妖魔が全て討伐されるまで、圭章は七珠那の傍を離れなかった。
七珠那を背に庇いつつ後退する。守代の妨げにならない場所で、敢えて向かってくる妖魔を討つにとどめた。
やがて妖魔が全て息絶え、ようやく張り詰めた空気が緩み始めた。
「怪我は無いな? 七珠那」
圭章が、妖魔の体液でぬめる刀身を払い、鞘に納める。
柄と鯉口が高い音を立てて、ようやく七珠那は我に返った。
圭章の着物のたもとを掴み、必死に謝罪をする。
「圭章様、私、申し訳ございません……! 本当に失礼なことを……!」
「いや、謝るのは私のほうだ」
圭章は、七珠那の肩に手を添えた。
「腹を立てるのも当然だ」
「そんな……! よくしていただいたのは、本当なのに、 私、馬鹿なことを……!」
「愚かなのは、私だ」
圭章は、ひどく悔いた様子で言う。
「同じことに腹を立てたのに、繰り返した」
「同じ、こと……?」
どういうことかと続けようとした七珠那だったが、男の声に問う言葉がかき消される。
「いくら英雄と呼ばれた方でも、引退されたのだから戦場に現れる必要はありません」
「志紅か」
圭章は声で相手が分かったようだった。
振り向きざまに、袂を大きく動かし、七珠那の視線を遮った。そのまま七珠那の前に立つ。相手から隠すような仕草だった。
七珠那は圭章の肩越しから相手を見た。上背のある男だった。
圭章よりは年若だろう。短くそろえられた髪は汗で額に張り付いている。切れ長の目が、蔑むような光を宿している。
「未練ですか? それとも、英雄と呼ばれた自分が忘られませんか?」
あまりの言い草に、七珠那は反感を覚えた。
(何、この人……!)
圭章と長く時間を過ごしたわけではない。
だが、彼が英雄と呼ばれたことを驕るような人間ではないことぐらい、七珠那にはわかっていた。
「どっしりかまえて、後輩に任せておけばいいのです。それとも、若輩者は頼りになりませんか」
「ち、違います! 私が勝手をしたから──!」
自分のせいで、圭章が評判を落としてはたまらない。七珠那はとっさに会話に割って入った。
「それで? こちらは?」
志紅と呼ばれた男は、傲然と細い顎を上げ、七珠那を示す。無礼な仕草だった。
「私、は──」
「──婚約者だ」
一方的に不満をぶつけて家を飛び出してきたばかり。
引け目を感じて口ごもる七珠那とは対照的に、圭章は、何の衒いもなかった。
「あぁ。確か、加護の里の石拾いだったとか」
志紅は、ひとつ鼻で笑って続ける。
「華族令嬢との婚約に敗れ、巫女を妻にすることが叶わず、石拾い如きを妻に持つとは」
「大概にしろ。何度も言うが、お前のその考え方はよくない」
圭章の声には、静かな怒りが込められていた。
「私たちは一人で戦っているのではない。加護を授ける巫女だけが重要なのではないだろう。加護を授ける無垢石が何もせずとも現れると思うのか? 御野山に分け入るものがいるからではないか」
七珠那はその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
(無駄じゃなかった……。 圭章様は、石拾い如きだなんて、思っていらっしゃらない)
彼は、七珠那の役目を、理解して尊重してくれる。
「詭弁です。守代が全面に立ち、戦うからこそ平穏が守れる」
志紅は、圭章の言葉を歯牙にもかけない。
そして、誇らしげに祝具をかざして見せた。
「ご覧ください。俺の新しい祝具です。俺はこの祝具で英雄の名声を手に入れて見せます」
祝石が埋め込まれたのは鞘だった。精緻な細工が施された鞘に、砕かれた紅の祝石がはめ込まれている。
無垢石は、小さければそれだけ身に宿す加護の力は小さくなる。
一方、大きな無垢石に加護を与えた後に砕き、同じ器に宿らせると加護の力を維持することが出来るという特性があった。
黒塗りの鞘には紅の光がまぶされている。大きな祝石を囲み、花咲くように小さな石が取り巻いている。
豪華なのはもちろん、そこに宿る加護の力の大きさを感じ取れる拵だった。
紅は炎の神の加護。そして、あの大きさの祝石。めったに見ない大きさと質。
(あれは……。まさか、晶瑚様の──!)
