鈴木の倒れていた舞台の真下にはセリと呼ばれる昇降機があった。
昇降機を使えば地下から舞台上へ一瞬で移動できる。よく年末の歌番組などで舞台の下からゆっくりと派手な格好の歌手が登ってくるのがあるが同じ装置である。
セリは上がったままになっていた。つまり最後に使われてから誰も舞台から機械を下げていないことになる。
先ほど警察に呼ばれ上へと登って行った後藤は気になることを言っていた。
「停電の直後、バン!という大きな音がしまして、自分がブレーカーをあげるとそこにはもう死体がございました」
閃木はこのバンという音がセリを使ったときの音ではないかと思った。もちろん確信はないので今から試すことになる。
上がっているセリを一旦下ろしてみると、警察の白線があった。ドンピシャ死体のあった位置である。閃木はセリに飛び乗ると夜空に声をかけた。
「夜空ちゃん、セリのスイッチを押してくれる?」
「気をつけてくださいね」
夜空がスイッチを押すとセリはゆっくりと上がり、閃木を舞台上へ押し上げた。そして上がりきったところでバン!という大きな音を立てて停止したのだ。
現役の機械ならこんな音はしないだろうが、長らく使っていなかったであろう機械だ。
何はともあれ、閃木は確証を得た。
死体は地下にあったのだ。
これこそ死体が突然現れたトリックであり、事件現場を撹乱していた真実だと確信した。
「どうでしたか?」
地下へと戻って来た閃木は自信満々に夜空に告げた。
「可能だった。俺の推理はこうだ。
本当の殺害現場は地下だった。そこで夜空ちゃんが演奏中に鈴木さんを殺害した誰かはブレーカーを落とし、停電中にセリを使って死体を舞台上に移動させたんだ」
閃木はもちろん名探偵ではない、ただこの推理には自信があった。だから夜空の反応には少し不満があった。
「んー、まぁいいですけど……それで行きますか?」
「え?」
「あんまり口出ししないように言われてるんですけどね、サービスしちゃいますね。
まずブレーカーを落とした後にセリを下げて死体を乗せた後また舞台上に戻したことになりますが、時間がかかりすぎていませんか?停電の直後のはずでしたよね?」
確かにそうだ、犯人は地下と地上を行ったり来たりしたはずである。そもそも地下への侵入は限られているのでこれは可能だろうか?
では犯人は二人組だったのかもしれない。
「じゃぁ、仮に犯人が二人いたとしてそれは誰ですか?セリを使ったというのはヒラメキさんの妄想でしかないですよね?真犯人を見つけない限り私の容疑を晴らしたとは言えないんじゃないでしょうか?」
それも、確かにそうかもしれない。閃木の自信は瞬く間に消えて行った。
「じゃぁどうすればいいのさ」
「それを探すのがヒラメキさんのお仕事じゃないですか」
本当に、その通りであった。
正直なところ、推理は完成したと思っていた。しかしこの試験はそんなに甘くないこと痛感し、閃木は肩を落とした。
ではどうすればいいのだろう。他の手がかりを探して真犯人を突き止めるためには……。本当に自分が名探偵だったらどんなに良かったか。閃木は捜査の初歩の初歩も知らない。
「でも推理の方向はいいと思うんだよね、なにか見落としてないかな…」
閃木は辺りを見渡した。この現場に何か手がかりはないだろうか。
「どうしました?」
「ここ……」
閃木は何かを見つけたように指さした。照明の影になっており薄暗い壁には揺れるランプの影のほかに、赤い跡が残っていた。
「血痕かもしれない」
「え?」
夜空が怪訝そうな顔をする。
「まだ何かあるかも」
辺りをくまなく探すと、今度は物置の下に黒い物体を見つけた。
手を伸ばして見るとそれはスマホであった。
待ち受けを見るといかにもチャラそうな黒髪の男が写っている。
「ああこれ鈴木さんですよ」と夜空が教えてくれた。
「じゃぁこれは鈴木さんのスマホ?」
中身を見てみたかったが、流石にロックがかかっていた。
他にも辺りを探してみたが目ぼしいものは見当たらなかった。
しかしここで何かがあったのは確かだ。だがその何かはどう証明すればいいのだろうか。
閃木が頭を捻っているも夜空は見かねたように顔をしかめた後、スマホに目を落としながらポツリと呟いた。
「あと私、実は鈴木さんとそんなに仲良くないんです」
「え?」
