〇序章 世界感説明
〇合戦場の場面から大政奉還の場面へ
N『――1867年10月14日幕府政治が終焉を迎え政権が帝へと返された』
荒野に甲冑を着た大勢の武士たちの亡骸。遠くで立ち上る煙。横たわる武士が空を見上げる。
武士の視点。青空に鳶が羽を広げて飛んでいる。
〇場面転換 皇居 昼
畳敷きの大広間。一段上がった奥。御簾の向こうに皇帝が椅子に座っている。手前に裃を着た男性がずらりと並んで正座している。
N『江戸は帝都と呼び名を変え帝として即位したのは弱冠六歳の皇子尊彦《たけるひこ》である』
〇帝都 町中 昼
西洋建築が立ち並ぶ街並み。行き交う人は着物姿と洋服と半々。活気のある様子。
N『若き帝の誕生に民は沸いた。武力による支配からの解放。階級制度の廃止。異国との交易も盛んに行われ、民の生活は驚くほど豊かとなる。だが、文明開化の幕が開け西洋化が進む中で帝の存在は徐々に影を潜めていった』
〇皇居 玉座
大理石の床。洋風建築の広い部屋の中に御簾に囲まれた一角。その中の玉座に座る男の子。服装は公家っぽい。その背後には母親の姿があるが顔は見えない。
御簾の向こう側には陰陽師がひれ伏している。目つきの悪い狐顔の五十代くらいの男性。
N『皇居という名の籠に住まい孤独な時を重ねながら不意に思う。我が身は虚弱であり、剣術すら身につけることも叶わない。このままでは王朝は終焉を迎えてしまうのではないかと。尊彦は陰陽師に問う。「栄耀栄華を極めるために如何にせばよいか?」』
陰陽師は顔を伏せたまま答える。
陰陽師「かつて恐れられた鬼。その末裔より妃を迎え、交わり、子をなすこと――強大な力を手に入れればこの王朝は未来永劫繁栄することでしょう」
〇場面転換
大臣(軍服を着て勲章を沢山つけている)が巻物を縦に開いて読み上げている。
その前には大勢の兵士たちがいる。
N『かくして【鬼狩り】の緊急勅令が出される。晏寧十四年、六月のことだった』
〇第一話
〇鬼の歴史の説明
荒々しい鬼たちの様子。(風神雷神図のような絵巻風にナレーション)
山里の暮らしの様子。着物姿の男性と赤子をおんぶした女性が田植えをしている。高齢も一緒に。
N『――かつて人々に恐れられた鬼の一族は、戦乱の世が終わりを遂げる遙か以前より人里に下り暮らした。やがて人と血が混じり合い鬼の能力は薄れゆく。それとともに人々の記憶からも消え失せようとしていた。
しかし、ここ富士の麓の小さな村には鬼の血統を守り続けている一族がいる』
〇富士川村(鬼灯村(鬼の隠れ里)) 昼
山に囲まれた自然豊かな里。
村境を流れる渓谷沿いを走る白衣に緋袴の巫女装束に身を包んだ女性(10代後半)
伽耶「椿《つばき》さまー、どこですか? 椿姫さまぁ!」
椿と呼ばれた少女はハッとしたように立ち上がる。
スラリと長い腕を大きく振り上げる。同様の巫女装束姿。肌は新雪のように白く、黒く長い髪をひとつにまとめている。
椿「伽耶《かや》、私はここです」
伽耶「椿さま、こちらにいらしたので……きゃぁーー!」
伽耶は駆け寄ると椿の足元に目をやりながら叫ぶ。
椿の足元には軍服のような服装の大柄な男性が横たわっている。
川岸に打ち上げられた感じで、下半身は水に浸かっている。
瀕死の状態で意識はない。
伽耶「こ、この者は、死んでいるのではありませんか⁉︎」
椿「まだ息はあります」
(とはいえ肉を抉られたような傷が至る所にあり虫の息だ。このまま放置すればやがて果てると思われる。助けなければ。)
「伽耶は人を呼んできてください。屋敷で手当を……」
