探偵研究部。――カケラノセカイ―― ① うわさの新入生を追え!

ザッザッと生徒会長という腕章をつけた眼鏡の坊ちゃん刈りの男子生徒を中心に、いかにも堅物そうな集団が、廊下を歩いてくる。
 目的地は、探偵研究部。
 ノックもなしに、ガラっとドアを開けた。

「探偵研究部、おるか!」

 腕組みまでして、あからさまな上から目線を向けるのは、生徒会長の富谷(とみや)マタロウであった。
 その突然の来襲に、いままでの捜査状況をすり合わせしていた三人は一斉に目を向ける。

「おう、なんだ。ついにおでましか」
 
 小川は立ち上がりマタロウに近づき、あえて威圧的な態度で応対する。
 身長は、小川のほうが数センチ高い。

「マタロウ先輩、シークレットシューズ履いてるけど、小川先輩に届いてないよね。かなりつま先立ちしてる」 
「やめてよ、恥ずかしいじゃん」

 マタロウの後ろで、生徒会役員の子たちがひそひそと言っている。
 マタロウはジロ、と後ろを一瞥してから声を張り上げて言う。

「前にも言ったとおり! 明後日は、新入生の部活動本登録の日である! 部員規則は覚えているな?!」

 小川は、耳にタコができるほどその言葉は聞いている。
 しかし今回は、違う。

「ほらいるぞ、目の前に新入生」

 何食わぬ顔で、小川は笑って親指を向けた。
 そこには、戸惑っているような未知がいた。
 (まあ、本登録で入部するかどうかはともかく、今は三人揃ってる。ハッタリも大事だ)

「なんだって!!」

 マタロウが思いもかけない事態に言葉が続かないのをみるや、すかさず生徒会副会長の成瀬今日子(なるせ・きょうこ)が助け船を出すように割って入った。
 鋭いおかっぱ頭の二年生だ。

「部員規則……三名以上の部員で、部の継続は可能」

 ニコリともせず無表情で規則的に言う。
 きょうびAIロボでも少し愛想がいいくらいだ。

 小川は勝利を確信して、平屋と「イエーイ」とピースサインで笑う。

「そして部の活動実績が……」

 と続く細則を述べようとしたが、

「『そして』じゃないだろ! 『しかし』だ!!」
 今度はマタロウが遮った。

「そもそもの活動の実績が伴っていることが絶対条件だ! 
 お前たち! 何か成果を出したか? 女子テニスみたいに県大会とか! ブラスバンドみたいに金賞とか! 放課後の暇つぶしみたいなお遊び部の実績を見せてみろ!」

「だから!」

 小川もいちいち、いちゃもんつけようとしてくるマタロウにイライラした。
 平屋は憮然としながら、部誌を提出した。

「真面目にやってますよ」

 そこには、検証した推理トリックなどのレポートが丁寧に書かれている。
 ふん、とマタロウはそれを一瞥してから、

「ぬるいね!」

 と、部誌をはたき落とす。むかっと平屋が眉間にしわを寄せる。

「昔っから、この部はこの学校のお荷物だ。大して実績もないクセに開校からの歴史だけはありやがる!」

 マタロウは小川と平屋両方に人差し指を立てて言う。

(指を指すな、指を)

