中堂と名乗った男は確かに電話越しと同じ声をしていた。中肉中背でメガネをかけ、いかにもサラリーマンといったスーツを着ている。
「あの、離してあげてくれませんか?」
閃木が警察官を一瞥すると彼らは仕方ないといった様子で離れていった。
「電話をもらって慌てて駆けつけたんです……!」
そういうと深々と頭を下げた。
夜空は弄っていたスマホから目を離し、気怠げに挨拶をした。
「あ、お疲れ様ですー」
「夜空ちゃんお疲れ様です……じゃなくて!え!夜空ちゃんそんな感じなの!?ダメだよ!?」
「えぇまぁ……座長には秘密でお願いします」
中堂は慌てふためいた様子で夜空を窘めた。思えば夜空以外の人間はこの世界に溶け込んでいるように思う。閃木は夜空を睨んだ。なんだダメなんじゃないか……と。
こうなってくると演技でいいのは座長の前だけだという夜空の発言も怪しい。素で話してしまっていたことに若干の焦りを覚えるも、今から演技を変えるわけにもいかない。
閃木はコホンと一度咳をして話題を戻すことにした。
「それで中堂さんはどうしてここへ?」
「あ!そうですよ!閃木先生のおかげで中に入ることができました!ありがとうございます!」
へらへらと笑顔を浮かべながらそう挨拶する中堂を真面目な人だなぁと思いながら閃木は椅子へ座るように促した。
「レイを疑うなんてとんでもないですよ!レイは鈴木さんとは仲が良くて殺すなんてありえませんから!」
「机を叩かないでくださいよ……まだ容疑者の段階ですので。それに鈴木さんとは知り合いということで、もしかして言い争いになってこう、ブスッと、刺しちゃったとか」
「やめてくださいよ……レイはああ見えて気弱な女の子なんですから」
ホームページで見た二階堂レイの顔を思い出す。キリッとした目つきに派手な赤いリップ。とてもではないが気弱や女の子という見た目ではなかった。
「そういえば……レイは開演前に鈴木さんを探していたな。楽屋前で不安そうに行ったり来たり」
「え?鈴木さん、開演前にいなかったんですか?」
閃木と夜空は顔を見合わせた。
「そうみたいですね、思えば私たち鈴木さんの足取りについてはノータッチでしたね。というか聞き込みというものを一切していません」
「それをいうなよ、これでも必死にやってる。」
探偵としての未熟な部分を突かれ、図星具合が骨身に染みる。
そんなやりとりを中堂も苦笑いで見ていた。
「もしよろしければ当日の鈴木さんの行動について説明しましょうか?」
「いいんですか!ぜひお願いします!」
願ったり叶ったりである。中堂という男はとても気のいい人間なのかもしれない。兎にも角にも中堂の発言は事件を大きく揺るがすこととなった。
「鈴木さんはまず、昨日の夜は隣のビルにいる予定だったんですよ」
これは寝耳に水であった。隣のビルといえば星野劇団のビルであるがここではおそらく関係ないだろう。
「理由はショーの演出にあります。よかったらビデオを見ながらご説明しますよ」
そういうと中堂はタブレットを取り出して再生し始めた。
中堂が再生したのは過去行われた二階堂レイのマジックショーの映像だった。
まずは鈴木に似た服装の男が立ったまま入れる大きな箱に入る。マジックショーではよく見るような光景だ。ちなみにこの男はバイトだという。
次に箱の蓋を閉じ、二階堂レイが剣を振り翳す。
その後箱に剣を突き刺すが、蓋を開けると中にいた鈴木はいない。
すると二階席にスポットライトがあたりそこから隠れていた鈴木がワイヤーアクションを用いて現れる、というものだった。
「以上がこのマジックの全貌です。この映像では客席から現れてますが昨日はビルの屋上から現れる予定でした」
「だから隣のビルにいるはずだったと……」
しかし実際は隣のビルにはいなかったはずだ。二階堂レイが鈴木を探していたこともそうだが、彼は舞台上にいたのだから。停電の暗闇の中で、誰かに刺殺されて。
おそらくは隣のビルへ行く前に地下で殺され、停電と同時に地上へ運ばれたのだろうが……。
「あの〜」
中堂が恐る恐るといったように手を挙げて口を開いた。
「ところで、犯人はどうして停電がおこるって知ってたんでしょうか?」
「はい?」
