「平気か? 七珠那」
どうやって宮水家に戻って来たのか、七珠那の記憶は曖昧だった。
「圭章様……私、私」
七珠那は座布団の上に座らされる。圭章が、目の前に膝をついて、眉を下げて、心配そうに覗き込んできていた。
目が合った瞬間、耐えかねたように七珠那は両手で顔を覆った。
「どうしよう、無垢石が……橘花が……!」
「七珠那のせいではない。絶対に、違う」
七珠那が去った後、かえでも去ったなら石拾いは橘花だけになったはずだ。
あの幼い子が一人で残されたのなら、どれほど心細いことだっただろう。
意図せず年長者になってしまって、途方に暮れていたのかもしれない。
「御野山の無垢石は、明官が管轄している。石拾いは短い間で入れ替わる。質や量が思うようにならないときも何度もあった」
圭章は、ゆっくりと七珠那に言い含める。
七珠那の手を取り、顔から離させた。
「首都でも備蓄がある。何より、加護の里だけが祝具の責任を負っているのではない。刀の里が武器を作り、私達祝具師が仕上げる。今までも、どこかが上手くいかなければ違うところが支えてきた。いずれ時間が解決してくれる。心配はない」
七珠那な涙ぐみながら、なんとか頷いた。
理屈ではわかる。七珠那とて、圭章の婚約者にならなければ、間もなく去ったかもしれない身だ。かえでもお役目の終わりが近かった。橘花だけが年長者として残される未来は、確実にあった。
加護の里を出た今の七珠那に、出来ることは無い。
そう割り切ったつもりだった。
でも。
(でも、もっと何かできたことがあるかもしれない)
橘花を甘やかすだけではなく、導くことが出来たかもしれない。辞める前に、もっと無垢石を拾えたかもしれない。
そうすべきだったのかもしれない。やるべきことを、怠ったのかもしれない。
そんな風に考え出すと、止まらなくなる。
「関わった全てに、責任を持てるはずがない。七珠那、お前のせいではないのだ。あのかえでという娘も、言いがかりに過ぎない。暴論にも程がある」
だとしても、七珠那の気持ちはこんなにも乱されている。
嫌がらせ、という鷹司玖遠の言葉が蘇る。
これがその嫌がらせだと言うのなら、その的確さに恐れ入ってしまう。
「圭章様にも、ご迷惑をかけて」
七珠那の気持ちを追い詰めたのは、石拾いの後輩たちの行く末だけではない。
「私、知らなかったんです。そこまで圭章様の負担になっていたこと」
「新たな加護は、数十年振りだ。議論が生まれるのは仕方がない」
「でも、槍玉にあげられたって……ひどいことを言われたんじゃ……」
七珠那の加護の話で、会合が多くなっているということは聞いていた。
だが、そこで責められるような事態になっていたなんて、知らなかったのだ。圭章はそんな素振りをみせなかった。
良い知らせばかりを、七珠那に聞かせてくれた。
「妻が新しい加護を授かった。誇らしいではないか。何の問題もない」
圭章の言葉はどこまでも真摯で嘘がない。
「七珠那、何度も言ったが、お前の加護はこの首都を救うことになる」
「でも、何の加護かもわからないのに」
七珠那は情けなかった。巫女なら、当然知りうるものだ。
(いつ加護を授かったのかもわからない……。どの神の加護なのかもわからないなんて)
石拾いだからいけないのか。中途半端なのだろうか。
「私が……石拾いだからわからないの……?」
呻くように呟く。
七珠那が石拾いの自分の身を疎んじたのは、これは初めてだった。
「誰の加護であっても、神から授かった力に間違いはない」
「でも……!」
七珠那は自分を襲った嫌な考えに、青ざめた。
会合で紛糾したと言うことは、加護の里と同じように、七珠那の加護が良くないものであると思う者もいたはずだ。
呪いだと言われたのではないだろうか。
加護の里で、圭章は巫女達の言いがかりだと断言していたから七珠那もそう思うようになった。
しかし、そうではなかったとしたら?
