《Side 雪峰 爽》
「慎太郎くん、凛ちゃんのこと、なんか知ってるー?」
ボクはスマホ片手に、慎太郎くんの前の席に腰掛け、尋ねた。
どんよりとした灰色の空からは今にも雨が降ってきそうだ。降ったりやんだりを繰り返す雨にくわえ、季節のかわり目ということもあって、欠席する生徒も多くなってきた。
凛ちゃんが学校に来なくなって、3日になる。
体調管理は人一倍気にかける凛ちゃんが、こんな風に学校を休むなんてありえない。
「さぁ。僕は知りません」
文庫本から目をそらさずに、慎太郎くんが答える。
「イズルくんも大騒ぎしてますね。学祭まで2週間しかないのにって。まぁ、それも僕には関係ないですが」
「そうかなぁ……凛ちゃんが調子狂い始めたの、慎太郎くんと絡み始めてからだと思うよ?」
ボクがカマをかけても、慎太郎くんは反応を示さない。細い指先が、ページをめくるためにゆっくりと動いた。
「雪峰くんがそう思うのなら、そうなのかもしれませんね」
──あれ、もしかして……。
ボクはまじまじと慎太郎くんの顔を見つめた。もしも凛ちゃんが同じことを言われたら、凛ちゃんはきっと、烈火のごとく怒るだろう。慎太郎くんはそれとは正反対の、絶対零度の、氷のような反応だ。
でも、同じだ。
2人ともプライドが高くて、他人を徹底的に排除することで自分の心を守ってる。
似てるから嫌う……「同族嫌悪」っていうやつじゃないかな。
きっと、当の2人はそのことに気づいてないけど。
ボクはぐいっと顔を寄せて、上目遣いで慎太郎くんを見た。
「ねぇ、慎太郎くん」
「なんですか」
ボクは、もう1つのことに気づいていた。ボクの話に興味ないふりして、慎太郎くんが、さっきから全然本の文字を追ってないことに。
そういうところも、凛ちゃんに似てる。
「ボク、今から凛ちゃんのお見舞いに行こうかなって。
でも、慎太郎くんのこと、誘わないよ。
きっと凛ちゃん、今は慎太郎くんに会いたくないはずだからね」
ボクは慎太郎くんの顔を見つめる。慎太郎くんもボクの顔を真正面から見返す。窓から見える、雨をはらんだ空のような、静かな灰色の瞳だ。
プライドが高くて、他人を遠ざけて、でも、すごく不器用なところ。
(昔から、あの幼馴染の世話を焼いてきたから、わかっちゃうんだよね)
思わずフフッと笑うと、慎太郎くんの眉間に皺がよる。仮面にヒビが入ったみたい。天才子役の感情に微かな揺らぎを感じて、少し嬉しくなる。
ボクは慎太郎くんに言った。
「凛ちゃんが戻ってきたら、いつものままの慎太郎くんでいてあげて。
凛ちゃんはきっと、慎太郎くんの舞台に帰ってくるはずだから」
凛ちゃん代理の、勝手な「宣戦布告」だ。でも、慎太郎くんは何も言わなかった。彼の指はもう本をめくらずに、ぎゅっと強く握りしめられていた。
《Side 黒鵜 凛》
──今、何時になるのだろう。
目を閉じる前と変わらぬ天井を、ぼんやりと俺は見つめた。
止んだと思った雨がまた、パタパタと窓を叩き始めていた。カーテンを締め切った暗い部屋に、その音がやたら大きく響いていた。
昼夜問わず眠り続けて、流石に眠気は失せていた。だが気力は湧かない。手足は重く、鎖が絡みついているようだ。
坂崎の正体。演劇部での醜態。それから……思い出したくない出来事は、全て悪夢として忘れ去ってしまいたかった。