「我が婚約者、晶瑚の嫁入り道具なのです。この惚れ惚れする濃い紅。加護の力が満ちているのが分かる」
やはり、彼が晶瑚の婚約者なのだ。
「あぁ、素晴らしいな。加護も祝石も細工も、見事なのはよくわかる」
一度は褒めておきながら、圭章は低い声で言う。
「ただ、一般人の加減なく近くで使うのをやめろ。彼女が巻添えを食うところだった」
「逃げない、遅い方が悪いのです」
志紅の返答は、無慈悲なものだった。
「我々は妖魔を狩る存在です」
「何のために妖魔を狩っている。人々を守るためではないのか」
「勿論。けれど、被害を最小限に納めるために、ある程度被害がでるのは仕方がないことではありませんか」
「流石、殲滅主義──右派の要の中屋敷家だな」
「あえて、誉め言葉とお受けしましょう」
冷え冷えとするやり取りだった。
「それで、保全主義──左派のあなたは、その正体のわからない新しい加護を使うおつもりで?」
志紅は、圭章が持つ白木の鞘に視線を向けた。
「婚約者に聞いたのですよ。あなたが、石拾いが授かったわけのわからない力をありがたがって妻にしたと──まさか、本当に加護だったとは」
志紅の目や言葉の端々から、彼がいかに七珠那をつまらないものと思っているか、わかる。
彼の婚約者だという晶瑚が、何を夫となる彼に語ったのか。想像するのは簡単だった。
無能の石拾いだとか、呪いだとか、身の程知らずの雑草娘とか、そんなところだろう。
面と向かって言われるのは慣れている。ただ、それを圭章の前でひけらかされるのが、たまらなく恥ずかしかった。
「見ていたのか」
「勿論、門を閉じる速度が上がったような気がしますが?」
「そうかもしれないな」
圭章の返答は素っ気なかった。志紅は、邪険にされたように感じたのは、突っかかるような物言いをする。
「右派には提供しない、ということですか。民を守るためと言いながら、己の派閥を優先するのですか」
「そんなつもりはない。まだ検証中のものだ。それに、実用になったところで、お前たちはこの加護を好まないだろう。右派は、五行の加護ばかりと尊び、それ以外の加護を邪道とまで言うのだから」
「妖魔など、力で撃ち落とせばいいのです」
志紅は、不穏な光を瞳に宿らせる。
「余計なことに気を取られていると、あなたの二の舞になります」
成り行きを見守るしかない七珠那だったが、その言葉に、とっさに圭章を見上げた。
圭章の表情は変わらない。苛立っているのか、怒っているのか。見た目からは感情の波が感じられない。
ただ──彼は深く、大きく息を吐いた。何かをこらえるようなそのしぐさに、七珠那の胸は痛んだ。
抑え込んだ悲しみが、伝わってくる。
「志紅! また圭章殿に無礼を働いているのか!」
若い声が、志紅を窘める。見れば、別の守代が大股で歩てくるのが見えた。
「玖遠か……」
志紅は面倒臭そうに舌打ちをした。
「その話は聞き捨てならない。そもそも、圭章殿が怪我をすることになったのは、お前の戦えぬ人間を巻き添えにするのを構わないという態度のせいだろう!」
「一般人じゃなく、守代だ。怪我も覚悟の上だろう。戦えぬのなら、肥やしにでもなるのがいい」
「志紅!」
「左派は左派同士で仲良くしてくれ」
話にならないと思ったのか、言いたいことを言って満足したのか、志紅は踵を返す。
「門を閉じる加護など、この圧倒的な加護の力の前では些細な事です。せいぜい小賢しく立ち回るがよろしいでしょう」
そう吐き捨て、去っていくのだった。
「志紅が失礼を」
志紅の姿が完全に見えなくなると、玖遠と呼ばれた男は頭を下げた。
