向かいのレストランを訪れると仰々しく黄色い規制線が張られていた。二人の警察が入り口を守っている。おそらくは劇団員の人なのだろうがなんとも迫力がある。
どうすれば中に入れてもらえるのだろうか。
となりの夜空は教えてくれそうもない。
「あの……僕は閃木孝太郎というものですが、その、レストランで事件があったと聞きまして」
「これは閃木先生じゃないですか!ご苦労様です!事件の捜査ですね、どうぞお入りください!」
警官はそういうと、ニッコリ笑い黄色いテープを持ち上げた。
なんだ、名乗れば入れてくれる仕組みなのか。名探偵様々とというわけだ。
店の中はレストラン兼劇場になっていた。おしゃれな店内に小さいもののしっかりとした舞台が設置されている。昨晩夜空が演奏をしていた舞台であろう。
その真ん中には警察が引いたであろう白線が昨晩そこに死体があったことを物語っていた。他にもあちこち番号のついた札と白線が点在している。
一際目を引いたのはやはり舞台中央の血痕であった。
死体の白線から広がっている生々しい赤色が舞台を染めている。
「なにかあったら声かけてくださいねー」
夜空は相変わらずSNSで洋服を吟味していた。
閃木は息を呑みゆっくりと血痕に近づいた。刺殺されたという設定通りの血の量に一瞬だけ気持ち悪くなった。作り物だと認識するまでしばらく脳を揺さぶっていたが深呼吸を挟み捜査を開始する。
みたところ血痕は乾いており、昨晩の鮮烈さを物語っている。
死体から舞台奥に流れており、その道筋をゆっくりと辿った。
「ん?」
よく見るとその端は不自然な位置で途切れている。
まるで何かに遮られたようにぴたりと止まっていた。
「もしかして……このステージには奈落があるんじゃないか?」
奈落とは劇場の舞台や花道の下の地下室のことだ。せりと呼ばれる装置が設置されており、舞台下から舞台上へ上がることができる。
おそらくこの死体はそのせりをつかって舞台下から舞台上に運ばれたのではないだろうかと閃木は考えた。
だとすれば本当の殺害現場は舞台下ということに……そこまで考えたところで後ろから老人の声がした。
「ええ、ありますよ、奈落。」
振り返ると白髪の紳士がこちらを覗いていた。蓄えたヒゲがなんとも上品だ。
「シェフをしております。後藤です。今日は警察に呼ばれて来ておりまして……見てみますか?奈落を」
後藤と名乗ったシェフは舞台袖を指さした。どうにもそこに入り口があるらしい。
「ぜひお願いします。いくよ夜空ちゃん」
「はーい」
後藤の案内で舞台袖にあった急勾配な階段から地下へと降りる。
閃木の推理が正しければそこは本当の事件現場。悲惨な風景が広がっているかもしれない……
「ここは昔劇場でしてね、そこを今のオーナーが買い取って改装したのでありますよ」
そんな説明を聞きながら地下へと足を踏み入れる。
閃木は息を呑んだ。
しかしその場にあったのは残酷な殺害現場ではなかった。
低い天井の下は掃除の行き届いた綺麗な空間であり埃一つない。またいくつものテーブルと椅子が並んでおり、レストランの一部のようであった。
「当レストランは大変ありがたいことに大盛況でして、普段は地下までお客さんを入れているのですよ」
「はぁ……」
「地下は秘密基地のようだと人気がありまして…いつも満席でございます」
なんということだ、てっきり殺人は地下で行われたと思っていたがアテが外れただろうか。
「では昨日もここは人がいたんですか?」
落胆しつつ閃木は後藤に問いかけた。地下に人がいたとするならばここは殺害現場ではありえないのだから。
しかし後藤の返事は思ってもいないものだった。
「いえ、そこがこの事件のポイント、でございます」
一瞬眼光が鋭く光ったように見えた。真剣な面持ちで後藤は語り始めた。
「当日は地上でイベントがあったため、地下を封鎖しておりました。そのため地下に降りられた人は限られてございます。」
「限られている?」
「つまりですね」
後藤が語るにはこういうことだ。
地下への道は停電時もガードマンにより封鎖されていた。つまり客席から地下に降りることは不可能であった。
しかし全ての人間ではない。例えば舞台上にいた夜空は暗闇に乗じて先ほど閃木たちの使ったルートで地下に降りることができる。また楽屋は地下へ繋がっており、当日楽屋にいた人間も同じく地下へと侵入が可能であった。
閃木は少し頭を捻った
「つまり地下を使った場合、容疑者は限られると……」
「左様でございます」
それは願ったり叶ったりであった。閃木の考えていたトリックにはうってつけの展開だった。
「何かわかりましたか?」
夜空がスマホから珍しく顔をあげこちらを伺っている。
「ああ少しね、とりあえずトリックを試してみよう。もう見当はついてるかもしれないけど……」
