東欧の某国――
長い歴史を物語る王都の華やかさとは裏腹に、路地裏のひっそりとした薄暗い埃の舞う工房には、幼い少年と少女がいた。
カタカタと吹き付ける風が窓を揺らす。小さなストーブではとても防げぬ寒さを、七歳の少女は手をこすり合わせ、はあっと息をあてつつも、少年の手元を見つめていた。
少女の傍には、楽譜の入った布のレッスンバッグが置かれている。
金色の巻き毛をした十歳の少年。
その緑色の瞳は、五センチ四方の小さな回路に吸い込まれていくようだった。右手にはんだごてを持ち、左手の錫を溶かして精密な回路を組み上げていく。その手には無数の傷があった。ひっかき傷、深くえぐれた傷、やけどの傷。特に大きなやけどの跡は皮膚が攣(つ)れているようだった。
少女は、少年に言われた赤と青と黄色のコードを白い指先で束ねて少年に渡す。
「……カチッ、カチッ」
静寂の中で、精密な歯車が噛み合う音だけが響いていた。
やがて、見事な木彫りの箱のそれは、一つのオルゴールだった。
少年が言う。
「Смотри, готово.UNKNOWN.」
(ほら、できたよ。名もなき者)
少年は少女を「名もなき者」と呼んだ。
「さあ、そろそろ時間だ。送って行こう」
少年はそう言って、フックにかけていた茶色のローブを無造作に羽織る。フードを目深にかぶり、背を曲げた少年の姿は、まるで八十歳の老婆のようにも少女には見えた。
そうして、ひっそりと二人はその工房を後にした。
――六年前の異国での出来事だった。
長い歴史を物語る王都の華やかさとは裏腹に、路地裏のひっそりとした薄暗い埃の舞う工房には、幼い少年と少女がいた。
カタカタと吹き付ける風が窓を揺らす。小さなストーブではとても防げぬ寒さを、七歳の少女は手をこすり合わせ、はあっと息をあてつつも、少年の手元を見つめていた。
少女の傍には、楽譜の入った布のレッスンバッグが置かれている。
金色の巻き毛をした十歳の少年。
その緑色の瞳は、五センチ四方の小さな回路に吸い込まれていくようだった。右手にはんだごてを持ち、左手の錫を溶かして精密な回路を組み上げていく。その手には無数の傷があった。ひっかき傷、深くえぐれた傷、やけどの傷。特に大きなやけどの跡は皮膚が攣(つ)れているようだった。
少女は、少年に言われた赤と青と黄色のコードを白い指先で束ねて少年に渡す。
「……カチッ、カチッ」
静寂の中で、精密な歯車が噛み合う音だけが響いていた。
やがて、見事な木彫りの箱のそれは、一つのオルゴールだった。
少年が言う。
「Смотри, готово.UNKNOWN.」
(ほら、できたよ。名もなき者)
少年は少女を「名もなき者」と呼んだ。
「さあ、そろそろ時間だ。送って行こう」
少年はそう言って、フックにかけていた茶色のローブを無造作に羽織る。フードを目深にかぶり、背を曲げた少年の姿は、まるで八十歳の老婆のようにも少女には見えた。
そうして、ひっそりと二人はその工房を後にした。
――六年前の異国での出来事だった。