少年のような男だった。
声の調子から志紅と同じ年頃なのはわかったが、やや下がり気味の目つきや、ふっくらとした頬がいかにも柔和な風で、年齢よりも若々しく見える。
「お前が謝っても仕方がないだろう」
「それも、そうなんですが……」
玖遠が淡く笑って言う。不意に、その目が七珠那を捉えた。
「そちらは?」
大きな目が、興味津々に輝いている。
「婚約者だ」
再度のやりとりだったが、玖遠の反応は志紅とは真逆だった。
「それは、おめでとうございます! 圭章殿とは以前から親しくしていただきました。鷹司玖遠と申します。よろしくお願いします」
「いえ、あの──! 七珠那です。よろしくお願いします」
玖遠は、手放しの祝福をくれる。七珠那は慌てて頭を下げた。
「それで、今のはあなたの仕業ですか?」
「いいや。彼女の加護だ。新しく、神から授かったようだ」
声を真面目な調子に戻し、問いかけてくる玖遠に、圭章はあっさり答えた。
その態度に、二人の信頼関係を感じられる。
「それは、よい奥方をもらいましたね。加護の里の巫女様なんですね」
石拾いが加護を受けたなどと夢にも思わないのだろう。玖遠は、邪気無く笑って言う。
「僕の妻も元巫女なんです。妻とも仲良くしていただけると嬉しいのですが」
玖遠は、それでは、と頭を下げて、駆け足で去っていった。
「──帰ろうか」
後輩の背中を見送りつつ、圭章が言う。
「でも……私……」
このまま、甘えてしまっていいものだろうか。
迷う七珠那の手を、圭章がつかんだ。
「帰って来てくれないか。七珠那の力が必要なんだ」
「……はい」
懇願されて、七珠那は静かに頷いた。
圭章が折れてくれてほっとしている自分がいたのは確かだった。
行き場のない自分が、宮水家にいて良いのだと言われたから。そこに役目があると言われたから。
(本当に……私、調子がいい……)
七珠那は導かれるまま、水宮家の道への道をたどった。
七珠那を背に庇いつつ後退する。守代の妨げにならない場所で、敢えて向かってくる妖魔を討つにとどめた。
やがて妖魔が全て息絶え、ようやく張り詰めた空気が緩み始めた。
「怪我は無いな? 七珠那」
圭章が、妖魔の体液でぬめる刀身を払い、鞘に納める。
柄と鯉口が高い音を立てて、ようやく七珠那は我に返った。
圭章の着物のたもとを掴み、必死に謝罪をする。
「圭章様、私、申し訳ございません……! 本当に失礼なことを……!」
「いや、謝るのは私のほうだ」
圭章は、七珠那の肩に手を添えた。
「腹を立てるのも当然だ」
「そんな……! よくしていただいたのは、本当なのに、 私、馬鹿なことを……!」
「愚かなのは、私だ」
圭章は、ひどく悔いた様子で言う。
「同じことに腹を立てたのに、繰り返した」
「同じ、こと……?」
どういうことかと続けようとした七珠那だったが、男の声に問う言葉がかき消される。
「いくら英雄と呼ばれた方でも、引退されたのだから戦場に現れる必要はありません」
「志紅か」
圭章は声で相手が分かったようだった。
振り向きざまに、袂を大きく動かし、七珠那の視線を遮った。そのまま七珠那の前に立つ。相手から隠すような仕草だった。
七珠那は圭章の肩越しから相手を見た。上背のある男だった。
圭章よりは年若だろう。短くそろえられた髪は汗で額に張り付いている。切れ長の目が、蔑むような光を宿している。
「未練ですか? それとも、英雄と呼ばれた自分が忘られませんか?」
あまりの言い草に、七珠那は反感を覚えた。
(何、この人……!)
