されていた。

「これは、一月から十二月の別の言い方。つまり、和暦の月です。
 順番に追いましょう」

「和暦の月?」

 小川は、きょとんとした顔で未知を見つめた。
 
 平屋が『和暦の月』とタブレットに入力していく。

「睦月・如月・弥生・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走」

平屋が、タブレットで和暦の月を調べるが、小川は声を上げた。

「氷月ってなんだ? 聞いたことないぞ?」

「あ、先輩。それ十二月。師走の他の言い方らしいです」

 と平屋がタブレットを指す。
 
 小川は、カレンダーを外してこれまで集めた情報を、和暦の月と照らし合わせながら、整理し始めた。

「バスケ部、水無月。美術部、卯月」

 未知は、カレンダーを裏にしてキュッとサインペンを取り出し、一月から十二月までの和暦の月を書き出した。
 
 ところどころ空欄の名前がある。

   一月(睦月)

   二月(如月 六花):サッカー部

   三月(弥生)

   四月(卯月 風月):美術部

   五月(皐月)

   六月(水無月 美月):バスケ部

   七月(文月)

   八月(葉月)

   九月(長月 琴葉):弓道部

   十月(神無月)

   十一月(霜月)

   十二月(氷月 茉白):陸上部

「この部誌のノートの研究によると『犯人は、必ず現場に戻る』と書いてあります。つまり、この噂の新入生が『一番初め』に現れた部活こそ、もう一度、彼女が戻ってくる部なんじゃないでしょうか? 彼女にとっての『一番初め』。そこを見つければ、彼女に出会えるかもしれません」

 小川と平屋は、未知の言葉に、紙を覗き込んだ。

「各部で彼女が名乗った名前を探り出して、『一番初め』を探しましょう!」

 うなずいた三人は、また部室を飛び出した―ー