緩慢に眠り続けると、夢と記憶が曖昧に混ざり合ってしまう。スポットライトがあたった坂崎の熱い眼差し、名も知らぬ男にカメラを向けられた恐怖、そして舞台の上でも、教室でも微動だにできなかった自分。今まで築いてきたものが、粉々に砕け散ってしまった。しばらく鳴り続けていたスマホも充電が切れて、真っ黒な鏡のように転がっている。
インターフォンが鳴った。母親のスリッパの音。リビングで聞こえる微かな話し声。母の楽しそうな声で、訪問客が誰だかすぐに分かった。相変わらず、お節介な奴だ。俺は布団を被り直し、ベッドの上で蹲った。
「凛ちゃん、おじゃましまーす」
小声だが、雪峰の馬鹿に明るい声が、布団の上から聞こえた。「凛ちゃんの部屋入るの久しぶり―!」とか「相変わらず整理整頓されてますねー!」とかいちいちうるさい。あれこれ騒いでも、布団を被った俺が無言を貫くので、あきらめたようなため息とともに、デスクチェアに座る気配がした。
「らしく、ないんじゃない?凛ちゃん」
意図的なのか否か分からないが、雪峰はよく「らしくない」と俺に言う。天才子役だった坂崎を貶めた俺を、冷ややかに戒める際もそう言っていた。昔からの口癖だ。聞き慣れた雪峰の言葉が、俺の心に小さな痛みを生む。
穴蔵の中から、精一杯の返事を俺は返した。
「俺らしくってなんだよ……」
傲慢で、自意識過剰で、自分の美しい外見ばかりにとらわれている哀れな男。カメラに囲まれて有頂天になっていただけの、操り人形。
それが「俺の正体」だと気付いてしまった。
部屋はしばらく沈黙に包まれた。
「幼稚園の時の話、していい?」
やがて雪峰の声が、雨音に紛れて聞こえてきた。
「ビーズもリボンも大好きで、ピンクと紫のクレヨンが大事すぎて使えなかった。
それだけで、ボク、『オンナみたい』っていじめられてたじゃん。凛ちゃん、覚えてる?」
覚えてる。小さな頃の雪峰は、天使のように可愛く、そして弱々しかった。部屋の隅で静かにお人形遊びしたり、いじめられても、しくしくと泣くだけの子供だった。
「その時、凛ちゃん、悪ガキ達に向かってさ。──フフ、今でも笑っちゃうよ」
雪峰の、フワフワの巻き毛を引っ張って泣かせていた悪ガキたちに、俺の小さな拳が炸裂する。
正義の味方ぶりたかったわけじゃない。だって、俺は。
「『俺の方が可愛いのに、なんでソイツばっかりかまうんだ!』ってキレたんだよね、凛ちゃん」
バラ組の「くろう りん」を差し置いて、こんな泣き虫で弱虫のどこがいいんだと。
俺は雪峰を庇ったのではない。「抗議」したのだ。
「呆気にとられちゃったよ。そのあと、ボクにも『お前もいちいち泣いて注目を集めるのはやめろ!』とか言うじゃん。理不尽すぎるよ。そんなつもりで泣いてたんじゃないのに」
雪峰はケラケラと笑っている。泣き虫の天使は、ずいぶん、ふてぶてしく成長したようだ。
布団に隠れる俺の嫌みを読み取ったように、雪峰は笑った。
「凛ちゃんは、いつも自分と戦ってきたでしょ。今更、慎太郎くんなんか相手にしないでよ」
ギィっと軋む音がして、雪峰が椅子から立ったのが分かった。スマホをタップする音がしばらく続き、「演劇部の──お兄ちゃん、連絡したげて」と雪峰のふんわりした声が聞こえてきた。
「あの日から、ずっとボクが憧れてきた人『らしく』なって、戻ってきて」
それから、ドアが閉まる音と一緒に、「またね」と雪峰の声が優しく聞こえた。
雪峰が母に挨拶をし、再び、部屋が雨音に包まれる。
俺はそっとベッドから降りた。
雪峰が座っていたデスクチェアに腰掛け、俺は机の上に伏せられていた鏡を持った。
