探偵研究部。――カケラノセカイ―― ① うわさの新入生を追え!

 小川は、悔しさに震える未知の肩を掴み、力強く語りかけた。
 そんな小川の視線が、ふと、未知の奥の、応接室の壁にかけられたギターに吸い寄せられた。

「うそだろ、このモデル……」

 小川が呆然と呟くと、未知が振り返って不思議そうに言った。

「父の若い頃のギターですが、何か?」
「いや、これ、あの伝説のロックバンド、サンダースのギターのレプリカ? じゃねえ! サイン入りの本物だ!」

 小川は、信じられないという表情でギターを見つめた。

「あ、そうなんですか? 古いものなのでよくわかんないですが、触ってみます?」

 未知の言葉に、小川は、

「まじか……」

 と呟きながら、恐る恐るギターに触れた。

「あの、もしよかったらなんだけど……弾いてもいいですか?」

 小川がおずおず敬語で尋ねると、未知は少し微笑んで頷いた。

「いいですよ」
「やったぜ!」

 小川は、歓声を上げると、嬉々としてギターを手に取りチューニングする。

「小川先輩、一体?」

 平屋が驚いたように尋ねると、小川は満面の笑みで平屋を振り返り、そして未知に尋ねた。

「未知、お前弾ける楽器は?」
「え、パーカスかピアノ」

 戸惑ったように未知は言う。

「平屋は?」
「僕、タンバリン……」

 平屋の顔には困惑しかなかった。

「ボーカルもやっとけ!」

 小川は、そう言うと、力強くギターをかき鳴らした。

 のちに、有栖川家の家人が語る。
 屋根が吹っ飛ぶかと思った。
 二時間ぶっ通しの自宅フェス。

 未知は初めて見るくらい大きな口を開けて笑った。
 小川は、パワフルに弦を弾いた。平屋は、ぎこちないながらもタンバリンを叩き、やけくそ気味にボーカルで歌う。未知は、ピアノの鍵盤を叩き、そして時には、恥ずかしそうに歌を口ずさんだ。
 めちゃくちゃな演奏だった。楽譜もなければ、コードも嘘っぱち。でも、それで良かった。

 小川は、大笑いの未知を見て、心の中で思った。

(そうだ、お前は笑っていろ。笑っていて欲しい)

 絶望がそばにあるならば、それでも立ち向かって、ジタバタしようぜ。

******

 大騒ぎの部屋に、有栖川家のお手伝いさんが、

「お嬢さま」

 と声をかけながら入ってきた。

「はい」

 未知が笑顔で振り返り答えると、お手伝いさんはにこやかに言った。

「それでは、このあたりで、お開きですね」

 その笑顔のまま、小川と平屋は、促されるようにして有栖川家を後にした。

「あ、何かたくさんメール来てる」

 平屋が、預けていたタブレットを受け取ると、画面を覗き込みながら言った。

「安全が確認されたから、明日から学校再開だって」

 その言葉に、小川は空を見上げた。

「そうか……未知は、どうするだろうな?」