花妻さまの香草茶館~鬼に娶られた鬼狩りの娘は愛を知って花笑む~

『しきちゃん!』

 ぐちゃぐちゃになった新聞紙を抱えた幼い桃花は薄暗い屋敷の裏側に息せき切ってやって来ると、周囲を見渡しながら声を掛ける。しきちゃんと呼ばれた海石榴はどこからともなく顕現すると小首を傾げたのだった。

『掃除をして余った新聞紙をもらったの! そうしたら、ここ見て!』

 桃花は新聞紙を広げると一点を指で差す。覗き込んだ海石榴もハッとしたように、新聞をまじまじと見つめだす。

『帝都に茶館が出来たんだって。西洋で飲み物を出す「カフェー」を真似して、珈琲や珈琲牛乳が飲めるみたい。どんなところなのかな?』

 新聞には帝都に新しく開店したという「茶館」の記事と宣伝が書かれていたが、特に桃花が興味を持ったのは、その茶館で提供されているという「珈琲」と呼ばれる黒い飲み物や、珈琲に牛の乳を淹れた「珈琲牛乳」なるものを飲む人たちの写真であった。
 西洋で作られた「コーヒーカップ」と呼ばれる持ち手のついた湯呑みを持つ人たちは、炭のように黒々としたコーヒーに口をつけていたが、中には楽しそうにトランプをしながら珈琲を飲む人や新聞紙を手に商談をしている人もいた。珈琲一杯の値段は女中の給金より遥かに高額ではあったが、この国とは全く違うと噂される西洋の未知なる文化に魅力を感じたのだった。

『日本にもお茶を飲みながらお団子も食べられるお茶屋さんがあるから、もしかするとこの茶館でも西洋の菓子類が食べられるかもしれないね。煎茶のように西洋のお茶もあるのかも……。いつか行ってみたいな~』

 以前、住み込みの女中から茶屋で買ってきたという焼き団子をこっそりもらって食べたことを思い出したからか、桃花のお腹が情けない音を鳴らす。掌でお腹を押さえながら桃花は苦笑するが、海石榴は何か思うところがあるのかじっと新聞を眺めていた。

『しきちゃん?』

 桃花が声を掛けるが海石榴は何の反応もしなかった。桃花が口を開くより先に、そのまま姿が霞のように消えてしまう。
 海石榴が突然現れて消えるのはよくあることだが、この時ばかりはいつもと様子が違っていた。
 どこか切なそうに――悲し気な顔をしていたのだった。

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