薄暗いせいか、鏡は鈍い光を放ちながら、俺の顔をぼんやりと映し出している。
随分、久しぶりに、自分の顔をちゃんと見る気がした。
赤く泣き腫らした瞼。
少し痩せこけた頬に、血色の悪い肌。
醜いのか、弱いのか、傲慢なのか。
こいつの正体は、一体、なんなのだろう。やっぱり何も無い、ただの器に過ぎないのか。
そう思うと、急に不安と恐怖が蘇り、今すぐ鏡を放り投げたくなった。
俺は鏡の前の自分を、静かに見つめ、問いかける。
「鏡よ、鏡。世界で一番……」
やめた。
俺は目を閉じ、深呼吸した。
鏡の破片は、鋭く心に突き刺さったままだ。その痛みを否定したり、流した血を誤魔化すことはできない。
だが、その破片を、自分で抜くことは出来るはずだ。
(らしく、ないんじゃない?凛ちゃん)
少なくとも、俺はそうやって生きてきた。
俺は鏡をそっと置いた。それからスマホを充電ケーブルに差し込み、その画面に、白く光が灯るのを待った。
《Side 雪峰 爽》
駅のホームに着いた頃、凛ちゃんに送ったメッセージが全て「既読」になった。
ボクは思わず微笑んだ。まったく、世話が焼ける幼なじみだ。リンゴのグミを口に一つ入れると、甘酸っぱい味が広がる。
(お前、泣いてるとブサイクに見えるぞ。いいのか?)
ジャングルジムの前で、不敵に笑う凛ちゃん。
キラキラと輝いてた凛ちゃんを見上げたあの日を思い出す。こんなことで凛ちゃんはへこたれないって、ボクはずっと分かっていた。
運命の人。でも、白馬の王子様なんかじゃない。
ボクを置いて、1人でどこまでも進んでいってしまう凛ちゃん。
「──ボクの初恋の人らしくなって、帰ってきてよね、凛ちゃん」
雨上がりの空に、オレンジ色の夕日が滲み始めていた。
「慎太郎くん、凛ちゃんのこと、なんか知ってるー?」
ボクはスマホ片手に、慎太郎くんの前の席に腰掛け、尋ねた。
どんよりとした灰色の空からは今にも雨が降ってきそうだ。降ったりやんだりを繰り返す雨にくわえ、季節のかわり目ということもあって、欠席する生徒も多くなってきた。
凛ちゃんが学校に来なくなって、3日になる。
体調管理は人一倍気にかける凛ちゃんが、こんな風に学校を休むなんてありえない。
「さぁ。僕は知りません」
文庫本から目をそらさずに、慎太郎くんが答える。
「イズルくんも大騒ぎしてますね。学祭まで2週間しかないのにって。まぁ、それも僕には関係ないですが」
「そうかなぁ……凛ちゃんが調子狂い始めたの、慎太郎くんと絡み始めてからだと思うよ?」
ボクがカマをかけても、慎太郎くんは反応を示さない。細い指先が、ページをめくるためにゆっくりと動いた。
「雪峰くんがそう思うのなら、そうなのかもしれませんね」
──あれ、もしかして……。
ボクはまじまじと慎太郎くんの顔を見つめた。もしも凛ちゃんが同じことを言われたら、凛ちゃんはきっと、烈火のごとく怒るだろう。慎太郎くんはそれとは正反対の、絶対零度の、氷のような反応だ。
でも、同じだ。
2人ともプライドが高くて、他人を徹底的に排除することで自分の心を守ってる。
似てるから嫌う……「同族嫌悪」っていうやつじゃないかな。
きっと、当の2人はそのことに気づいてないけど。
ボクはぐいっと顔を寄せて、上目遣いで慎太郎くんを見た。
「ねぇ、慎太郎くん」
「なんですか」
ボクは、もう1つのことに気づいていた。ボクの話に興味ないふりして、慎太郎くんが、さっきから全然本の文字を追ってないことに。