巫女達だけでない。守代や祝具師達から見ても呪いの懸念はあるような事態なのだ。
「ひょっとして、これから良くないことが起こるのかも……」
かといって、七珠那は自分自身が授かった加護を呪いだと言えなかった。言いたくなかった。
この力が、圭章の元へと導いてくれたのだ。人を守れると自信をくれたのだ。
なのに、不安になるのを止められない。
七珠那の心は、千々に乱れる
「絶対にありえない」
「どうして……」
圭章は揺るがなかった。七珠那を見つめ、言葉を尽くして落ち着くのを待っていた。
その深い色の瞳を見ていると、吸い込まれそうになる。七珠那の揺れる感情を受け止めるような、静かな瞳だった。
僅かに七珠那が落ち着いたのを見てとって、圭章は殊更はっきりと、七珠那に告げた。
「私は、お前を信じている」
予想もしない言葉だった。
七珠那はゆっくり、大きく目を開いた。
「加護を与えたというのなら、七珠那の何かが神々のお気に召したということなのだろう。お前が、何か良からぬものが授かるはずがない」
淡く口を開き、言葉にならずに閉じる。
「見えない神に怯えずともわかる。──私は、お前を信じている」
圭章は、膝の上で強く握られた七珠那の手をそっと握った。
その眼差しに、温度に、七珠那は自分の中の不安が、嘘のように鎮まっていくのを感じていた。
(私も信じている。圭章様を、信じる)
七珠那は、ぎゅっと瞼を閉じた。その拍子に、一筋、二筋と涙が伝う。
「はい……!」
「七珠那に見せたいものがある」
圭章は、七珠那の手を軽く叩き、立つように促した。
そのまま手を引かれ、工房へ導かれる。灯の落ちた工房は、昼だと言うのに薄暗い。
片づけられた作業台の上に、木箱が一つ置かれていた。白木の真新しいものだった。
「これは?」
圭章が見せたいと言っていたのは、どうやらこれのようだ。
圭章は、箱を手に取り、七珠那の目の前で開いて見せた。
濃紫の布に包まれて、何かが収められている。圭章はそっと布を取り払った。
現れた鋼色のものを、七珠那は興味深く覗き込んだ。話では聞いたことがあるが、実物を見るのは、初めてだった。
「圭章様、これってまさか……」
細身で滑らかな形状をしていた。木の土台に支えられるように固定された鋼の筒。さらに木の持ち手につながっている。
持ち手の底に、透明な祝石が据えられていた。
「拳銃だ」
長くこの国で使われた刀や弓に続き、西洋からもたらされたと言う武器。
「弾丸に七珠那の祝石を込めた。拳銃や弾の他の部品は、鍛冶の里で作ってもらって私が組み立てた。試作品だが、もし、これが実用化できれば……」
圭章の言葉に、力がこもる。
「小刀よりや弓矢よりも早く、量を作れる。使われるのも屑石で十分だ」
無垢石は、より強い加護を与えるために、大きく、質の良いものが好まれる。
だが、圭章は屑石を使い、数を増やして対処するという考えなのだ。
(確かに、これなら、今の石拾い達にも負担が少ない……)
七珠那が圭章を見上げると、彼はしっかりと頷いた。
「何より、弓や小刀よりも持ち運びが容易だ。多少の訓練は必要だが、門を閉じる場合、門の近くに撃てばいいのだから、厳密に狙う必要もない」
それなら、色々な守代に扱ってもらえるかもしれない。
刀と一緒に、弓や何本もの小刀を持つことはできないが、拳銃であれば、可能だろう。
(この拳銃を持つ人が増えれば、きっと、今よりももっと早く門を閉じることが出来る)
圭章の意図に、七珠那は自分の胸が高鳴っていくのを感じた。
七珠那が出来ること、今あるものが、最大の成果へ繋がっている。そんな風に思えたのだ。
「お前の加護が呪いだなんだと言う声など、これで封じてやる。そんな言葉が出ないほどの成果を、これで上げて見せる」
「──刀、でなくても?」
しかし、七珠那にはまだ心配があった。
脳裏に蘇る声がある。
──守代の中には、刀を持ってこそと思う方も多いですから──
そう言ったのは清子だ。志紅も、刀を持てぬことを嗤っていたではないか。
ここで、刀ではなく西洋の武器を頼ることで、右派は不満を口にするはずだ。
圭章の名誉が貶められるのではないか。
「刀が必ず必要とは思わない。私達は、妖魔から人々を守るためにいるのだから」
圭章の意志ははっきりとしていた。今まで七珠那が見て、感じてきた通りの人だ。
「妖魔の姿が変わった。守代だけが変わらずに入れるはずがない。だから、これでいいのだと思う」
「圭章様……」
「それに、これなら私も……」
