未知も加えて新入生探しに乗り出すことになった三人は、手始めに、一番人気で新入生がよく見学に訪れているというバスケ部へと向かった。
体育館に入ると、さすが「陽キャ」集団の集まりだ。
背の高いイケメンたちが揃ってアイドルばりにキラキラしている。
平屋はちょっと苦手そうに眉をひそめて小川の背中に隠れたが、小川は臆することなくバスケ部の部員に向かって、単刀直入に尋ねた。
「あの、噂の新入生って、どんな子か知ってるか?」
すると、バスケ部員たちはにやにやと笑って、こちらにボールをポーンと投げた。
「ただじゃ教えられないなー」
部長が髪をかき上げるとギャラリーから黄色い声があがる。
「僕たちに勝てたら教えてあげるよ」
副部長も白い歯を見せて、余裕そうに笑顔を向けてきた。
小川たちは、バスケ部と三点先取の三対三(スリー・バイ・スリー)の試合をすることになった。
試合が始まると、バスケ部の独断場と思いきや、小川の身体能力の高さが光る。百七十三千センチの長身は、バスケ部員に引けをとらない。もちろんバスケ部員はそんなことは百も承知で、執拗に小川をマークする。
(さて、どうするか)
ここまでは想定内だった。平屋にパスを送ろうと小川が見回すと、未知がゴール近くの良い場所にいる。
そこで、試しに未知にパスすると、バスケ部員たちは女の子だからと遠慮してゆっくりとカットしに行く。
けれど、ボールを受け取った未知は、意外にも正確なドリブルでゴール下へと向かい、お手本のようなきれいなレイアップシュートを決めた。
小川は平屋に目配せした。
(未知を軸にすれば、勝てるかもしれない)
平屋は、小川からのパスを受け取り、即座に未知へパスする。
未知は、今度は中央から投げるとまたもきれいにシュートが決まった。
次は当然、未知にガードが集まった。
そこで未知が今度は正確に小川にパスを返した。
即座にダッシュしてマークを振り切り小川が見事なダンクシュートを叩き込み、約束通り三点を先取した。
意外なほど、うまく連携が取れたことに内心驚きながら、バスケ部長に向き直る。
「約束だ。教えてくれ」
バスケ部員たちは悔しそうに、
「探偵研究部、すごいな! うちのバスケ部に入らないか?」
小川は笑って、バスケ部からの勧誘を丁重に断った。
「ごめん。それはできない」
バスケ部員たちは、三人の実力を認め、噂の新入生について口々に話し始めた。
「そうそう。あの娘も、三日前に来たばっかりだけど」
「名前は水無月美月。バスケ部の見学、一回だけ来て、あとは見てないよ」
「きょろきょろして、何か探してる様子だった」
「あれ、女子だよね。女子の赤ジャージを着ていた。でも、とにかく走るスピードが速くて。あのスピードで女子とは思えなかったよなー」
なんだかまとまらない感想だった。
「名前は、水無月美月……っと」
平屋は、タブレットにその名前を入力した。
次に、三人は、体育館から近い美術部へと向かった。
「邪魔するよ」
小川は、美術室の扉を開けた。部室の中には、様々な絵画や彫刻が並んでおり、上級生の筆を持つ手先を、何人かの新入生たちも熱心に見学していた。
「噂の新入生は、ここに来たかい?」
小川は、眼鏡の女子の美術部部長に声をかけた。