伽耶は椿の言葉を遮る。厳しい形相。
伽耶「なりません、椿さま! こんな得体の知れない、しかも人間の男を屋敷の中に入れるのは危険です。しかも旦那さまがご不在の時に。お姉さまたちに叱られますよ!」
伽耶は激しく首を横に振る。
椿(確かに伽耶の言う通りだ。父と兄が不在の今、姉たちが妹の身勝手を許すはずがない)「では、神社へ。責任は私が取ります。それならいいでしょう?」
伽耶「……ですが」
なかなか同意しない伽耶に、椿ははっきりと言い放つ。
椿「救える命を見殺しにはできません」
椿モノ『人間であろうが、動物であろうが命は尊い。椿にそう教えたのは伽耶だった。椿の乳母の娘である伽耶は三歳上で幼い頃から姉妹のように育ってきた。気立がよくて賢い。鬼の力はないに等しいが宮司である父を支えるため神職に就いた。そんな伽耶のことをを実の姉よりも慕っている。』
椿の真剣さが伝わり、伽耶は渋々頷く。
伽耶「承知いたしました。行ってまります」
椿「ありがとう、伽耶」
椿は微笑む。彼女の背中を見送ると、膝をついてしゃがんだ。男は先程よりも呼吸浅い。
椿「もし。しっかりしてください」
声を掛けるが、反応はない。
椿(時期に人は集まるだろう。けれどこのまま何もせずにいるわけにはいかない)
ナレーション『――椿がそう思うには理由があった、この男の傷は人が付けたものではない。もちろん動物でもなかった。――鬼だ。同胞だからこそ分かる。独特の臭いが残っていた』
椿「なぜこんなことに……」
椿モノ『人間と敵対していたのは幕府が政権を握るよりもずっと以前のことだ。忌み嫌われ住処を追われ、駆逐されていく現状を嘆いた祖先は共存を選んだ。その時に誓いを立てたはずだ。鬼の力をもって人を殺めることはしないと。その誓いを破るわけにはいかない』
椿「救わなければ」
椿はスゥっと息を吸い込むと、男の顔近づけ唇を合わせる。躊躇いが無いわけではなかったが、この者の命と比べれば答えは明らかだった。腹の底から生気を吹き込む。その時、椿の瞳は黒から金色に変わる。闇夜に光る満月のような美しい瞳に。
N『――鬼の位を見分けるにはいく通りかの手段があった。そのうちのひとつが瞳の色だ。多くの鬼は赤い瞳をしているが、能力の高い鬼――すなわち、高貴な鬼達は金色の瞳をしている。併せて銀色の髪である場合も多い。
椿の両親は純血でかつ、最上位の鬼である。兄や姉達もその能力を全て受け継いで生まれてきた。しかし、椿は違った。人間と同じ黒い瞳と黒髪を持って生まれてきたのだ。母親は人間との関係を疑われ村を追われた。椿にはなんの落ち度もないのだが、姉たちは彼女の事を憎んでいる』
椿「……これでいい。一命は取り留めたはず」
椿は呼吸を整えながら、男の様子を見た。
傷はある程度まで修復し、顔色もずいぶんと良い。けれど、意識が戻る気配はない。
伽耶「椿さまー!」
伽耶の声が聞こえ椿はハッと顔を上げ立ち上がる。
後ろには彼女の父親である宮司と村の男衆の姿(3名)が見える。みな、椿が信頼を寄せている者たちだ。
宮司「姫さま、この者は軍服を着ているのではありませんか」
宮司は顔をしかめる。男たちも同様に。
椿「軍服?」
宮司「戦の時に着る西洋の着物です」
椿「戦……」
椿は表情を曇らせる。でもすぐに顔を戻し男衆に向かい口を開く。
椿「とにかく運んでください。責任は私がとります」
(もし目を覚まして暴れても手負いの男ならばねじ伏せることくらいできる)
男衆「承知しました」
大きな布に包み、男二人で運んでいく。
人の目に触れないように、少し遠回りをしながら。