言いかけた言葉が、不意に止まる。圭章はしばらく口を閉ざし、やがて小さく自嘲するように笑った。
「愚かだと思うか?」
「え?」
「今に満足していると言いながら、武器を持って戦おうとしている私が、無様だと思おうか?」
圭章は、この拳銃で戦いたいのだ。
七珠那はようやく、圭章の本音に気づいた。
(確かに、拳銃であれば、思うように踏み込めなくなった圭章様でも戦えるかもしれない)
勿論とやかく言う者もいるだろう。特に右派は、志紅は。
刀を捨てて、拳銃をとる圭章を笑い物にするに違いない。
「だが、今の私でも何かができる。もっと出来ることがある。そう思うと、止まっていられない」
そして、七珠那にはその気持ちが痛い程わかった。
「もっと何かできることをと望むのは、愚かではないと思います」
七珠那はゆっくりと言う。
立場は違えど、分かち合えるものがある。それが嬉しい。
七珠那も巫女になれればと思った。石拾いで満足していながらも、もっと手を伸ばす。
そして、祈祷をして、透明な石を生んだ。
「誰かのために貪欲になることは、決して悪いことではないと思います」
言って、七珠那の目に再び涙が浮かぶ。
圭章だけではない──数か月前の自分自身への言葉だった。
図々しいと言われ、項垂れるかもしれない。
だが、それを認めてくれる人に、これから出会えるのだと、教えてやりたかった。
七珠那は、まっすぐに圭章を見上げる。
変化の乏しい瞳が、僅かに揺れているように見えた。
圭章自身も、不安なのかもしれない。
「私は、圭章様を誇りに思います。私に出来ることがあれば、何だってしたい。私だって、妖魔から人々を守りたいという思いは同じなのですから」
気持ちを行動に移せる姿が、頼もしく、慕わしい。
七珠那は、どうか少しでもこの気持ちが伝わりますようにと願い、言葉を紡ぐのだった。
(この人に、見つけてもらえてよかった……)
間違いなく、七珠那の最大の幸運だった。
圭章は、深く、長い息を吐いた。
その体から、知らず知らずのうちに張り詰めていた緊張がほどけていくのが分かる。
そして、ちらりと口の端の笑みを上らせた。
「七珠那。お前は私に必要な言葉をくれるのだな」
「いいえ──」
七珠那は大きく首を横に振る。
(私こそ……ずっと助けられている。守られているのに……)
「それは私が言うべき言葉です。何度圭章様の言葉に、手を引いていただいたことか」
七珠那はそっと圭章に寄り添った。細い七珠那の肩を、圭章の大きな手が抱く。
二人の間に、着実に育っている感情が、そこにあった。
どうやって宮水家に戻って来たのか、七珠那の記憶は曖昧だった。
「圭章様……私、私」
七珠那は座布団の上に座らされる。圭章が、目の前に膝をついて、眉を下げて、心配そうに覗き込んできていた。
目が合った瞬間、耐えかねたように七珠那は両手で顔を覆った。
「どうしよう、無垢石が……橘花が……!」
「七珠那のせいではない。絶対に、違う」
七珠那が去った後、かえでも去ったなら石拾いは橘花だけになったはずだ。
あの幼い子が一人で残されたのなら、どれほど心細いことだっただろう。
意図せず年長者になってしまって、途方に暮れていたのかもしれない。
「御野山の無垢石は、明官が管轄している。石拾いは短い間で入れ替わる。質や量が思うようにならないときも何度もあった」
圭章は、ゆっくりと七珠那に言い含める。
七珠那の手を取り、顔から離させた。
「首都でも備蓄がある。何より、加護の里だけが祝具の責任を負っているのではない。刀の里が武器を作り、私達祝具師が仕上げる。今までも、どこかが上手くいかなければ違うところが支えてきた。いずれ時間が解決してくれる。心配はない」
七珠那な涙ぐみながら、なんとか頷いた。
理屈ではわかる。七珠那とて、圭章の婚約者にならなければ、間もなく去ったかもしれない身だ。かえでもお役目の終わりが近かった。橘花だけが年長者として残される未来は、確実にあった。
加護の里を出た今の七珠那に、出来ることは無い。
そう割り切ったつもりだった。
でも。
(でも、もっと何かできたことがあるかもしれない)
橘花を甘やかすだけではなく、導くことが出来たかもしれない。辞める前に、もっと無垢石を拾えたかもしれない。
そうすべきだったのかもしれない。やるべきことを、怠ったのかもしれない。
そんな風に考え出すと、止まらなくなる。
「関わった全てに、責任を持てるはずがない。七珠那、お前のせいではないのだ。あのかえでという娘も、言いがかりに過ぎない。暴論にも程がある」