「噂の新入生? ああ、あの娘の事か……」
部長はそう言うと、三人にイーゼルに立てかけられた一枚の絵画を見せてくれた。その絵画には、絵の具を不規則に撒いたような不思議な模様が描かれている。
「これを書いた子だね。多分」
「一六〇センチくらいの、細身の子?」
小川が尋ねると、部長は「うん」と言った。
「ほかにはなんか特徴なかった?」と聞くと
「そうだね。見学に来た時のことなんだけど。『せっかくだから、何か書いていかない?』 って言ったんだ。
そうしたら、戸惑ったような顔をして、『どうやって書くの?』と聞いてきた。
なんか、はじめは何の絵を描いていいかわからない風だった。だから、言ったんだ。
『なんでもいいよ。果物でも石膏像でも。心の思うように描きなよ』って。
そうしたら、たくさんの絵の具を使い始めて、夢中になって描いている様子だった。そして、この絵をいつの間にか描き上げて、彼女はいなくなってた」
とじっとその絵を見る。
「でも、この絵、なかなかいい絵だよね。気持ちが乗ってて」と言った。
平屋は、美術部長のその言葉に興味を持ったように、タブレットを操作し、写真にその絵を収める。未知も、興味深そうにその絵画をじっと見つめていた。
新入生の名前は、「卯月風月」と見学者名簿に書かれていた。
次に三人は、グラウンドを目指した。
「バスケ部は水無月、美術部は卯月か。平屋、新入生の名簿見られるか?」
小川が尋ねると平屋は一年生の名簿を確認しながら
「ないですね。水無月さんも卯月さんも名簿にはいません」
「そうか。と言うことは、どういうことだ?」と小川は言った。
続くサッカー部では、如月六花。陸上部では、氷月茉白。そして弓道部は、長月琴葉という名前で、見学者の新入生がいたが、やはり実際の生徒名簿には見当たらない。
小川と平屋は仮説を立てた。
――噂の新入生が「月のつく偽名」を使っている。
なぜわざわざ偽名を使っているのか理由は分からないが、月のつく名前を辿っていけば、その彼女に出会えるかもしれない。そんなことを話しているとポーンとテニスボールが小川の足元に飛んできた。小川はそれを拾い、
「次は、テニス部だ!」と言ってテニス部のコートへと向かった。
「おーい田代。ボール落ちてたぞー」と声をかけると
「ごめんごめん!」とポニーテールを揺らしながら駆け寄ってくる女子生徒がいた。
部長の田代美幸。部長会でも会う間柄だ。
「お前のとこの部活、見学の子は来ているか?」と聞けば
「お? 珍しい。探偵活動?」
とテニスボールを小川から受け取りながら、田代は、興味深そうに言った。
「めぼしい子はいたけど、今年は入りたがる子はいないかな」
コートを見ながら、田代は残念がって答えた。
確かに、コートの中には二年生と三年生しかいない。
その言葉に、小川は疑問を口にする。
「何でだ? 去年、お前県大会行っただろ?」
田代は、その言葉に少しびっくりした顔をした。
「覚えてたんだ。さすが探偵部」
「まあな」
遠巻きに二人を見ていた平屋と未知は、二人の間に流れる空気がなんとなく違うことに気づいた。
「平屋先輩。あの二人、付き合ってるんですか?」
こそこそと聞く未知の言葉に、平屋は首を横に振る。
「違う、と思うけど。
田代さんは『学園の姫』だよ!