 小川は内心突っ込んだ。
 マタロウは、「そうだ!」と閃いたように、ニヤリと笑う。

「探偵研究部ならなあ。今、噂になっている、部活動を総なめにしている新入生! その子が誰なのか突き止めてみろ! お遊び部じゃないと証明してみろ!」

 何度もマタロウに指をさされ、小川もさすがにキレ気味だ。

「だから! 言われるまでもなく、今まさにそれをやってるんだよ!」

 その二人の険悪なやり取りを見ていた未知が静かに言った。

「そして、見つかったあかつきに、あわよくば、生徒会に引き抜く?」

 存在感のある、凛とした声。
 皆が惹きつけられるように、小柄な未知のほうを向いた。

 未知は、不思議と青みかかった瞳で、じっとマタロウを見る。
 その目に一瞬マタロウはうろたえたが、すぐに偉そうな態度を立て直す。

「鋭いねえ! 君、こんな部に入らず、生徒会に来ないか? 有能な子は大歓迎だ」

 ガシッと雑に未知の手を握った。その様子に面食らう未知。

「おい! 何勝手に引き抜こうとするんだよ!」 
「勝手に触んないでください! セクハラだ!」

 小川と平屋は同時に声をあげ、小川がマタロウを未知から引っ剥がす。

「大丈夫か?」

 と平屋は未知に小声でいう。

「うん」

 と言って未知はしげしげ力強く握られた手の跡を見ていた。
 マタロウの方は、

「まあ、挨拶はこんなところだ」

 と言ってかかとを返すかと思ったら、

「わかったな! 実績だぞ! 実績! リミットは明後日だ!」

 と捨て台詞まで残していった。

   ******

「なんなんだよ、あいつ!」

 マタロウが去っても、小川は、苛立ちを隠せない。

「でも、なんか私怨っぽかったですよね? 小川先輩、あの人と何かあったんですか?」

 未知の言葉に、小川はうーん、と唸った。

「あいつとは、古いつきあいなんだよ。昔、幼稚園の頃……」

 小川は、遠い記憶をたどるように、話し始めた。

「俺、カブトムシの幼虫が好きでさ。マタロウが喜ぶだろうと思って、大量にプレゼントしたんだよ」

 未知と平屋は、小川の言葉に耳を傾ける。

「そしたら、マタロウ、虫が大嫌いだったんだ。ん? 他にもあるか? 
 あいつ、幼稚園の担任の先生が好きでさ、庭の花を渡そうとしてたんだよ。もじもじして、渡せなそうだったから、俺が『先生! マタロウくん、先生に花をプレゼントしたいんだってさ!』……その後めちゃくちゃマタロウに無視された。
 あとは、給食のプリン残していた時、『俺食べてやる!』と手伝ったら、喧嘩して。あとは……」

 とそんなのが延々と続く。

「――とまあ、こんな感じで、マタロウに喜んでほしかっただけなのに、なんかうまくいかないんだよ」

 平屋が、ポツリとつぶやいた。

「それは小川先輩、無神経だわ」

 未知は、小川をじっと見つめると、冷静に分析した。

「これは、無意識たらしと、無意識朴念仁のダブルコンボ。罪深い」

「ちょっとー。俺の後輩、なんかきびしくないですか?」

 と小川は苦笑いし、平屋と未知に言った。

「よし! 噂の新入生探し、明後日までになんとかするぞ! 探偵研究部の存続がかかっているんだ! 平屋、頼む」

 平屋は、タブレットでこれまでの情報を整理し始めた。

「バスケ部、美術部、サッカー部、陸上部、弓道部にテニス部。今日行った部活のどの部活でも、噂の新入生は違う名前を名乗ってて、実際の生徒の名簿にはない人間だ。そしてテニス部の『藤崎ななみ』だけ唯一本名で、一年A組だ」

 未知は、平屋の撮った美術部の絵画をじっと見つめている。

「この藤崎って子が、他の部では偽名を名乗って、部活動を総なめにしているんじゃないか?」

 と小川は仮説を立てたところで、六時の下校の放送が流れ、その日の活動は終わった。

   ******

 帰り道、三人で校舎を出てから小川はポツリと言う。

「なんで月の偽名なんだろうな?」

 まだ青い空には白い月がでている。
 平屋と未知も月を見上げた。
 すぐ側でパタパタと軽い足音がして、にぎやかな声が通り過ぎた。

「ほら見て! 月がどこまでも、ついてくるみたいだ」

 ここは小学校も近いから、ランドセルの子どもたちが「追いかけてくる!」と言って笑いながら走って行く。

(――追いかけてくる、ね)

「学校の全部の部活動を『追いかけている』とでも言いたいのかよ?」

 と小川は言うと、平屋と未知は「うーん?」と首をかしげる。
 まあ、とにもかくにも明日だ。

「じゃーな」
「どーも」
「また明日」

 四つ角で手を上げて、三人はそれぞれの帰路に分かれた。