圭章と長く時間を過ごしたわけではない。
だが、彼が英雄と呼ばれたことを驕るような人間ではないことぐらい、七珠那にはわかっていた。
「どっしりかまえて、後輩に任せておけばいいのです。それとも、若輩者は頼りになりませんか」
「ち、違います! 私が勝手をしたから──!」
自分のせいで、圭章が評判を落としてはたまらない。七珠那はとっさに会話に割って入った。
「それで? こちらは?」
志紅と呼ばれた男は、傲然と細い顎を上げ、七珠那を示す。無礼な仕草だった。
「私、は──」
「──婚約者だ」
一方的に不満をぶつけて家を飛び出してきたばかり。
引け目を感じて口ごもる七珠那とは対照的に、圭章は、何の衒いもなかった。
「あぁ。確か、加護の里の石拾いだったとか」
志紅は、ひとつ鼻で笑って続ける。
「華族令嬢との婚約に敗れ、巫女を妻にすることが叶わず、石拾い如きを妻に持つとは」
「大概にしろ。何度も言うが、お前のその考え方はよくない」
圭章の声には、静かな怒りが込められていた。
「私たちは一人で戦っているのではない。加護を授ける巫女だけが重要なのではないだろう。加護を授ける無垢石が何もせずとも現れると思うのか? 御野山に分け入るものがいるからではないか」
七珠那はその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
(無駄じゃなかった……。 圭章様は、石拾い如きだなんて、思っていらっしゃらない)
彼は、七珠那の役目を、理解して尊重してくれる。
「詭弁です。守代が全面に立ち、戦うからこそ平穏が守れる」
志紅は、圭章の言葉を歯牙にもかけない。
そして、誇らしげに祝具をかざして見せた。
「ご覧ください。俺の新しい祝具です。俺はこの祝具で英雄の名声を手に入れて見せます」
祝石が埋め込まれたのは鞘だった。精緻な細工が施された鞘に、砕かれた紅の祝石がはめ込まれている。
無垢石は、小さければそれだけ身に宿す加護の力は小さくなる。
一方、大きな無垢石に加護を与えた後に砕き、同じ器に宿らせると加護の力を維持することが出来るという特性があった。
黒塗りの鞘には紅の光がまぶされている。大きな祝石を囲み、花咲くように小さな石が取り巻いている。
豪華なのはもちろん、そこに宿る加護の力の大きさを感じ取れる拵だった。
紅は炎の神の加護。そして、あの大きさの祝石。めったに見ない大きさと質。
(あれは……。まさか、晶瑚様の──!)
「我が婚約者、晶瑚の嫁入り道具なのです。この惚れ惚れする濃い紅。加護の力が満ちているのが分かる」
やはり、彼が晶瑚の婚約者なのだ。
「あぁ、素晴らしいな。加護も祝石も細工も、見事なのはよくわかる」
一度は褒めておきながら、圭章は低い声で言う。
「ただ、一般人の加減なく近くで使うのをやめろ。彼女が巻添えを食うところだった」
「逃げない、遅い方が悪いのです」
志紅の返答は、無慈悲なものだった。
「我々は妖魔を狩る存在です」
「何のために妖魔を狩っている。人々を守るためではないのか」
「勿論。けれど、被害を最小限に納めるために、ある程度被害がでるのは仕方がないことではありませんか」
「流石、殲滅主義──右派の要の中屋敷家だな」
「あえて、誉め言葉とお受けしましょう」
冷え冷えとするやり取りだった。
「それで、保全主義──左派のあなたは、その正体のわからない新しい加護を使うおつもりで?」
志紅は、圭章が持つ白木の鞘に視線を向けた。
「婚約者に聞いたのですよ。あなたが、石拾いが授かったわけのわからない力をありがたがって妻にしたと──まさか、本当に加護だったとは」
志紅の目や言葉の端々から、彼がいかに七珠那をつまらないものと思っているか、わかる。
彼の婚約者だという晶瑚が、何を夫となる彼に語ったのか。想像するのは簡単だった。
無能の石拾いだとか、呪いだとか、身の程知らずの雑草娘とか、そんなところだろう。
面と向かって言われるのは慣れている。ただ、それを圭章の前でひけらかされるのが、たまらなく恥ずかしかった。
