『英雄の凱旋:祝言戦略計画。参謀本部了承済み、帝都の安定と軍の威厳回復に関する極秘案』
目的。
①大衆心理の掌握。
古のあやかしを討った鬼の隊長が愛妻家だと帝都全土に流布し、軍に対する畏怖を親愛へと変換する。
②政敵へのけん制。
大河原元大将の罪状と対比させ、神楽坂大佐を正義の象徴へ。
会場、明治神宮ならびに帝国ホテル。
帝国初のホテルウェディングとしての話題性を最大限に活用し、帝都中の羨望を集める。
「……森部。なんだこれは」
婚礼衣装、広報戦略、帝都新聞号外の掲載。
奉祝記念品を銀座の各店で販売。
重要招待客リスト、祝言後における政治的影響力の予測まで。
「正直、こちらの方が時間がかかりました」
やりきったとばかりに、森部は満足げな顔をした。
「参謀本部の大将が帝都を危険に晒したとなれば、やはり大衆が黙っておりません」
「だからといって」
「白無垢も良いですが、ウェディングドレスへのお色直しもお似合いでしょうね」
赤の色打掛は『魔除け』の意味もあると森部は語る。
参謀本部了承済みと書かれた決定事項に、鷹臣は溜息をついた。
「一年後は遅すぎる。半年後にしろ」
「帝都中の要人を招き、この規模の警備と演出を整えるのですよ。半年では衣装の調達すら……」
かなり無理な日程だと森部は眼鏡を押し上げた。
「一年後は身重か、出産後だろう。無理はさせられん」
「た、鷹臣様」
千歳は耳まで真っ赤になり、顔を両手で覆う。
「……なるほど」
森部は一瞬の沈黙の後、予定表に二重線を引き、半年後の日付を書き込んだ。
最高級呉服商へ色打掛の早急な仕立てを依頼。
帝国ホテル、あるいは軍の威信をかけた特別会場の確保。
「英雄」を狙う残党を警戒し、選りすぐりの精鋭を配置。
神楽坂から森部への残業代(最高級菓子詰め合わせ)の請求。
森部は半年後の挙式に向けた緊急任務リストを書きながら、「腕が鳴りますね」と眼鏡を光らせた。
◇
急速な近代化を遂げる帝都。
その華やかさの裏側には、時代の潮流から取り残された者の嫉妬や、持たざる者の絶望が堆積している。
古のあやかしはいなくなったが、人々の行き場のない負の感情は無くなることはなく、やがてあやかしに変貌し、繁栄の影で蠢きだすのは変わらなかった。
大正浪漫の華やかさの裏で、闇に潜むあやかしを狩る帝国陸軍・対魔特務部隊は変わらず存続。
変わったことといえば、あやかしを殲滅させても負の感情が鷹臣を苦しめることがなくなったこと、そして民衆が鷹臣を英雄だと称え、あやかし狩りを行う対魔特務部隊が極秘ではなくなったことだ。
「神楽坂閣下だ!」
ガス燈がぼんやりと照らす夜の銀座。
掃討作戦を終えた特務部隊が路地から現れると、惜しみない称賛の拍手や女性たちの黄色い声が送られる。
「……森部。お前の描いたデタラメが、相当効いているようだな」
「デタラメとは心外ですね。妻を救うために古のあやかしを討った愛妻家の英雄。これほど大衆に愛される物語はありません」
森部は眼鏡のブリッジをクイッと押し上げ、不敵に微笑んだ。
「民衆が協力的になったことで、あやかしの予兆が以前より早く特務部隊の耳に届くようになり、帝都の治安は劇的に向上しています」
英雄の存在のおかげで、ここ最近はあやかしの発生率も減っていると森部は報告した。
目的。
①大衆心理の掌握。
古のあやかしを討った鬼の隊長が愛妻家だと帝都全土に流布し、軍に対する畏怖を親愛へと変換する。
②政敵へのけん制。
大河原元大将の罪状と対比させ、神楽坂大佐を正義の象徴へ。
会場、明治神宮ならびに帝国ホテル。
帝国初のホテルウェディングとしての話題性を最大限に活用し、帝都中の羨望を集める。
「……森部。なんだこれは」
婚礼衣装、広報戦略、帝都新聞号外の掲載。
奉祝記念品を銀座の各店で販売。
重要招待客リスト、祝言後における政治的影響力の予測まで。
「正直、こちらの方が時間がかかりました」
やりきったとばかりに、森部は満足げな顔をした。
「参謀本部の大将が帝都を危険に晒したとなれば、やはり大衆が黙っておりません」
「だからといって」
「白無垢も良いですが、ウェディングドレスへのお色直しもお似合いでしょうね」
赤の色打掛は『魔除け』の意味もあると森部は語る。
参謀本部了承済みと書かれた決定事項に、鷹臣は溜息をついた。
「一年後は遅すぎる。半年後にしろ」
「帝都中の要人を招き、この規模の警備と演出を整えるのですよ。半年では衣装の調達すら……」
かなり無理な日程だと森部は眼鏡を押し上げた。
「一年後は身重か、出産後だろう。無理はさせられん」
「た、鷹臣様」
千歳は耳まで真っ赤になり、顔を両手で覆う。
「……なるほど」
森部は一瞬の沈黙の後、予定表に二重線を引き、半年後の日付を書き込んだ。
最高級呉服商へ色打掛の早急な仕立てを依頼。
帝国ホテル、あるいは軍の威信をかけた特別会場の確保。
「英雄」を狙う残党を警戒し、選りすぐりの精鋭を配置。
神楽坂から森部への残業代(最高級菓子詰め合わせ)の請求。
森部は半年後の挙式に向けた緊急任務リストを書きながら、「腕が鳴りますね」と眼鏡を光らせた。
◇
急速な近代化を遂げる帝都。
その華やかさの裏側には、時代の潮流から取り残された者の嫉妬や、持たざる者の絶望が堆積している。
古のあやかしはいなくなったが、人々の行き場のない負の感情は無くなることはなく、やがてあやかしに変貌し、繁栄の影で蠢きだすのは変わらなかった。
大正浪漫の華やかさの裏で、闇に潜むあやかしを狩る帝国陸軍・対魔特務部隊は変わらず存続。
変わったことといえば、あやかしを殲滅させても負の感情が鷹臣を苦しめることがなくなったこと、そして民衆が鷹臣を英雄だと称え、あやかし狩りを行う対魔特務部隊が極秘ではなくなったことだ。
「神楽坂閣下だ!」
ガス燈がぼんやりと照らす夜の銀座。
掃討作戦を終えた特務部隊が路地から現れると、惜しみない称賛の拍手や女性たちの黄色い声が送られる。
「……森部。お前の描いたデタラメが、相当効いているようだな」
「デタラメとは心外ですね。妻を救うために古のあやかしを討った愛妻家の英雄。これほど大衆に愛される物語はありません」
森部は眼鏡のブリッジをクイッと押し上げ、不敵に微笑んだ。
「民衆が協力的になったことで、あやかしの予兆が以前より早く特務部隊の耳に届くようになり、帝都の治安は劇的に向上しています」
英雄の存在のおかげで、ここ最近はあやかしの発生率も減っていると森部は報告した。