「そういう設定ですよ、鈴木さんは私に何度も告白してきてくれたんです。それがだんだん怖くなっちゃって、もう近づかないでって言ったんです。だから殺害動機があるんです私」
淡々とスマホから目を逸らすことなくそう言った。
「待って、鈴木さん、知り合いなの!?」
「そうですよ、聞かないから」
思い起こせば閃木は夜空から聞いた話をことの全てだと思い込んでいた。しかし実際は彼らにも人生があり、バックボーンが存在する。
キャラクターは作り込まれている。
これはただのなぞなぞではない。座長星野が作り上げた世界で行われている一種のRPGにも似た膨大な謎解きシュミレーションなのだ。
「じゃぁさ、少し気になっていたんだけどなんでヴァイオリンの舞台にマジシャンがいるわけ?」
おおよそ接点のない二つの職業。確かに気にはなっていたのだ。
「それは私がマジックショーの前座でヴァイオリンを弾いていたからですよ」
「え!?じゃぁ昨日行われていたのはヴァイオリンの演奏会ではなく、マジックショーだったってこと!?」
「はい、まぁ事件のせいでマジックショーは無くなっちゃいましたけど。鈴木さんはとあるマジシャンの助手だったんです。」
「鈴木さんが助手?じょぁ主役は鈴木さんじゃなかったんだ」
「はい、主役はこの人です」
夜空がスマホで画像を見せてきた。ブロンドの髪をした気の強そうな女性が写っている。
「名前は二階堂レイさん!すごいマジシャンなんですよ!私が前座で入れたのもパパがレストランのオーナーだからで……事件があった日も彼女を見ようと人でいっぱいでした!」
「そ、その人会ったことある!?」
「事件の前に挨拶をしましたよ、あ、本当に会ったことあるかって話ですか?劇団の人なのでちゃんと実在してますよ」
夜空の言い方は紛らわしい。他のキャストの人みたいに完全になりきっていてほしいのに……。
「でも今は公演で九州に行ってるとか聞きました、これは物語の中の話ですが」
「九州!?じゃぁ会うことはできないか…」
今は会うことができなくても、容疑者の可能性はある。鈴木とはもちろん知り合いだろうし、いざこざがあってもおかしくはない。
しかし会うことのできない相手をどう探ればいいのだろうか。
こんなときヒラメキなら、名探偵なら……。
もし自分が本当に事件に巻き込まれた探偵ならどうするだろうか?うんと一度唸ってみると簡単な答えに辿り着いた。
しかし、そんなことが可能であるのか。
おもむろにスマホを取り出すと検索エンジンに文字を打ち込む。
『二階堂レイ』
もし相手が有名なマジシャンだと紹介されたら、まずは検索するだろう。しかしこれは現実ではない。こんな方法は通用しないのでないかと疑い半分の気持ちでいた。
疑いの心とは裏腹に検索のトップに二階堂レイのホームページは存在した。
「あっ!あった!?」
「そりゃぁ有名マジシャンですから」
まさかこんなものまで用意されているなんて。さすが星野劇団、恐るべし。ニヤニヤとした夜空の表情は気に入らないが。
二階堂レイのホームページには彼女の輝かしい実績とこれからの公演予定が掲載されていた。
よく見ると、先ほど話していた九州公演が中止になっている。つまり二階堂レイはまだ東京にいるのだ。
いるなら会えるということかもしれない。閃木はホームページに掲載されている連絡先へと電話をかけることにした。
呼び出し音がなるが、すぐに留守電へと切り替わった。
「でないな……」
「おかしいですね、トイレでも行ってるのかなレイさん」
でないものは仕方がないので少し待ってみることにする。閃木は地下レストランの椅子に腰掛け天井を仰いだ。
「二階堂レイのホームページがあるのだから、他にも用意されてるのかなぁ」
「えーいやそこまでは……」
「あ、鈴木さんとか!」
今度は検索エンジンに鈴木尚人と入力する。
どうやら鈴木尚人は本名のようで、星野劇団のホームページがでてきた。
「なんだ」
「ほら言ったじゃないですか」
そんなことをしていると、突然スマホが鳴った。知らない番号からだ。
「はい」
『お世話になっております。中堂です。先ほどお電話いただいたようで折り返しました。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
「中堂……?そちら二階堂レイさんのお電話ではないですか?」