〇合戦場の場面から大政奉還の場面へ
N『――1867年10月14日幕府政治が終焉を迎え政権が帝へと返された』
荒野に甲冑を着た大勢の武士たちの亡骸。遠くで立ち上る煙。横たわる武士が空を見上げる。
武士の視点。青空に鳶が羽を広げて飛んでいる。
〇場面転換 皇居 昼
畳敷きの大広間。一段上がった奥。御簾の向こうに皇帝が椅子に座っている。手前に裃を着た男性がずらりと並んで正座している。
N『江戸は帝都と呼び名を変え帝として即位したのは弱冠六歳の皇子尊彦《たけるひこ》である』
〇帝都 町中 昼
西洋建築が立ち並ぶ街並み。行き交う人は着物姿と洋服と半々。活気のある様子。
N『若き帝の誕生に民は沸いた。武力による支配からの解放。階級制度の廃止。異国との交易も盛んに行われ、民の生活は驚くほど豊かとなる。だが、文明開化の幕が開け西洋化が進む中で帝の存在は徐々に影を潜めていった』
〇皇居 玉座
大理石の床。洋風建築の広い部屋の中に御簾に囲まれた一角。その中の玉座に座る男の子。服装は公家っぽい。その背後には母親の姿があるが顔は見えない。
御簾の向こう側には陰陽師がひれ伏している。目つきの悪い狐顔の五十代くらいの男性。
N『皇居という名の籠に住まい孤独な時を重ねながら不意に思う。我が身は虚弱であり、剣術すら身につけることも叶わない。このままでは王朝は終焉を迎えてしまうのではないかと。尊彦は陰陽師に問う。「栄耀栄華を極めるために如何にせばよいか?」』
陰陽師は顔を伏せたまま答える。
陰陽師「かつて恐れられた鬼。その末裔より妃を迎え、交わり、子をなすこと――強大な力を手に入れればこの王朝は未来永劫繁栄することでしょう」
〇場面転換
大臣(軍服を着て勲章を沢山つけている)が巻物を縦に開いて読み上げている。
その前には大勢の兵士たちがいる。
N『かくして【鬼狩り】の緊急勅令が出される。晏寧十四年、六月のことだった』
〇第一話
〇鬼の歴史の説明
荒々しい鬼たちの様子。(風神雷神図のような絵巻風にナレーション)
山里の暮らしの様子。着物姿の男性と赤子をおんぶした女性が田植えをしている。高齢も一緒に。
N『――かつて人々に恐れられた鬼の一族は、戦乱の世が終わりを遂げる遙か以前より人里に下り暮らした。やがて人と血が混じり合い鬼の能力は薄れゆく。それとともに人々の記憶からも消え失せようとしていた。
しかし、ここ富士の麓の小さな村には鬼の血統を守り続けている一族がいる』
〇富士川村(鬼灯村(鬼の隠れ里)) 昼
山に囲まれた自然豊かな里。
村境を流れる渓谷沿いを走る白衣に緋袴の巫女装束に身を包んだ女性(10代後半)
伽耶「椿《つばき》さまー、どこですか? 椿姫さまぁ!」
椿と呼ばれた少女はハッとしたように立ち上がる。
スラリと長い腕を大きく振り上げる。同様の巫女装束姿。肌は新雪のように白く、黒く長い髪をひとつにまとめている。
椿「伽耶《かや》、私はここです」
伽耶「椿さま、こちらにいらしたので……きゃぁーー!」
伽耶は駆け寄ると椿の足元に目をやりながら叫ぶ。
椿の足元には軍服のような服装の大柄な男性が横たわっている。
川岸に打ち上げられた感じで、下半身は水に浸かっている。
瀕死の状態で意識はない。
伽耶「こ、この者は、死んでいるのではありませんか⁉︎」
椿「まだ息はあります」
(とはいえ肉を抉られたような傷が至る所にあり虫の息だ。このまま放置すればやがて果てると思われる。助けなければ。)
「伽耶は人を呼んできてください。屋敷で手当を……」
伽耶は椿の言葉を遮る。厳しい形相。