「死体が発見されたのは停電直後のはずですよね?停電が起きるって知ってたから死体をすぐ移動できたのではないですか?」
「ええ、そりゃそうでしょう。犯人がブレーカーを落としたんでしょう」
「あれ?聞いてないんですか?困ったな変なヒントを出してしまいましたね」
「どういうことですか」
「停電はね、地震が原因で起こったんですよ」
閃木は唖然とした。
「地震!?昨日の夜は地震があったんですか!?」
では、ブレーカーが落ちたのはたまたまということになる。閃木はすっかり停電が意図的に起こされたものと考えていたためこれは完全に盲点であった。
夜空が追い討ちをかけるように手を挙げた。
「じゃぁ私からもいいですか?ブレーカーが落ちててもセリ…昇降機は動くんですかね?」
閃木はまたもや頭を殴られたような気分になった。セリは先ほど夜空がスイッチをいれ、電動で動いていた。つまり停電の中で動いたはずはない。夜空の言うことはもっともだった。
停電中にセリを動かし死体を移動させることはそもそも不可能だったのだ。
閃木は頭を抱えた。今までの推理は水の泡と化した。
時刻は午後の四時を回っていた。夕暮れまであと二時間くらいだろうか。
期限は夕暮れまで。
タイムリミットは迫っていた。
「やっぱり私しかいませんか?」
閃木は夜空の声に顔を上げた。
「もしかしたら鈴木さんは出番の前に私に告白しようと舞台袖にいたのかもしれませんよ?」
「私は停電に乗じて鈴木さんを刺したのかも」
「そして泣き喚くフリをして痕跡を消した」
「それが答えかもしれませんよ?」
脳が揺れる音がする。
「そんなわけないだろ!」
閃木は机を大きく叩くと再び頭を抱えて悩み込んだ。
そんなわけない。静かにしてくれ。今考えているんだ。
終わってしまう。オーディションが。
人生が、終わってしまう。
推理は全て間違っていた。
後二時間で閃木は全ての推理をやり直さなければならない。
現実が重く乗り掛かる。途方に暮れていた。
これには流石に夜空も心配の色を見せた。スマホをポケットにしまい、閃木の肩を叩く。
「ちょっと休憩にしませんか?」
閃木は静かにうなずいた。
「あの、離してあげてくれませんか?」
閃木が警察官を一瞥すると彼らは仕方ないといった様子で離れていった。
「電話をもらって慌てて駆けつけたんです……!」
そういうと深々と頭を下げた。
夜空は弄っていたスマホから目を離し、気怠げに挨拶をした。
「あ、お疲れ様ですー」
「夜空ちゃんお疲れ様です……じゃなくて!え!夜空ちゃんそんな感じなの!?ダメだよ!?」
「えぇまぁ……座長には秘密でお願いします」
中堂は慌てふためいた様子で夜空を窘めた。思えば夜空以外の人間はこの世界に溶け込んでいるように思う。閃木は夜空を睨んだ。なんだダメなんじゃないか……と。
こうなってくると演技でいいのは座長の前だけだという夜空の発言も怪しい。素で話してしまっていたことに若干の焦りを覚えるも、今から演技を変えるわけにもいかない。
閃木はコホンと一度咳をして話題を戻すことにした。
「それで中堂さんはどうしてここへ?」
「あ!そうですよ!閃木先生のおかげで中に入ることができました!ありがとうございます!」
へらへらと笑顔を浮かべながらそう挨拶する中堂を真面目な人だなぁと思いながら閃木は椅子へ座るように促した。
「レイを疑うなんてとんでもないですよ!レイは鈴木さんとは仲が良くて殺すなんてありえませんから!」
「机を叩かないでくださいよ……まだ容疑者の段階ですので。それに鈴木さんとは知り合いということで、もしかして言い争いになってこう、ブスッと、刺しちゃったとか」
「やめてくださいよ……レイはああ見えて気弱な女の子なんですから」
ホームページで見た二階堂レイの顔を思い出す。キリッとした目つきに派手な赤いリップ。とてもではないが気弱や女の子という見た目ではなかった。
「そういえば……レイは開演前に鈴木さんを探していたな。楽屋前で不安そうに行ったり来たり」
「え?鈴木さん、開演前にいなかったんですか?」
閃木と夜空は顔を見合わせた。
「そうみたいですね、思えば私たち鈴木さんの足取りについてはノータッチでしたね。というか聞き込みというものを一切していません」