小川先輩は、だれにでもあんなふうに物怖じしない。さすがコミュ強……」
「ああ……確かに」
どこの部に行っても、小川の質問にはみんな答えてくれていた。
小川は、田代に見学者名簿を見せてもらった。
「サンキュー。あれ、ここには、月のつく名前の子はいないな。田代、めぼしい子ってどの子だ?」
「ああ、この子。――『藤崎ななみ』
筋が良くて、すぐ部にも馴染んだ。本入部には戻ってきて欲しいなあ」
小川は、田代のポニーテールの横顔を眺める。
女子テニス部でも、新入生の入部は一番の関心事のようだ。
そりゃあそうだ。部の存続が掛かっている。
「でもさー、俺たちのとこより、マシだと思うぜ。なにせ、『手伝い』の一人入れてようやく三人だ。」
田代は、平屋と未知を一瞥して、くすっと笑う。
「確かに、あの生徒会長に何か言われそうだね。ありがとう、励ましてくれて!」
田代は、そう言って手を振って練習に戻っていった。
「これが天然タラシというやつ!」
平屋は、なんか恨めしそうにブツブツ言っている。
「知らねーよ」と小川は飄々(ひょうひょう)と返した。
二人のやり取りに、未知は思わずふきだした。
体育館に入ると、さすが「陽キャ」集団の集まりだ。
背の高いイケメンたちが揃ってアイドルばりにキラキラしている。
平屋はちょっと苦手そうに眉をひそめて小川の背中に隠れたが、小川は臆することなくバスケ部の部員に向かって、単刀直入に尋ねた。
「あの、噂の新入生って、どんな子か知ってるか?」
すると、バスケ部員たちはにやにやと笑って、こちらにボールをポーンと投げた。
「ただじゃ教えられないなー」
部長が髪をかき上げるとギャラリーから黄色い声があがる。
「僕たちに勝てたら教えてあげるよ」
副部長も白い歯を見せて、余裕そうに笑顔を向けてきた。
小川たちは、バスケ部と三点先取の三対三(スリー・バイ・スリー)の試合をすることになった。
試合が始まると、バスケ部の独断場と思いきや、小川の身体能力の高さが光る。百七十三千センチの長身は、バスケ部員に引けをとらない。もちろんバスケ部員はそんなことは百も承知で、執拗に小川をマークする。
(さて、どうするか)
ここまでは想定内だった。平屋にパスを送ろうと小川が見回すと、未知がゴール近くの良い場所にいる。
そこで、試しに未知にパスすると、バスケ部員たちは女の子だからと遠慮してゆっくりとカットしに行く。
けれど、ボールを受け取った未知は、意外にも正確なドリブルでゴール下へと向かい、お手本のようなきれいなレイアップシュートを決めた。
小川は平屋に目配せした。
(未知を軸にすれば、勝てるかもしれない)
平屋は、小川からのパスを受け取り、即座に未知へパスする。
未知は、今度は中央から投げるとまたもきれいにシュートが決まった。
次は当然、未知にガードが集まった。
そこで未知が今度は正確に小川にパスを返した。
即座にダッシュしてマークを振り切り小川が見事なダンクシュートを叩き込み、約束通り三点を先取した。
意外なほど、うまく連携が取れたことに内心驚きながら、バスケ部長に向き直る。
「約束だ。教えてくれ」
バスケ部員たちは悔しそうに、
「探偵研究部、すごいな! うちのバスケ部に入らないか?」
小川は笑って、バスケ部からの勧誘を丁重に断った。
「ごめん。それはできない」
バスケ部員たちは、三人の実力を認め、噂の新入生について口々に話し始めた。
「そうそう。あの娘も、三日前に来たばっかりだけど」
「名前は水無月美月。バスケ部の見学、一回だけ来て、あとは見てないよ」
「きょろきょろして、何か探してる様子だった」
「あれ、女子だよね。女子の赤ジャージを着ていた。でも、とにかく走るスピードが速くて。あのスピードで女子とは思えなかったよなー」
なんだかまとまらない感想だった。
「名前は、水無月美月……っと」
平屋は、タブレットにその名前を入力した。
次に、三人は、体育館から近い美術部へと向かった。
「邪魔するよ」
小川は、美術室の扉を開けた。部室の中には、様々な絵画や彫刻が並んでおり、上級生の筆を持つ手先を、何人かの新入生たちも熱心に見学していた。
「噂の新入生は、ここに来たかい?」
小川は、眼鏡の女子の美術部部長に声をかけた。
「噂の新入生? ああ、あの娘の事か……」
