探偵研究部。――カケラノセカイ―― ① うわさの新入生を追え!

 三人は美術室に向かっていた。

 未知は、「一月と四月をかけ合わせる」という予想を立てた。小川と平屋は半信半疑だが、何もやらないよりは試したほうがいいだろう。

「一月の科学部からもらった薬品、持ってます?」

 未知は、平屋に尋ねた。

「もちろん!」

 平屋は、得意げに胸を張った。そこには蓋をされたメスシリンダーが手元にある。科学部長が作ってた、琥珀色のあの薬品だ。

「サンプルかっぱら……、いやいや。もらってきました」
「おれは見てないからなー」

 と小川は目を覆った。
 その姿に未知はくすりと笑った後、真剣な顔をしてブツブツ独り言を言った。

「……月の名前の新入生は、わざわざ化合物を残した。それにはきっと意味があるはず……」

 美術室に着くと、すでに美術部員たちは帰っており、がらんとしていた。
 三人はイーゼルに飾られた「卯月風月」の描いた不思議な絵の前に立った。

 平屋が持っていたシリンダーを受け取った未知が蓋をとると、錆びた鉄のような匂いがした。
 未知はそれをそっと、絵の一部に数滴垂らした。

 すると、薬品がかかった部分から、じわじわと何か文字が浮かび上がってきた。
 化学変化で何か文字が黒く浮き出る仕掛けだった。――ビンゴだ!

「やった!」

 と小川が歓声を上げるつかの間。
 三人は、浮き出た文字に息を呑んだ。

 その字は、不気味にゆがめられ、血文字のようにかすれていた。

「U……N……K……N……O……W……N……
 追……い……つ……い……た……ぞ」

『UNKNOWN 追いついたぞ』

 三人は背筋が凍るような恐怖を感じた。

 平屋はすかさず、英単語をタブレットに入力する。

――UNKNOWN。
 これは、英語で「未知」と言う意味だ。

「未知……お前……!」

 タブレットを見た小川と平屋は未知を見つめた。
 すると、カラン。
 未知の持ったシリンダーが力なく足元に落ちて転がった。

 未知の目は光を無くし、顔は表情を無くしたように呆然と呟く。

「『彼』は、『彼』だった! ……月は、どこまでも追いかけてくる……。追いかけられていたのは……」

 震える両手で未知は顔を覆った。

「追いつかれたのは、私のほうだった!」


 ――遠くで、何かのサイレンの音が聞こえ、そして近くで止まった。

 意を決して、小川が未知に尋ねた。

 未知は小刻みに体を震わせている。

「未知。これって、どういうことだ? お前、これどういう意味か分かってるのか?」

 未知は、はあっと深いため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。

「……『彼』が、この学園で探していたのは……UNKNOWN。
 つまり、私……」

 その言葉に、小川と平屋は、信じられないという表情で未知を見つめた。
 未知は独り言のように早口で言う。

「ああ、やっと学校に来られることになったというのに! でも、みんなを危険に巻き込むわけにはいきません……」

 未知は、悔しそうに唇を嚙みながら、一瞬、小川を見つめた。
 その、光の強い目は、何かを訴えるように小川の心に語りかけていた。

(俺は、この目を、見たことがある?)
 
 小川の頭の中に、遠い記憶が蘇ってきそうになる。
 しかし、その瞬間、制服の警察官を何人か引き連れた校長が、慌てた顔をして、美術室にやってきた。
 即座に未知を警察官が守るように囲む。

「君たち! 何をしている。今すぐここから出なさい! ここは危険だ。今からは立ち入り禁止だ。生徒たちは今すぐ下校しなさい!」

 校長は、血相を変えてそう叫び、警官が美術室に立ち入り禁止のテープを貼り始めた。

 力なくうつむく未知だけを残して、押し出されるように美術室は封鎖されてしまった。
 物々しく教職員が、校舎を見回っている。
 校門前で、他の生徒たちと一緒に小川と平屋はただ茫然と立ち尽くし、そして帰宅を促され、帰るしかなかった。

   ******

 帰り足、小川はポケットに一枚の紙を見つけた。
 それは、未知がはじめに持って来た、探偵研究部のビラだった。