「それをいうなよ、これでも必死にやってる。」
探偵としての未熟な部分を突かれ、図星具合が骨身に染みる。
そんなやりとりを中堂も苦笑いで見ていた。
「もしよろしければ当日の鈴木さんの行動について説明しましょうか?」
「いいんですか!ぜひお願いします!」
願ったり叶ったりである。中堂という男はとても気のいい人間なのかもしれない。兎にも角にも中堂の発言は事件を大きく揺るがすこととなった。
「鈴木さんはまず、昨日の夜は隣のビルにいる予定だったんですよ」
これは寝耳に水であった。隣のビルといえば星野劇団のビルであるがここではおそらく関係ないだろう。
「理由はショーの演出にあります。よかったらビデオを見ながらご説明しますよ」
そういうと中堂はタブレットを取り出して再生し始めた。
中堂が再生したのは過去行われた二階堂レイのマジックショーの映像だった。
まずは鈴木に似た服装の男が立ったまま入れる大きな箱に入る。マジックショーではよく見るような光景だ。ちなみにこの男はバイトだという。
次に箱の蓋を閉じ、二階堂レイが剣を振り翳す。
その後箱に剣を突き刺すが、蓋を開けると中にいた鈴木はいない。
すると二階席にスポットライトがあたりそこから隠れていた鈴木がワイヤーアクションを用いて現れる、というものだった。
「以上がこのマジックの全貌です。この映像では客席から現れてますが昨日はビルの屋上から現れる予定でした」
「だから隣のビルにいるはずだったと……」
しかし実際は隣のビルにはいなかったはずだ。二階堂レイが鈴木を探していたこともそうだが、彼は舞台上にいたのだから。停電の暗闇の中で、誰かに刺殺されて。
おそらくは隣のビルへ行く前に地下で殺され、停電と同時に地上へ運ばれたのだろうが……。
「あの〜」
中堂が恐る恐るといったように手を挙げて口を開いた。
「ところで、犯人はどうして停電がおこるって知ってたんでしょうか?」
「はい?」
「死体が発見されたのは停電直後のはずですよね?停電が起きるって知ってたから死体をすぐ移動できたのではないですか?」
「ええ、そりゃそうでしょう。犯人がブレーカーを落としたんでしょう」
「あれ?聞いてないんですか?困ったな変なヒントを出してしまいましたね」
「どういうことですか」
「停電はね、地震が原因で起こったんですよ」
閃木は唖然とした。
「地震!?昨日の夜は地震があったんですか!?」
では、ブレーカーが落ちたのはたまたまということになる。閃木はすっかり停電が意図的に起こされたものと考えていたためこれは完全に盲点であった。
夜空が追い討ちをかけるように手を挙げた。
「じゃぁ私からもいいですか?ブレーカーが落ちててもセリ…昇降機は動くんですかね?」
閃木はまたもや頭を殴られたような気分になった。セリは先ほど夜空がスイッチをいれ、電動で動いていた。つまり停電の中で動いたはずはない。夜空の言うことはもっともだった。
停電中にセリを動かし死体を移動させることはそもそも不可能だったのだ。
閃木は頭を抱えた。今までの推理は水の泡と化した。
時刻は午後の四時を回っていた。夕暮れまであと二時間くらいだろうか。
期限は夕暮れまで。
タイムリミットは迫っていた。
「やっぱり私しかいませんか?」
閃木は夜空の声に顔を上げた。
「もしかしたら鈴木さんは出番の前に私に告白しようと舞台袖にいたのかもしれませんよ?」
「私は停電に乗じて鈴木さんを刺したのかも」
「そして泣き喚くフリをして痕跡を消した」
「それが答えかもしれませんよ?」
脳が揺れる音がする。
「そんなわけないだろ!」
閃木は机を大きく叩くと再び頭を抱えて悩み込んだ。
そんなわけない。静かにしてくれ。今考えているんだ。
終わってしまう。オーディションが。
人生が、終わってしまう。
推理は全て間違っていた。
後二時間で閃木は全ての推理をやり直さなければならない。
現実が重く乗り掛かる。途方に暮れていた。
これには流石に夜空も心配の色を見せた。スマホをポケットにしまい、閃木の肩を叩く。
「ちょっと休憩にしませんか?」
閃木は静かにうなずいた。