閃木はゆっくりと舞台の真下へ移動した。
どうすれば中に入れてもらえるのだろうか。
となりの夜空は教えてくれそうもない。
「あの……僕は閃木孝太郎というものですが、その、レストランで事件があったと聞きまして」
「これは閃木先生じゃないですか!ご苦労様です!事件の捜査ですね、どうぞお入りください!」
警官はそういうと、ニッコリ笑い黄色いテープを持ち上げた。
なんだ、名乗れば入れてくれる仕組みなのか。名探偵様々とというわけだ。
店の中はレストラン兼劇場になっていた。おしゃれな店内に小さいもののしっかりとした舞台が設置されている。昨晩夜空が演奏をしていた舞台であろう。
その真ん中には警察が引いたであろう白線が昨晩そこに死体があったことを物語っていた。他にもあちこち番号のついた札と白線が点在している。
一際目を引いたのはやはり舞台中央の血痕であった。
死体の白線から広がっている生々しい赤色が舞台を染めている。
「なにかあったら声かけてくださいねー」
夜空は相変わらずSNSで洋服を吟味していた。
閃木は息を呑みゆっくりと血痕に近づいた。刺殺されたという設定通りの血の量に一瞬だけ気持ち悪くなった。作り物だと認識するまでしばらく脳を揺さぶっていたが深呼吸を挟み捜査を開始する。
みたところ血痕は乾いており、昨晩の鮮烈さを物語っている。
死体から舞台奥に流れており、その道筋をゆっくりと辿った。
「ん?」
よく見るとその端は不自然な位置で途切れている。
まるで何かに遮られたようにぴたりと止まっていた。
「もしかして……このステージには奈落があるんじゃないか?」
奈落とは劇場の舞台や花道の下の地下室のことだ。せりと呼ばれる装置が設置されており、舞台下から舞台上へ上がることができる。
おそらくこの死体はそのせりをつかって舞台下から舞台上に運ばれたのではないだろうかと閃木は考えた。
だとすれば本当の殺害現場は舞台下ということに……そこまで考えたところで後ろから老人の声がした。
「ええ、ありますよ、奈落。」
振り返ると白髪の紳士がこちらを覗いていた。蓄えたヒゲがなんとも上品だ。
「シェフをしております。後藤です。今日は警察に呼ばれて来ておりまして……見てみますか?奈落を」
後藤と名乗ったシェフは舞台袖を指さした。どうにもそこに入り口があるらしい。
「ぜひお願いします。いくよ夜空ちゃん」
「はーい」
後藤の案内で舞台袖にあった急勾配な階段から地下へと降りる。
閃木の推理が正しければそこは本当の事件現場。悲惨な風景が広がっているかもしれない……
「ここは昔劇場でしてね、そこを今のオーナーが買い取って改装したのでありますよ」
そんな説明を聞きながら地下へと足を踏み入れる。
閃木は息を呑んだ。
しかしその場にあったのは残酷な殺害現場ではなかった。
低い天井の下は掃除の行き届いた綺麗な空間であり埃一つない。またいくつものテーブルと椅子が並んでおり、レストランの一部のようであった。
「当レストランは大変ありがたいことに大盛況でして、普段は地下までお客さんを入れているのですよ」
「はぁ……」
「地下は秘密基地のようだと人気がありまして…いつも満席でございます」
なんということだ、てっきり殺人は地下で行われたと思っていたがアテが外れただろうか。
「では昨日もここは人がいたんですか?」
落胆しつつ閃木は後藤に問いかけた。地下に人がいたとするならばここは殺害現場ではありえないのだから。
しかし後藤の返事は思ってもいないものだった。
「いえ、そこがこの事件のポイント、でございます」
一瞬眼光が鋭く光ったように見えた。真剣な面持ちで後藤は語り始めた。
「当日は地上でイベントがあったため、地下を封鎖しておりました。そのため地下に降りられた人は限られてございます。」
「限られている?」
「つまりですね」
後藤が語るにはこういうことだ。
地下への道は停電時もガードマンにより封鎖されていた。つまり客席から地下に降りることは不可能であった。
しかし全ての人間ではない。例えば舞台上にいた夜空は暗闇に乗じて先ほど閃木たちの使ったルートで地下に降りることができる。また楽屋は地下へ繋がっており、当日楽屋にいた人間も同じく地下へと侵入が可能であった。
閃木は少し頭を捻った
「つまり地下を使った場合、容疑者は限られると……」
「左様でございます」
それは願ったり叶ったりであった。閃木の考えていたトリックにはうってつけの展開だった。
「何かわかりましたか?」
夜空がスマホから珍しく顔をあげこちらを伺っている。
「ああ少しね、とりあえずトリックを試してみよう。もう見当はついてるかもしれないけど……」
閃木はゆっくりと舞台の真下へ移動した。

