「伊達にわがままな上官の面倒は見ておりません」
森部は下がってもいない眼鏡のブリッジを押し上げる。
鷹臣は森部の後ろで発煙筒を焚くと、氷穴の奥から持ってきた氷に押し当て水へと変えた。
「ははは。発煙筒など無駄だというのに」
誰も助けに来ないと大河原は笑う。
森部は大河原を無視し、彼の部下たちへ話しかけた。
「古のあやかしが氷穴から這い上がる振動で帝都は壊滅し、国全体が古のあやかしの冷気で氷河期に入ると、参謀本部から研究結果が出ていたはずですが、それを防いだ者たちになぜ銃を向けているのでしょうか?」
森部の問いに、部下たちは視線を泳がす。
「古のあやかしを倒すまでの間に、幾度となく揺れませんでしたか?」
森部の言葉に狼狽えた数人が銃を下ろしていく。
森部が気を引いているうちに、千歳は鷹臣が発煙筒で溶かしてくれた氷水を覗き込み、水鏡の紋章を映した。
「この娘は水鏡の巫女。神の娘です」
森部のタイミングを見計らったかのように、千歳の水鏡の紋章が三人だけを囲うように発動する。
銃を構えていた部下たちはその神聖な光景に圧倒され、ひとり、またひとりと膝をつきながら武器を落とした。
「ひ、怯むな! 撃てと言っているだろう! 幻覚だ、これはただの……!」
「大河原大将閣下。私欲のために水鏡の巫女を利用しようとし、帝都を危機に晒したあなたこそ国家反逆罪でとらえられるべきでしょう」
「う、うるさい! おまえたちが撃たぬなら……!」
大河原は地面に落ちた銃を拾い、森部に向けた。
「……お忘れですか?」
森部の後ろから弾丸のような速度で鷹臣が飛び出す。
「うちの隊長は、古のあやかしを倒せるほど強いのですよ」
森部が話し終わるのが先か、鷹臣が大河原に拳を入れたのが先か。
地面に倒れた大河原を見た部下たちには、もう戦意はまったくなかった。
「拘束具があれば貸していただけますか?」
「は、はい。ど、ど、どうぞ。いえ、俺が……」
部下の一人は差し出すと同時に、自分が大河原を拘束すると率先して行動する。
地面に広がった水鏡の紋章が消え、ゆっくりと洞窟から出てきた千歳に、部下たちは一斉に直立不動の姿勢をとり、最敬礼で迎えた。
「えっ?」
異様な光景に驚く千歳を鷹臣は自分の外套でスッと隠す。
「俺の妻を勝手に見るな」
「ハッ! 失礼いたしました!」
彼らは慌てて視線を地面に落としたが、その直立不動の姿勢は崩れない。
「……鷹臣様。みなさま急にどうされたのでしょうか?」
事情がよくわかっていない千歳が首をかしげると、鷹臣は外套の上から千歳の肩をさらに強く抱きしめた。
「大罪人の大河原はおまえたちに任せる」
「責任を持って、軍本部に引き渡します!」
先ほどまで大河原に従っていた部下たちは、見違えるような規律正しさで鷹臣に応じる。
さらに率先して物資や上着を差し出す部下も現れ、参謀本部の方が上位部署のはずなのに現場は不思議な光景になった。
「森部」
「まさかとは思いますが、この状況で私に運転して帝都に戻れと……?」
今、一緒に中にいましたよと森部は溜息をつく。
「……働かせすぎではないですか?」
このあと報告書もあるのにと森部は文句を言いながらも、どこか晴れやかな顔で車の鍵を取り出した。
森部は下がってもいない眼鏡のブリッジを押し上げる。
鷹臣は森部の後ろで発煙筒を焚くと、氷穴の奥から持ってきた氷に押し当て水へと変えた。
「ははは。発煙筒など無駄だというのに」
誰も助けに来ないと大河原は笑う。
森部は大河原を無視し、彼の部下たちへ話しかけた。
「古のあやかしが氷穴から這い上がる振動で帝都は壊滅し、国全体が古のあやかしの冷気で氷河期に入ると、参謀本部から研究結果が出ていたはずですが、それを防いだ者たちになぜ銃を向けているのでしょうか?」
森部の問いに、部下たちは視線を泳がす。
「古のあやかしを倒すまでの間に、幾度となく揺れませんでしたか?」
森部の言葉に狼狽えた数人が銃を下ろしていく。
森部が気を引いているうちに、千歳は鷹臣が発煙筒で溶かしてくれた氷水を覗き込み、水鏡の紋章を映した。
「この娘は水鏡の巫女。神の娘です」
森部のタイミングを見計らったかのように、千歳の水鏡の紋章が三人だけを囲うように発動する。
銃を構えていた部下たちはその神聖な光景に圧倒され、ひとり、またひとりと膝をつきながら武器を落とした。
「ひ、怯むな! 撃てと言っているだろう! 幻覚だ、これはただの……!」
「大河原大将閣下。私欲のために水鏡の巫女を利用しようとし、帝都を危機に晒したあなたこそ国家反逆罪でとらえられるべきでしょう」
「う、うるさい! おまえたちが撃たぬなら……!」
大河原は地面に落ちた銃を拾い、森部に向けた。
「……お忘れですか?」
森部の後ろから弾丸のような速度で鷹臣が飛び出す。
「うちの隊長は、古のあやかしを倒せるほど強いのですよ」
森部が話し終わるのが先か、鷹臣が大河原に拳を入れたのが先か。
地面に倒れた大河原を見た部下たちには、もう戦意はまったくなかった。
「拘束具があれば貸していただけますか?」
「は、はい。ど、ど、どうぞ。いえ、俺が……」
部下の一人は差し出すと同時に、自分が大河原を拘束すると率先して行動する。
地面に広がった水鏡の紋章が消え、ゆっくりと洞窟から出てきた千歳に、部下たちは一斉に直立不動の姿勢をとり、最敬礼で迎えた。
「えっ?」
異様な光景に驚く千歳を鷹臣は自分の外套でスッと隠す。
「俺の妻を勝手に見るな」
「ハッ! 失礼いたしました!」
彼らは慌てて視線を地面に落としたが、その直立不動の姿勢は崩れない。
「……鷹臣様。みなさま急にどうされたのでしょうか?」
事情がよくわかっていない千歳が首をかしげると、鷹臣は外套の上から千歳の肩をさらに強く抱きしめた。
「大罪人の大河原はおまえたちに任せる」
「責任を持って、軍本部に引き渡します!」
先ほどまで大河原に従っていた部下たちは、見違えるような規律正しさで鷹臣に応じる。
さらに率先して物資や上着を差し出す部下も現れ、参謀本部の方が上位部署のはずなのに現場は不思議な光景になった。
「森部」
「まさかとは思いますが、この状況で私に運転して帝都に戻れと……?」
今、一緒に中にいましたよと森部は溜息をつく。
「……働かせすぎではないですか?」
このあと報告書もあるのにと森部は文句を言いながらも、どこか晴れやかな顔で車の鍵を取り出した。