「見ていたのか」
「勿論、門を閉じる速度が上がったような気がしますが?」
「そうかもしれないな」
圭章の返答は素っ気なかった。志紅は、邪険にされたように感じたのは、突っかかるような物言いをする。
「右派には提供しない、ということですか。民を守るためと言いながら、己の派閥を優先するのですか」
「そんなつもりはない。まだ検証中のものだ。それに、実用になったところで、お前たちはこの加護を好まないだろう。右派は、五行の加護ばかりと尊び、それ以外の加護を邪道とまで言うのだから」
「妖魔など、力で撃ち落とせばいいのです」
志紅は、不穏な光を瞳に宿らせる。
「余計なことに気を取られていると、あなたの二の舞になります」
成り行きを見守るしかない七珠那だったが、その言葉に、とっさに圭章を見上げた。
圭章の表情は変わらない。苛立っているのか、怒っているのか。見た目からは感情の波が感じられない。
ただ──彼は深く、大きく息を吐いた。何かをこらえるようなそのしぐさに、七珠那の胸は痛んだ。
抑え込んだ悲しみが、伝わってくる。
「志紅! また圭章殿に無礼を働いているのか!」
若い声が、志紅を窘める。見れば、別の守代が大股で歩てくるのが見えた。
「玖遠か……」
志紅は面倒臭そうに舌打ちをした。
「その話は聞き捨てならない。そもそも、圭章殿が怪我をすることになったのは、お前の戦えぬ人間を巻き添えにするのを構わないという態度のせいだろう!」
「一般人じゃなく、守代だ。怪我も覚悟の上だろう。戦えぬのなら、肥やしにでもなるのがいい」
「志紅!」
「左派は左派同士で仲良くしてくれ」
話にならないと思ったのか、言いたいことを言って満足したのか、志紅は踵を返す。
「門を閉じる加護など、この圧倒的な加護の力の前では些細な事です。せいぜい小賢しく立ち回るがよろしいでしょう」
そう吐き捨て、去っていくのだった。
「志紅が失礼を」
志紅の姿が完全に見えなくなると、玖遠と呼ばれた男は頭を下げた。
少年のような男だった。
声の調子から志紅と同じ年頃なのはわかったが、やや下がり気味の目つきや、ふっくらとした頬がいかにも柔和な風で、年齢よりも若々しく見える。
「お前が謝っても仕方がないだろう」
「それも、そうなんですが……」
玖遠が淡く笑って言う。不意に、その目が七珠那を捉えた。
「そちらは?」
大きな目が、興味津々に輝いている。
「婚約者だ」
再度のやりとりだったが、玖遠の反応は志紅とは真逆だった。
「それは、おめでとうございます! 圭章殿とは以前から親しくしていただきました。鷹司玖遠と申します。よろしくお願いします」
「いえ、あの──! 七珠那です。よろしくお願いします」
玖遠は、手放しの祝福をくれる。七珠那は慌てて頭を下げた。
「それで、今のはあなたの仕業ですか?」
「いいや。彼女の加護だ。新しく、神から授かったようだ」
声を真面目な調子に戻し、問いかけてくる玖遠に、圭章はあっさり答えた。
その態度に、二人の信頼関係を感じられる。
「それは、よい奥方をもらいましたね。加護の里の巫女様なんですね」
石拾いが加護を受けたなどと夢にも思わないのだろう。玖遠は、邪気無く笑って言う。
「僕の妻も元巫女なんです。妻とも仲良くしていただけると嬉しいのですが」
玖遠は、それでは、と頭を下げて、駆け足で去っていった。
「──帰ろうか」
後輩の背中を見送りつつ、圭章が言う。
「でも……私……」
このまま、甘えてしまっていいものだろうか。
迷う七珠那の手を、圭章がつかんだ。
「帰って来てくれないか。七珠那の力が必要なんだ」
「……はい」
懇願されて、七珠那は静かに頷いた。
圭章が折れてくれてほっとしている自分がいたのは確かだった。
行き場のない自分が、宮水家にいて良いのだと言われたから。そこに役目があると言われたから。
(本当に……私、調子がいい……)
七珠那は導かれるまま、水宮家の道への道をたどった。