伽耶「なりません、椿さま! こんな得体の知れない、しかも人間の男を屋敷の中に入れるのは危険です。しかも旦那さまがご不在の時に。お姉さまたちに叱られますよ!」
伽耶は激しく首を横に振る。
椿(確かに伽耶の言う通りだ。父と兄が不在の今、姉たちが妹の身勝手を許すはずがない)「では、神社へ。責任は私が取ります。それならいいでしょう?」
伽耶「……ですが」
なかなか同意しない伽耶に、椿ははっきりと言い放つ。
椿「救える命を見殺しにはできません」
椿モノ『人間であろうが、動物であろうが命は尊い。椿にそう教えたのは伽耶だった。椿の乳母の娘である伽耶は三歳上で幼い頃から姉妹のように育ってきた。気立がよくて賢い。鬼の力はないに等しいが宮司である父を支えるため神職に就いた。そんな伽耶のことをを実の姉よりも慕っている。』
椿の真剣さが伝わり、伽耶は渋々頷く。
伽耶「承知いたしました。行ってまります」
椿「ありがとう、伽耶」
椿は微笑む。彼女の背中を見送ると、膝をついてしゃがんだ。男は先程よりも呼吸浅い。
椿「もし。しっかりしてください」
声を掛けるが、反応はない。
椿(時期に人は集まるだろう。けれどこのまま何もせずにいるわけにはいかない)
ナレーション『――椿がそう思うには理由があった、この男の傷は人が付けたものではない。もちろん動物でもなかった。――鬼だ。同胞だからこそ分かる。独特の臭いが残っていた』
椿「なぜこんなことに……」
椿モノ『人間と敵対していたのは幕府が政権を握るよりもずっと以前のことだ。忌み嫌われ住処を追われ、駆逐されていく現状を嘆いた祖先は共存を選んだ。その時に誓いを立てたはずだ。鬼の力をもって人を殺めることはしないと。その誓いを破るわけにはいかない』
椿「救わなければ」
椿はスゥっと息を吸い込むと、男の顔近づけ唇を合わせる。躊躇いが無いわけではなかったが、この者の命と比べれば答えは明らかだった。腹の底から生気を吹き込む。その時、椿の瞳は黒から金色に変わる。闇夜に光る満月のような美しい瞳に。
N『――鬼の位を見分けるにはいく通りかの手段があった。そのうちのひとつが瞳の色だ。多くの鬼は赤い瞳をしているが、能力の高い鬼――すなわち、高貴な鬼達は金色の瞳をしている。併せて銀色の髪である場合も多い。
椿の両親は純血でかつ、最上位の鬼である。兄や姉達もその能力を全て受け継いで生まれてきた。しかし、椿は違った。人間と同じ黒い瞳と黒髪を持って生まれてきたのだ。母親は人間との関係を疑われ村を追われた。椿にはなんの落ち度もないのだが、姉たちは彼女の事を憎んでいる』
椿「……これでいい。一命は取り留めたはず」
椿は呼吸を整えながら、男の様子を見た。
傷はある程度まで修復し、顔色もずいぶんと良い。けれど、意識が戻る気配はない。
伽耶「椿さまー!」
伽耶の声が聞こえ椿はハッと顔を上げ立ち上がる。
後ろには彼女の父親である宮司と村の男衆の姿(3名)が見える。みな、椿が信頼を寄せている者たちだ。
宮司「姫さま、この者は軍服を着ているのではありませんか」
宮司は顔をしかめる。男たちも同様に。
椿「軍服?」
宮司「戦の時に着る西洋の着物です」
椿「戦……」
椿は表情を曇らせる。でもすぐに顔を戻し男衆に向かい口を開く。
椿「とにかく運んでください。責任は私がとります」
(もし目を覚まして暴れても手負いの男ならばねじ伏せることくらいできる)
男衆「承知しました」
大きな布に包み、男二人で運んでいく。
人の目に触れないように、少し遠回りをしながら。


