探偵研究部。――カケラノセカイ―― ① うわさの新入生を追え!

 次の日、放課後の探偵研究部の部室で、小川は平屋と未知に言った。

「今日はテニス部に行くぞ。『藤崎ななみ』を探そう」

 平屋はうなずいて、

「そしたら、小川先輩はテニス部の田代先輩に、藤崎ななみさんについてもう少し詳しく彼女のことを聞いてみてください。どんな様子だったとか。
 僕と未知は、学校を回って、その藤崎ななみさんを探します」

 ここで三人はそれぞれの場所へと向かった。
 テニスコートでは、すでに田代が素振りをしている。
 小川は、金網越しに手を振り声をかけた。

「田代! なあ、見学に来ていた、藤崎ななみって子、もう少し詳しく教えてくれ。どんな様子だったとか、何か探していたとか、覚えてることなんでもいい!」

 田代は、近づいて行き、

「どんなって……。そうだなあ」

 校舎の大時計を見た。

「あ、思い出した。初めて仮入部に来た日のことだけど、彼女結構時計を見てた。そこの大時計をちらちら見てて、時々、ボール取りこぼしていたっけ」

 指している時間は、今は三時三十分。

「それから、四時になって『今日はこれで帰ります。ありがとうございました』って早口で挨拶して、さっさと走って帰って行った。それっきり。
 ……私はまた来てくれるのを待っているのに」

 田代の話を聞きながら、小川は、藤崎ななみがなぜ時間を気にしているのか、そして下校の時間を待たずに足早に帰ったのか、気になった。
 もし藤崎ななみが「噂の新入生」なら、月の名前の偽名を使って、どこか別の部活へ移動するためなのかもしれない。

 その時、小川のスマホに平屋から電話が入った。

「藤崎ななみさんを見つけました! 今、未知が追いかけてる。グラウンドの方に向かってます!」

 小川は、すぐさまグラウンドに向かった。
 そこには、平屋と未知が、藤崎ななみを追いかけている姿があった。

「待ってくれ!」

 小川も即座にダッシュした。

******

 小川、平屋、未知の追跡に、藤崎は、とうとう根をあげて、校舎裏の大樹に背をあずけて息をきらしている。

「あなた、すごく足が早いですね。驚きました。あなた、一体誰なんですか? 水無月さん? 卯月さん? 如月さん?」

 息を切らした未知が言う。

「でもどうして、私たちから逃げるんですか? それから決まった部活動に入らないんですか?」

 と矢継ぎ早に聞く。
 藤崎は、観念したように、うつむいた。

「……テニス部、本当は入りたいんです。でも、家族の事情で、諦めないといけない」

 藤崎は大きく肩で息をしてから、落ち着いたように、静かに話し始めた。

「母が、病気で……早く帰んなくっちゃいけなくて……」

 意外なほど重いその言葉に、三人は言葉を失った。

「本当は部活に入りたい。テニス部に入ってみたい。
 でも、母の看病のために、どうしても時間が取れなくて……」

 藤崎は、涙をこらえながら、話を続けた。

「だから、せめて仮入部期間だけでも色々な部活を回って楽しみたかった。だけど」

 藤崎は、くやしそうに唇を噛んで、言葉を切った。

「本当は、一番はテニスが好き……。
 また、部長先輩と一緒に部活をしたい。でも、それは無理……」

 小川は、藤崎の言葉を補足するように言った。

「だから、他の部活には偽名を使って、一番好きなテニス部には本名を使ったんだな」

 藤崎は、小川の質問に、思いもかけないような顔をし、そして首を振った。

「私、偽名なんて使っていません! 見学には、自分の名前を書いてました」

 小川と平屋と未知は衝撃を受ける。

(え!! そうなのか!?)

 探偵研究部の推理が根底から崩れた。

(藤崎ななみと噂の新入生は別人だった!)

「藤崎ななみさん!」

 その時、田代みゆきが校舎裏に現れた。
 田代は、グラウンドで追跡されていた藤崎の姿に心配して追いかけてきていた。

「いま、そこで、悪いと思ったけど、事情を聞いた」

「田代先輩……」

 藤崎はまたうつむいて、涙をこぼす。
 その姿をみて、小川はなんだかどうにもやるせなくなった。

「なあ、きみさあ、全部一人で背負わなくてもいいんじゃん? 今みたいに、言ってくれたらさ。相談してくれたらさ、先生だって、俺たちだって、できることあるんじゃない?」

 小川は、照れくさそうに、藤崎に語りかけた。
 藤崎は、小川の言葉に、目を見開いた。

 田代は、その小川の言葉を受け取るように言葉を続けた。

「あなたと仲間になりたい。顧問の先生のところに一緒に来てくれる?」

 田代はにっこりと笑って、藤崎に手を差し伸べた。
 藤崎は、その手を握り、テニス部へ向かって行った。