軍服の勲章が陽光を反射してカチリと鳴る。
千歳の腰を引き寄せた鷹臣は、ごく自然な動作でその膝裏に腕を差し入れた。
「た、鷹臣様……?」
鷹臣が千歳を軽々と抱き上げると、白無垢の重厚な裾が漆黒の軍服の上で鮮やかに波打った。
その瞬間、参道を埋め尽くした民衆から、割れんばかりの歓声と今日一番の熱狂的な拍手が沸き起こる。
森部が「演出です」と言わんばかりに得意げに眼鏡を光らせながら部下たちに合図を送ると、部下たちは誇らしげに道を空け、軍用車までのレッドカーペットを守護する壁となった。
「鷹臣様、みなさまが見ていらっしゃいます」
「おまえは俺の物だと見せつけているのだ」
鷹臣は千歳の体温をその腕にしっかりと感じながら、砂利道を力強い足取りで進んでいく。
この日のために作られた黒光りする軍用車のオープンカーの前へと辿り着いた鷹臣は、千歳を座席へ優しく降ろすと、自身も隣へ乗り込み、千歳の手を強く握った。
森部が運転する軍用車のエンジンが低く唸りを上げ、ゆっくりと車が動き出す。
帝都のメインストリートを抜け、帝国ホテルへと向かう間にも二人は多くの民衆から祝福された。
純白のウェディングドレスに着替えた千歳の隣には、黒い燕尾服を完璧に着こなした鷹臣。
軍服を脱いだ鷹臣は見惚れるほど優雅で、圧倒的な独占欲を隠そうともしない一人の男としての色香を纏っていた。
「似合っている。白無垢も良かったが、この姿も俺以外の男には見せたくないほどだ」
鷹臣は千歳のレースの手袋に包まれた指先を取り、その甲に熱い口づけを落とす。
「鷹臣様の燕尾服も素敵です。まるで……」
「まるで、なんだ?」
「絵本の、王子様みたいです」
先日読んだ絵本に出て来た王子は金髪だったが、それ以外はそっくりだと千歳は微笑む。
「ほう。どんな話だ?」
「……攫われた姫を、世界の果てまで救いに行く王子の物語です」
富士の氷穴に助けに来てくれた鷹臣と同じだと、千歳は少し照れくさそうに鷹臣を見つめた。
帝国ホテルの大階段を二人は仲睦まじく上っていく。
千歳の纏う純白のウェディングドレスは、当時の流行を取り入れつつ繊細なレースが幾重にも重ねた最新ドレス。
長い裾が赤い絨毯の上を滑るたび、シャンデリアの光を浴び真珠のような光沢を放つドレスは、瞬く間に帝都で一番人気のドレスとなった。
二人が壇上で振り返った瞬間、帝国ホテルは割れんばかりの拍手と歓喜に包まれる。
「千歳、これからもずっと側に」
「はい。鷹臣様。この子も一緒に」
千歳がおなかに触れながら満面の笑みを向けると、鷹臣は一瞬だけ、時が止まったかのように目を見開いた。
帝都を震撼させるあやかしを前にしても、眉ひとつ動かさなかった「鬼の大佐」が、今、人々の前でこれ以上ないほど動揺し、そして崩れるような柔らかな笑みを浮かべる。
「この世界に、俺たちが守るべき命がもうひとつ増えるのか」
鷹臣は千歳の小さな手に重ねるように、自分の手をそっと千歳の腹部へと添えた。
そこにはまだ確かな感触はない。
だが、自分たちの愛が結んだ、新しく尊い命の鼓動がここから始まる。
「千歳。おまえと出会ったあの日、俺は自分の人生にこれほどの光が射すとは思いもしなかった」
鷹臣は衆人環視など露知らず、千歳の水鏡の紋章に口づけを落とす。
「おまえとその腹に宿る命……すべてを賭けて、俺が守り抜く。この帝都も、おまえたちが笑って過ごせる場所にすると約束する」
力強い誓いに、会場からはさきほどを上回る万雷の拍手が鳴り響いた。
――いつか、生まれてくる我が子に語って聞かせよう。
鬼神と呼ばれた英雄と、彼に愛された世界で一番幸せな花嫁の、嘘のような本当の話を。