だとしても、七珠那の気持ちはこんなにも乱されている。
嫌がらせ、という鷹司玖遠の言葉が蘇る。
これがその嫌がらせだと言うのなら、その的確さに恐れ入ってしまう。
「圭章様にも、ご迷惑をかけて」
七珠那の気持ちを追い詰めたのは、石拾いの後輩たちの行く末だけではない。
「私、知らなかったんです。そこまで圭章様の負担になっていたこと」
「新たな加護は、数十年振りだ。議論が生まれるのは仕方がない」
「でも、槍玉にあげられたって……ひどいことを言われたんじゃ……」
七珠那の加護の話で、会合が多くなっているということは聞いていた。
だが、そこで責められるような事態になっていたなんて、知らなかったのだ。圭章はそんな素振りをみせなかった。
良い知らせばかりを、七珠那に聞かせてくれた。
「妻が新しい加護を授かった。誇らしいではないか。何の問題もない」
圭章の言葉はどこまでも真摯で嘘がない。
「七珠那、何度も言ったが、お前の加護はこの首都を救うことになる」
「でも、何の加護かもわからないのに」
七珠那は情けなかった。巫女なら、当然知りうるものだ。
(いつ加護を授かったのかもわからない……。どの神の加護なのかもわからないなんて)
石拾いだからいけないのか。中途半端なのだろうか。
「私が……石拾いだからわからないの……?」
呻くように呟く。
七珠那が石拾いの自分の身を疎んじたのは、これは初めてだった。
「誰の加護であっても、神から授かった力に間違いはない」
「でも……!」
七珠那は自分を襲った嫌な考えに、青ざめた。
会合で紛糾したと言うことは、加護の里と同じように、七珠那の加護が良くないものであると思う者もいたはずだ。
呪いだと言われたのではないだろうか。
加護の里で、圭章は巫女達の言いがかりだと断言していたから七珠那もそう思うようになった。
しかし、そうではなかったとしたら?
巫女達だけでない。守代や祝具師達から見ても呪いの懸念はあるような事態なのだ。
「ひょっとして、これから良くないことが起こるのかも……」
かといって、七珠那は自分自身が授かった加護を呪いだと言えなかった。言いたくなかった。
この力が、圭章の元へと導いてくれたのだ。人を守れると自信をくれたのだ。
なのに、不安になるのを止められない。
七珠那の心は、千々に乱れる
「絶対にありえない」
「どうして……」
圭章は揺るがなかった。七珠那を見つめ、言葉を尽くして落ち着くのを待っていた。
その深い色の瞳を見ていると、吸い込まれそうになる。七珠那の揺れる感情を受け止めるような、静かな瞳だった。
僅かに七珠那が落ち着いたのを見てとって、圭章は殊更はっきりと、七珠那に告げた。
「私は、お前を信じている」
予想もしない言葉だった。
七珠那はゆっくり、大きく目を開いた。
「加護を与えたというのなら、七珠那の何かが神々のお気に召したということなのだろう。お前が、何か良からぬものが授かるはずがない」
淡く口を開き、言葉にならずに閉じる。
「見えない神に怯えずともわかる。──私は、お前を信じている」
圭章は、膝の上で強く握られた七珠那の手をそっと握った。
その眼差しに、温度に、七珠那は自分の中の不安が、嘘のように鎮まっていくのを感じていた。
(私も信じている。圭章様を、信じる)
七珠那は、ぎゅっと瞼を閉じた。その拍子に、一筋、二筋と涙が伝う。
「はい……!」
「七珠那に見せたいものがある」
圭章は、七珠那の手を軽く叩き、立つように促した。
そのまま手を引かれ、工房へ導かれる。灯の落ちた工房は、昼だと言うのに薄暗い。
片づけられた作業台の上に、木箱が一つ置かれていた。白木の真新しいものだった。
「これは?」
圭章が見せたいと言っていたのは、どうやらこれのようだ。
圭章は、箱を手に取り、七珠那の目の前で開いて見せた。
濃紫の布に包まれて、何かが収められている。圭章はそっと布を取り払った。
現れた鋼色のものを、七珠那は興味深く覗き込んだ。話では聞いたことがあるが、実物を見るのは、初めてだった。
「圭章様、これってまさか……」
細身で滑らかな形状をしていた。木の土台に支えられるように固定された鋼の筒。さらに木の持ち手につながっている。
持ち手の底に、透明な祝石が据えられていた。
「拳銃だ」
長くこの国で使われた刀や弓に続き、西洋からもたらされたと言う武器。
「弾丸に七珠那の祝石を込めた。拳銃や弾の他の部品は、鍛冶の里で作ってもらって私が組み立てた。試作品だが、もし、これが実用化できれば……」
