第八話
〇暗闇の廊下
長竹は袂から鍵を取り出すと差し込んだ。
キイと高い音がして扉が開く。
光が溢れその眩しさに目が眩む。
細く目を開けると庭園が広がっている。里山の自然も美しいが人の手で管理された草木はまた違った趣がある。
〇皇居内部の庭園 昼
椿「きれいですね」
椿の言葉に長竹は頷きもせず、「あちらへ」と東屋を指し示す。
そこで用意されていた新しい着物を着て草履を履いた。
椿「おわりました。……長竹さま?」
長竹は答えず、黙って遠くの方を見つめている。
沈黙に耐えきれなくなった頃、遠くから少女が走ってくる。
肩の上で切りそろえられた黒髪が乱れ、鶯色の袴をたくし上げているので足が丸見えになっている。
鈴「間に合ったっ」
長竹「なんですか鈴《すず》、はしたない。遅刻ですよ!」
鈴と呼ばれた女官はハッとした様子で袴を下ろす。
鈴「ごめんなさい、長竹さま」
長竹「”申し訳ございません”なんどいえばわかるのですか」
鈴「申し訳ございません」
鈴は言い直すとチラリと椿を見た。
そして長竹に気付かれないようにぺろりと舌を出す。
椿(まるでいたずら好きの里の狐みたい)
長竹「いいから早く連れて行きなさい」
椿のことを毛嫌いしている表情。
鈴「かしこまりました。いきましょう」
鈴は椿に微笑みかけると「ついてきてください」といって歩き出す。
椿は「おせわになりました」と長竹に頭を下げる。
長竹「――吐き気がするわ。汚らわしい化け物め」
椿「え?」
長竹「コホン!」「なんでもありません」
椿モノ『聞こえないと思ったのだろうか』『おそらく普通の人間の耳には届かないだろう』『でも私たち鬼は五感のすべてが人間よりも優れている』
椿(聞きたくないことも聞こえてしまうのはあまり良いことではないけれど……)
鈴について歩き出す。
長竹から少しは離れると鈴がチラリと椿を見る、
鈴「……申し遅れました。鈴と申します」「あなたさまのお側仕えをさせていただきます。まだ新米でいつも怒られてばかりなんですが、一生懸命がんばります!」
椿「私は椿よ、よろしくね」「若いのに感心だわ。鈴さまはおいくつになられたの?」
鈴「十二です。それより椿さま、私のことは鈴と呼んでください!」「長竹さまに知られたら恐ろしいことになります」
鈴は眉を寄せて大げさに怖がって見せる。
椿「では、鈴。その長竹さまはどういうお方なの?」
鈴「後宮の侍女長をされているお方です」「高貴な家の出だそうで、お作法に厳しくって……」
鈴、やれやれといった様子で肩をすくめる。
椿「侍女の中に多喜というお方はいらっしゃる?」
鈴「多喜、さまですか? うーん、聞いたことないなぁ……」
首をかしげる鈴に笑顔を向ける。
椿「そう、ならいいの。忘れて」
鈴「そうですかぁ……あ、みえてきました!」「あちらが椿さまのお住まいである柊御殿です」
鈴が指さす方向を見る。塀で囲われた敷地の中に大きな屋敷がいくつも連なっている。とても広そうだ。
椿(姉たちの気配はまだ感じとれない)
椿モノ『鐵の話では連れ去られた娘たちは仲買人によってここへ連れて来られるのだという』『闇取引が行われていることは黙認されており、大きな金が動くことであのような賊が鬼狩りに手を染める悪循環を生んでいる』
椿(なるたけ早く姉たちと合流できたらいいけれど……)
一抹の不安を覚えつつ屋敷へと足を踏み入れた。
〇暗闇の廊下
長竹は袂から鍵を取り出すと差し込んだ。
キイと高い音がして扉が開く。
光が溢れその眩しさに目が眩む。
細く目を開けると庭園が広がっている。里山の自然も美しいが人の手で管理された草木はまた違った趣がある。
〇皇居内部の庭園 昼
椿「きれいですね」
椿の言葉に長竹は頷きもせず、「あちらへ」と東屋を指し示す。
そこで用意されていた新しい着物を着て草履を履いた。
椿「おわりました。……長竹さま?」
長竹は答えず、黙って遠くの方を見つめている。
沈黙に耐えきれなくなった頃、遠くから少女が走ってくる。
肩の上で切りそろえられた黒髪が乱れ、鶯色の袴をたくし上げているので足が丸見えになっている。
鈴「間に合ったっ」
長竹「なんですか鈴《すず》、はしたない。遅刻ですよ!」
鈴と呼ばれた女官はハッとした様子で袴を下ろす。
鈴「ごめんなさい、長竹さま」
長竹「”申し訳ございません”なんどいえばわかるのですか」
鈴「申し訳ございません」
鈴は言い直すとチラリと椿を見た。
そして長竹に気付かれないようにぺろりと舌を出す。
椿(まるでいたずら好きの里の狐みたい)
長竹「いいから早く連れて行きなさい」
椿のことを毛嫌いしている表情。
鈴「かしこまりました。いきましょう」
鈴は椿に微笑みかけると「ついてきてください」といって歩き出す。
椿は「おせわになりました」と長竹に頭を下げる。
長竹「――吐き気がするわ。汚らわしい化け物め」
椿「え?」
長竹「コホン!」「なんでもありません」
椿モノ『聞こえないと思ったのだろうか』『おそらく普通の人間の耳には届かないだろう』『でも私たち鬼は五感のすべてが人間よりも優れている』
椿(聞きたくないことも聞こえてしまうのはあまり良いことではないけれど……)
鈴について歩き出す。
長竹から少しは離れると鈴がチラリと椿を見る、
鈴「……申し遅れました。鈴と申します」「あなたさまのお側仕えをさせていただきます。まだ新米でいつも怒られてばかりなんですが、一生懸命がんばります!」
椿「私は椿よ、よろしくね」「若いのに感心だわ。鈴さまはおいくつになられたの?」
鈴「十二です。それより椿さま、私のことは鈴と呼んでください!」「長竹さまに知られたら恐ろしいことになります」
鈴は眉を寄せて大げさに怖がって見せる。
椿「では、鈴。その長竹さまはどういうお方なの?」
鈴「後宮の侍女長をされているお方です」「高貴な家の出だそうで、お作法に厳しくって……」
鈴、やれやれといった様子で肩をすくめる。
椿「侍女の中に多喜というお方はいらっしゃる?」
鈴「多喜、さまですか? うーん、聞いたことないなぁ……」
首をかしげる鈴に笑顔を向ける。
椿「そう、ならいいの。忘れて」
鈴「そうですかぁ……あ、みえてきました!」「あちらが椿さまのお住まいである柊御殿です」
鈴が指さす方向を見る。塀で囲われた敷地の中に大きな屋敷がいくつも連なっている。とても広そうだ。
椿(姉たちの気配はまだ感じとれない)
椿モノ『鐵の話では連れ去られた娘たちは仲買人によってここへ連れて来られるのだという』『闇取引が行われていることは黙認されており、大きな金が動くことであのような賊が鬼狩りに手を染める悪循環を生んでいる』
椿(なるたけ早く姉たちと合流できたらいいけれど……)
一抹の不安を覚えつつ屋敷へと足を踏み入れた。


