世界で一番可愛くないね

子どもの時から『白雪姫』が大好きだった。

奇異な目で見られたり、男子が好むような特撮アニメをそれとなく勧められたりもしたが、僕は『白雪姫』の絵本を手放さなかった。おっとりとした母親だけがわりと寛容で、僕の「読んで!」に何度も付き合って読み聞かせをしてくれた。

「鏡よ鏡。世界で一番美しいのはだぁれ?」

中でもお気に入りなのは、禍々しい地下室で、魔法の鏡に女王が尋ねるシーンだ。怪しい緑色の光に包まれた鏡。淫靡な雰囲気を漂わせながら、鋭い眼差しの女王。繰り返し繰り返し、僕はそのページを母に読ませた。

愛してやまないその場面は、同時に、許せないシーンでもあった。

「それは遥か遠い森に住む、あの可憐な白雪姫です」

物語を運命づける鏡の宣託。

でも、あれは鏡が言ったんじゃない。幼いながらにも僕にはそれが分かっていた。

女王自身が抱いた、水にインクをぽたりと零したような些細な疑念が、そう、鏡に言わせたのだ。

私はもう美しくないのではないか、と。

(僕ならうまくやるのに)

読み聞かせに疲れた母の寝息を聞きながら、幼い僕はそのページに描かれた鏡にそっと指を這わせた。

鏡に向かった美しい僕が、鏡に問うのはこれだけ。

「鏡よ、鏡。世界で一番美しい僕に相応しいのはだぁれ?」