そういうところも、凛ちゃんに似てる。
「ボク、今から凛ちゃんのお見舞いに行こうかなって。
でも、慎太郎くんのこと、誘わないよ。
きっと凛ちゃん、今は慎太郎くんに会いたくないはずだからね」
ボクは慎太郎くんの顔を見つめる。慎太郎くんもボクの顔を真正面から見返す。窓から見える、雨をはらんだ空のような、静かな灰色の瞳だ。
プライドが高くて、他人を遠ざけて、でも、すごく不器用なところ。
(昔から、あの幼馴染の世話を焼いてきたから、わかっちゃうんだよね)
思わずフフッと笑うと、慎太郎くんの眉間に皺がよる。仮面にヒビが入ったみたい。天才子役の感情に微かな揺らぎを感じて、少し嬉しくなる。
ボクは慎太郎くんに言った。
「凛ちゃんが戻ってきたら、いつものままの慎太郎くんでいてあげて。
凛ちゃんはきっと、慎太郎くんの舞台に帰ってくるはずだから」
凛ちゃん代理の、勝手な「宣戦布告」だ。でも、慎太郎くんは何も言わなかった。彼の指はもう本をめくらずに、ぎゅっと強く握りしめられていた。
《Side 黒鵜 凛》
──今、何時になるのだろう。
目を閉じる前と変わらぬ天井を、ぼんやりと俺は見つめた。
止んだと思った雨がまた、パタパタと窓を叩き始めていた。カーテンを締め切った暗い部屋に、その音がやたら大きく響いていた。
昼夜問わず眠り続けて、流石に眠気は失せていた。だが気力は湧かない。手足は重く、鎖が絡みついているようだ。
坂崎の正体。演劇部での醜態。それから……思い出したくない出来事は、全て悪夢として忘れ去ってしまいたかった。
緩慢に眠り続けると、夢と記憶が曖昧に混ざり合ってしまう。スポットライトがあたった坂崎の熱い眼差し、名も知らぬ男にカメラを向けられた恐怖、そして舞台の上でも、教室でも微動だにできなかった自分。今まで築いてきたものが、粉々に砕け散ってしまった。しばらく鳴り続けていたスマホも充電が切れて、真っ黒な鏡のように転がっている。
インターフォンが鳴った。母親のスリッパの音。リビングで聞こえる微かな話し声。母の楽しそうな声で、訪問客が誰だかすぐに分かった。相変わらず、お節介な奴だ。俺は布団を被り直し、ベッドの上で蹲った。
「凛ちゃん、おじゃましまーす」
小声だが、雪峰の馬鹿に明るい声が、布団の上から聞こえた。「凛ちゃんの部屋入るの久しぶり―!」とか「相変わらず整理整頓されてますねー!」とかいちいちうるさい。あれこれ騒いでも、布団を被った俺が無言を貫くので、あきらめたようなため息とともに、デスクチェアに座る気配がした。
「らしく、ないんじゃない?凛ちゃん」
意図的なのか否か分からないが、雪峰はよく「らしくない」と俺に言う。天才子役だった坂崎を貶めた俺を、冷ややかに戒める際もそう言っていた。昔からの口癖だ。聞き慣れた雪峰の言葉が、俺の心に小さな痛みを生む。
穴蔵の中から、精一杯の返事を俺は返した。
「俺らしくってなんだよ……」
傲慢で、自意識過剰で、自分の美しい外見ばかりにとらわれている哀れな男。カメラに囲まれて有頂天になっていただけの、操り人形。
それが「俺の正体」だと気付いてしまった。
部屋はしばらく沈黙に包まれた。
「幼稚園の時の話、していい?」
やがて雪峰の声が、雨音に紛れて聞こえてきた。
「ビーズもリボンも大好きで、ピンクと紫のクレヨンが大事すぎて使えなかった。
それだけで、ボク、『オンナみたい』っていじめられてたじゃん。凛ちゃん、覚えてる?」