部長はそう言うと、三人にイーゼルに立てかけられた一枚の絵画を見せてくれた。その絵画には、絵の具を不規則に撒いたような不思議な模様が描かれている。
「これを書いた子だね。多分」
「一六〇センチくらいの、細身の子?」
小川が尋ねると、部長は「うん」と言った。
「ほかにはなんか特徴なかった?」と聞くと
「そうだね。見学に来た時のことなんだけど。『せっかくだから、何か書いていかない?』 って言ったんだ。
そうしたら、戸惑ったような顔をして、『どうやって書くの?』と聞いてきた。
なんか、はじめは何の絵を描いていいかわからない風だった。だから、言ったんだ。
『なんでもいいよ。果物でも石膏像でも。心の思うように描きなよ』って。
そうしたら、たくさんの絵の具を使い始めて、夢中になって描いている様子だった。そして、この絵をいつの間にか描き上げて、彼女はいなくなってた」
とじっとその絵を見る。
「でも、この絵、なかなかいい絵だよね。気持ちが乗ってて」と言った。
平屋は、美術部長のその言葉に興味を持ったように、タブレットを操作し、写真にその絵を収める。未知も、興味深そうにその絵画をじっと見つめていた。
新入生の名前は、「卯月風月」と見学者名簿に書かれていた。
次に三人は、グラウンドを目指した。
「バスケ部は水無月、美術部は卯月か。平屋、新入生の名簿見られるか?」
小川が尋ねると平屋は一年生の名簿を確認しながら
「ないですね。水無月さんも卯月さんも名簿にはいません」
「そうか。と言うことは、どういうことだ?」と小川は言った。
続くサッカー部では、如月六花。陸上部では、氷月茉白。そして弓道部は、長月琴葉という名前で、見学者の新入生がいたが、やはり実際の生徒名簿には見当たらない。
小川と平屋は仮説を立てた。
――噂の新入生が「月のつく偽名」を使っている。
なぜわざわざ偽名を使っているのか理由は分からないが、月のつく名前を辿っていけば、その彼女に出会えるかもしれない。そんなことを話しているとポーンとテニスボールが小川の足元に飛んできた。小川はそれを拾い、
「次は、テニス部だ!」と言ってテニス部のコートへと向かった。
「おーい田代。ボール落ちてたぞー」と声をかけると
「ごめんごめん!」とポニーテールを揺らしながら駆け寄ってくる女子生徒がいた。
部長の田代美幸。部長会でも会う間柄だ。
「お前のとこの部活、見学の子は来ているか?」と聞けば
「お? 珍しい。探偵活動?」
とテニスボールを小川から受け取りながら、田代は、興味深そうに言った。
「めぼしい子はいたけど、今年は入りたがる子はいないかな」
コートを見ながら、田代は残念がって答えた。
確かに、コートの中には二年生と三年生しかいない。
その言葉に、小川は疑問を口にする。
「何でだ? 去年、お前県大会行っただろ?」
田代は、その言葉に少しびっくりした顔をした。
「覚えてたんだ。さすが探偵部」
「まあな」
遠巻きに二人を見ていた平屋と未知は、二人の間に流れる空気がなんとなく違うことに気づいた。
「平屋先輩。あの二人、付き合ってるんですか?」
こそこそと聞く未知の言葉に、平屋は首を横に振る。
「違う、と思うけど。
田代さんは『学園の姫』だよ!
小川先輩は、だれにでもあんなふうに物怖じしない。さすがコミュ強……」
「ああ……確かに」
どこの部に行っても、小川の質問にはみんな答えてくれていた。
小川は、田代に見学者名簿を見せてもらった。
「サンキュー。あれ、ここには、月のつく名前の子はいないな。田代、めぼしい子ってどの子だ?」
「ああ、この子。――『藤崎ななみ』
筋が良くて、すぐ部にも馴染んだ。本入部には戻ってきて欲しいなあ」
小川は、田代のポニーテールの横顔を眺める。
女子テニス部でも、新入生の入部は一番の関心事のようだ。
そりゃあそうだ。部の存続が掛かっている。
「でもさー、俺たちのとこより、マシだと思うぜ。なにせ、『手伝い』の一人入れてようやく三人だ。」
田代は、平屋と未知を一瞥して、くすっと笑う。
「確かに、あの生徒会長に何か言われそうだね。ありがとう、励ましてくれて!」
田代は、そう言って手を振って練習に戻っていった。
「これが天然タラシというやつ!」
平屋は、なんか恨めしそうにブツブツ言っている。
「知らねーよ」と小川は飄々(ひょうひょう)と返した。
二人のやり取りに、未知は思わずふきだした。