圭章の言葉に、力がこもる。
「小刀よりや弓矢よりも早く、量を作れる。使われるのも屑石で十分だ」
無垢石は、より強い加護を与えるために、大きく、質の良いものが好まれる。
だが、圭章は屑石を使い、数を増やして対処するという考えなのだ。
(確かに、これなら、今の石拾い達にも負担が少ない……)
七珠那が圭章を見上げると、彼はしっかりと頷いた。
「何より、弓や小刀よりも持ち運びが容易だ。多少の訓練は必要だが、門を閉じる場合、門の近くに撃てばいいのだから、厳密に狙う必要もない」
それなら、色々な守代に扱ってもらえるかもしれない。
刀と一緒に、弓や何本もの小刀を持つことはできないが、拳銃であれば、可能だろう。
(この拳銃を持つ人が増えれば、きっと、今よりももっと早く門を閉じることが出来る)
圭章の意図に、七珠那は自分の胸が高鳴っていくのを感じた。
七珠那が出来ること、今あるものが、最大の成果へ繋がっている。そんな風に思えたのだ。
「お前の加護が呪いだなんだと言う声など、これで封じてやる。そんな言葉が出ないほどの成果を、これで上げて見せる」
「──刀、でなくても?」
しかし、七珠那にはまだ心配があった。
脳裏に蘇る声がある。
──守代の中には、刀を持ってこそと思う方も多いですから──
そう言ったのは清子だ。志紅も、刀を持てぬことを嗤っていたではないか。
ここで、刀ではなく西洋の武器を頼ることで、右派は不満を口にするはずだ。
圭章の名誉が貶められるのではないか。
「刀が必ず必要とは思わない。私達は、妖魔から人々を守るためにいるのだから」
圭章の意志ははっきりとしていた。今まで七珠那が見て、感じてきた通りの人だ。
「妖魔の姿が変わった。守代だけが変わらずに入れるはずがない。だから、これでいいのだと思う」
「圭章様……」
「それに、これなら私も……」
言いかけた言葉が、不意に止まる。圭章はしばらく口を閉ざし、やがて小さく自嘲するように笑った。
「愚かだと思うか?」
「え?」
「今に満足していると言いながら、武器を持って戦おうとしている私が、無様だと思おうか?」
圭章は、この拳銃で戦いたいのだ。
七珠那はようやく、圭章の本音に気づいた。
(確かに、拳銃であれば、思うように踏み込めなくなった圭章様でも戦えるかもしれない)
勿論とやかく言う者もいるだろう。特に右派は、志紅は。
刀を捨てて、拳銃をとる圭章を笑い物にするに違いない。
「だが、今の私でも何かができる。もっと出来ることがある。そう思うと、止まっていられない」
そして、七珠那にはその気持ちが痛い程わかった。
「もっと何かできることをと望むのは、愚かではないと思います」
七珠那はゆっくりと言う。
立場は違えど、分かち合えるものがある。それが嬉しい。
七珠那も巫女になれればと思った。石拾いで満足していながらも、もっと手を伸ばす。
そして、祈祷をして、透明な石を生んだ。
「誰かのために貪欲になることは、決して悪いことではないと思います」
言って、七珠那の目に再び涙が浮かぶ。
圭章だけではない──数か月前の自分自身への言葉だった。
図々しいと言われ、項垂れるかもしれない。
だが、それを認めてくれる人に、これから出会えるのだと、教えてやりたかった。
七珠那は、まっすぐに圭章を見上げる。
変化の乏しい瞳が、僅かに揺れているように見えた。
圭章自身も、不安なのかもしれない。
「私は、圭章様を誇りに思います。私に出来ることがあれば、何だってしたい。私だって、妖魔から人々を守りたいという思いは同じなのですから」
気持ちを行動に移せる姿が、頼もしく、慕わしい。
七珠那は、どうか少しでもこの気持ちが伝わりますようにと願い、言葉を紡ぐのだった。
(この人に、見つけてもらえてよかった……)
間違いなく、七珠那の最大の幸運だった。
圭章は、深く、長い息を吐いた。
その体から、知らず知らずのうちに張り詰めていた緊張がほどけていくのが分かる。
そして、ちらりと口の端の笑みを上らせた。
「七珠那。お前は私に必要な言葉をくれるのだな」
「いいえ──」
七珠那は大きく首を横に振る。
(私こそ……ずっと助けられている。守られているのに……)
「それは私が言うべき言葉です。何度圭章様の言葉に、手を引いていただいたことか」
七珠那はそっと圭章に寄り添った。細い七珠那の肩を、圭章の大きな手が抱く。
二人の間に、着実に育っている感情が、そこにあった。