END
千歳の腰を引き寄せた鷹臣は、ごく自然な動作でその膝裏に腕を差し入れた。
「た、鷹臣様……?」
鷹臣が千歳を軽々と抱き上げると、白無垢の重厚な裾が漆黒の軍服の上で鮮やかに波打った。
その瞬間、参道を埋め尽くした民衆から、割れんばかりの歓声と今日一番の熱狂的な拍手が沸き起こる。
森部が「演出です」と言わんばかりに得意げに眼鏡を光らせながら部下たちに合図を送ると、部下たちは誇らしげに道を空け、軍用車までのレッドカーペットを守護する壁となった。
「鷹臣様、みなさまが見ていらっしゃいます」
「おまえは俺の物だと見せつけているのだ」
鷹臣は千歳の体温をその腕にしっかりと感じながら、砂利道を力強い足取りで進んでいく。
この日のために作られた黒光りする軍用車のオープンカーの前へと辿り着いた鷹臣は、千歳を座席へ優しく降ろすと、自身も隣へ乗り込み、千歳の手を強く握った。
森部が運転する軍用車のエンジンが低く唸りを上げ、ゆっくりと車が動き出す。
帝都のメインストリートを抜け、帝国ホテルへと向かう間にも二人は多くの民衆から祝福された。
純白のウェディングドレスに着替えた千歳の隣には、黒い燕尾服を完璧に着こなした鷹臣。
軍服を脱いだ鷹臣は見惚れるほど優雅で、圧倒的な独占欲を隠そうともしない一人の男としての色香を纏っていた。
「似合っている。白無垢も良かったが、この姿も俺以外の男には見せたくないほどだ」
鷹臣は千歳のレースの手袋に包まれた指先を取り、その甲に熱い口づけを落とす。
「鷹臣様の燕尾服も素敵です。まるで……」
「まるで、なんだ?」
「絵本の、王子様みたいです」
先日読んだ絵本に出て来た王子は金髪だったが、それ以外はそっくりだと千歳は微笑む。
「ほう。どんな話だ?」
「……攫われた姫を、世界の果てまで救いに行く王子の物語です」
富士の氷穴に助けに来てくれた鷹臣と同じだと、千歳は少し照れくさそうに鷹臣を見つめた。
帝国ホテルの大階段を二人は仲睦まじく上っていく。
千歳の纏う純白のウェディングドレスは、当時の流行を取り入れつつ繊細なレースが幾重にも重ねた最新ドレス。
長い裾が赤い絨毯の上を滑るたび、シャンデリアの光を浴び真珠のような光沢を放つドレスは、瞬く間に帝都で一番人気のドレスとなった。
二人が壇上で振り返った瞬間、帝国ホテルは割れんばかりの拍手と歓喜に包まれる。
「千歳、これからもずっと側に」
「はい。鷹臣様。この子も一緒に」
千歳がおなかに触れながら満面の笑みを向けると、鷹臣は一瞬だけ、時が止まったかのように目を見開いた。
帝都を震撼させるあやかしを前にしても、眉ひとつ動かさなかった「鬼の大佐」が、今、人々の前でこれ以上ないほど動揺し、そして崩れるような柔らかな笑みを浮かべる。
「この世界に、俺たちが守るべき命がもうひとつ増えるのか」
鷹臣は千歳の小さな手に重ねるように、自分の手をそっと千歳の腹部へと添えた。
そこにはまだ確かな感触はない。
だが、自分たちの愛が結んだ、新しく尊い命の鼓動がここから始まる。
「千歳。おまえと出会ったあの日、俺は自分の人生にこれほどの光が射すとは思いもしなかった」
鷹臣は衆人環視など露知らず、千歳の水鏡の紋章に口づけを落とす。
「おまえとその腹に宿る命……すべてを賭けて、俺が守り抜く。この帝都も、おまえたちが笑って過ごせる場所にすると約束する」
力強い誓いに、会場からはさきほどを上回る万雷の拍手が鳴り響いた。
――いつか、生まれてくる我が子に語って聞かせよう。
鬼神と呼ばれた英雄と、彼に愛された世界で一番幸せな花嫁の、嘘のような本当の話を。
END



