探偵研究部。――カケラノセカイ―― ① うわさの新入生を追え!

 ここは校長室の応接だった。
 放課後のにぎやかな校内と対照的に、部屋の中は緊張の糸のような静寂に満ちていた。

 坊ちゃん刈りに眼鏡の少年は、身の置き所の無いように座る。
 任意で事情を聴くために用意した場所は、少年に威圧感を与えないために警察署ではなく、学校の校長室だった。
 少年の隣には、守るように校長と、担任の女性教諭が座る。そして、対面は――くたびれた灰色のスーツを着て、臙脂のネクタイを緩く絞めている男性――私服警官だ。
 その目は冷たく厳しく、少年を見つめていた。

「富谷君は、生徒会長で、他の生徒たちの規範になるような素晴らしい生徒なんです。学校には、いつも一番乗りでやってきます」

「なるほど。じゃあ、あの日の出来事を話してもらえるかな?」

「はい。あの日は、学校に着いて、すぐに昇降口で上靴に履き替えました。いったん教室にカバンを置きに行こうと三階に上がり切ったところを、急に何か布で口元を抑えられました。
 その後は、急激に眠くなり、気が付いたら、僕は屋上にいました。足首と手首が結束バンドで固定されてて。口はテープが貼られてて声が出ません。服装は、制服の下に着ていた短パンとTシャツだけでした」

「君は救助――同じ生徒会の女の子だったかな。その子が来るまで、どうしていた?」

「はい。なんとか体をにじりよせて、外の、グラウンドの様子を見ようとしました。すると校門が見えました。黒塗りのハイヤーが停まって、そこから一年生の有栖川美知さんが降りてきていました。
 彼女の傍には、SPが二人いて、そして陰の方にも女性のSPの方が見守っているのが見えました。彼女と同じ部活の三年の男子と、二年の男子が近づいてきました。それはいいのです。いつものことです。
 ただ、次の瞬間、僕は自分の目が信じられませんでした」

 少年は言葉を切って、落ち着けるように息を吐いた。

「そこに、僕がいたんです。僕とそっくりの制服姿をして、僕の眼鏡もかけていた。信じられなかった。
 後は、成瀬今日子さんが僕を見つけ、すぐに拡声器を持ってきてくれたので、僕は『そいつは偽物だ!』と屋上から叫び、それが決定打となって、有栖川さんのSPが偽物を取り押さえて逮捕になったと聞いています」

 刑事は、ずずっと湯呑を不調法にすすり、また質問した。

「君は、彼の顔を見たかい?」

「いえ、実は僕、強度の遠視で。遠くの景色は見えるんですが、近くのものにピントを合わせるのがすごく苦手なんです。メガネがないと、至近距離のものはひどく霞んでしまって……。
 あの日も、口を塞がれた瞬間にメガネを落としてしまったので、犯人の顔は全く……。すみません」

「そうか、謝ることはないよ。立派な説明だった。さすが生徒会長さんだね。ところで、有栖川さんは何の部活に入ったか、聞いているかな?」

「はい。……探偵研究部です」

「……そう」

 刑事は湯呑を置いて立ち上がった。

「どうもありがとう、富谷マタロウ君。ご協力感謝します」

 そうして、富谷マタロウはまた生徒会室に戻って行った。
 刑事は覆面パトカーに乗り込み、学校を後にする。


     ******


――警察に逮捕されたイワンは、黙秘を続けている。

 あの日の逮捕劇は、有栖川未知のSPより事情は聞いている。けれど、肝心の有栖川未知との接触は、外交官である父親から、「過去のトラウマを呼び起こす恐れがあるから」慎むように、と言われていた。

――仕方ない。外堀から埋めよう。

「探偵研究部、ね」

 刑事の口元が、にやりと上がった。

幕間 事情聴取 了