覚えてる。小さな頃の雪峰は、天使のように可愛く、そして弱々しかった。部屋の隅で静かにお人形遊びしたり、いじめられても、しくしくと泣くだけの子供だった。
「その時、凛ちゃん、悪ガキ達に向かってさ。──フフ、今でも笑っちゃうよ」
雪峰の、フワフワの巻き毛を引っ張って泣かせていた悪ガキたちに、俺の小さな拳が炸裂する。
正義の味方ぶりたかったわけじゃない。だって、俺は。
「『俺の方が可愛いのに、なんでソイツばっかりかまうんだ!』ってキレたんだよね、凛ちゃん」
バラ組の「くろう りん」を差し置いて、こんな泣き虫で弱虫のどこがいいんだと。
俺は雪峰を庇ったのではない。「抗議」したのだ。
「呆気にとられちゃったよ。そのあと、ボクにも『お前もいちいち泣いて注目を集めるのはやめろ!』とか言うじゃん。理不尽すぎるよ。そんなつもりで泣いてたんじゃないのに」
雪峰はケラケラと笑っている。泣き虫の天使は、ずいぶん、ふてぶてしく成長したようだ。
布団に隠れる俺の嫌みを読み取ったように、雪峰は笑った。
「凛ちゃんは、いつも自分と戦ってきたでしょ。今更、慎太郎くんなんか相手にしないでよ」
ギィっと軋む音がして、雪峰が椅子から立ったのが分かった。スマホをタップする音がしばらく続き、「演劇部の──お兄ちゃん、連絡したげて」と雪峰のふんわりした声が聞こえてきた。
「あの日から、ずっとボクが憧れてきた人『らしく』なって、戻ってきて」
それから、ドアが閉まる音と一緒に、「またね」と雪峰の声が優しく聞こえた。
雪峰が母に挨拶をし、再び、部屋が雨音に包まれる。
俺はそっとベッドから降りた。
雪峰が座っていたデスクチェアに腰掛け、俺は机の上に伏せられていた鏡を持った。
薄暗いせいか、鏡は鈍い光を放ちながら、俺の顔をぼんやりと映し出している。
随分、久しぶりに、自分の顔をちゃんと見る気がした。
赤く泣き腫らした瞼。
少し痩せこけた頬に、血色の悪い肌。
醜いのか、弱いのか、傲慢なのか。
こいつの正体は、一体、なんなのだろう。やっぱり何も無い、ただの器に過ぎないのか。
そう思うと、急に不安と恐怖が蘇り、今すぐ鏡を放り投げたくなった。
俺は鏡の前の自分を、静かに見つめ、問いかける。
「鏡よ、鏡。世界で一番……」
やめた。
俺は目を閉じ、深呼吸した。
鏡の破片は、鋭く心に突き刺さったままだ。その痛みを否定したり、流した血を誤魔化すことはできない。
だが、その破片を、自分で抜くことは出来るはずだ。
(らしく、ないんじゃない?凛ちゃん)
少なくとも、俺はそうやって生きてきた。
俺は鏡をそっと置いた。それからスマホを充電ケーブルに差し込み、その画面に、白く光が灯るのを待った。
《Side 雪峰 爽》
駅のホームに着いた頃、凛ちゃんに送ったメッセージが全て「既読」になった。
ボクは思わず微笑んだ。まったく、世話が焼ける幼なじみだ。リンゴのグミを口に一つ入れると、甘酸っぱい味が広がる。
(お前、泣いてるとブサイクに見えるぞ。いいのか?)
ジャングルジムの前で、不敵に笑う凛ちゃん。
キラキラと輝いてた凛ちゃんを見上げたあの日を思い出す。こんなことで凛ちゃんはへこたれないって、ボクはずっと分かっていた。
運命の人。でも、白馬の王子様なんかじゃない。
ボクを置いて、1人でどこまでも進んでいってしまう凛ちゃん。
「──ボクの初恋の人らしくなって、帰ってきてよね、凛ちゃん」
雨上がりの空に、オレンジ色の夕日が滲み始めていた。