電話は中堂という男性からだった。声からして三十代ぐらいだろうか。くたびれた声が響いた。
『僕は二階堂レイのマネージャーです。失礼ですがどちらでこの番号を?』
「失礼しました。ホームページに掲載されていた番号にかけさせていただいております。僕は私立探偵の閃木孝太郎と申します」
『私立探偵……?私立探偵がレイに何のようですか……?』
中堂は訝しんだ声でこちらを伺っている。閃木はことの経緯を説明し、二階堂レイに会わせてもらえるように頼んだ。
何度か受け答えこそしてくれたものの、説明し終わったところで電話はプツンと切られてしまった。
「あ!切られた!」
「そりゃ怪し過ぎますからね」
「え?僕の問題なわけ?」
「そうでしょう、ゲームのNPCじゃないんですから」
そう言われると黙るしかない。だがこちらも名探偵ではないのだから多めにみていただきたい。
「ただ電話の中で面白いことを聞いたよ」
電話の内容を整理するとこうだ。
まず昨日の夜地下に行けたルートは限られている。一つは舞台袖から階段を降りて地下へ行くルート、そして地下にある楽屋から直接地下へ入るルートだ。
マネージャーの中堂の話では、二階堂レイは停電の間一人で楽屋にいたらしい。
つまり、地下へ行くことのできた限られた人物の一人だったのである。
閃木は意気揚々と夜空に話して聞かせた。犯人候補を見つけたかもしれないと。
「なるほどーよかったですねー」
夜空はスマホを弄りながらぶっきらぼうに答えた。
「なんでだよ!もっと喜びなよ!二階堂さんが犯人なら夜空ちゃんの容疑は晴れるんだよ!」
「そりゃまぁ……そういうことになりますね……ヒラメキさん!がんばって!」
なんともつかみどころのない少女だ。このオーディション自体に興味がないのかもしれない。閃木にとっては人生がかかった大舞台でも彼女にとっては日常の一部なのだろう。
「もっと盛り上がってくれないと僕の気分的にもさ」
「知りませんよそんなこと」
二人がなんだかんだとクダを巻いている間に、レストランの前には一台の車が止まっていた。キッとブレーキ音を立てた後、慌ただしく扉が開き一人の男が降りてくる。
「ちょっと!勝手に入らないでください!」
「お願いです!そこをなんとか!」
男性たちの言い争う声と共にドタドタと階段を駆け降りる音がした。
閃木たちが振り返るとそこには見知らぬメガネの男が立っていた。警察官に取り押さえられながら息を切らしているその男は「レイのマネージャーの中堂です!」と名乗った。
昇降機を使えば地下から舞台上へ一瞬で移動できる。よく年末の歌番組などで舞台の下からゆっくりと派手な格好の歌手が登ってくるのがあるが同じ装置である。
セリは上がったままになっていた。つまり最後に使われてから誰も舞台から機械を下げていないことになる。
先ほど警察に呼ばれ上へと登って行った後藤は気になることを言っていた。
「停電の直後、バン!という大きな音がしまして、自分がブレーカーをあげるとそこにはもう死体がございました」
閃木はこのバンという音がセリを使ったときの音ではないかと思った。もちろん確信はないので今から試すことになる。
上がっているセリを一旦下ろしてみると、警察の白線があった。ドンピシャ死体のあった位置である。閃木はセリに飛び乗ると夜空に声をかけた。
「夜空ちゃん、セリのスイッチを押してくれる?」
「気をつけてくださいね」
夜空がスイッチを押すとセリはゆっくりと上がり、閃木を舞台上へ押し上げた。そして上がりきったところでバン!という大きな音を立てて停止したのだ。
現役の機械ならこんな音はしないだろうが、長らく使っていなかったであろう機械だ。
何はともあれ、閃木は確証を得た。
死体は地下にあったのだ。
これこそ死体が突然現れたトリックであり、事件現場を撹乱していた真実だと確信した。
「どうでしたか?」
地下へと戻って来た閃木は自信満々に夜空に告げた。
「可能だった。俺の推理はこうだ。
本当の殺害現場は地下だった。そこで夜空ちゃんが演奏中に鈴木さんを殺害した誰かはブレーカーを落とし、停電中にセリを使って死体を舞台上に移動させたんだ」
閃木はもちろん名探偵ではない、ただこの推理には自信があった。だから夜空の反応には少し不満があった。
「んー、まぁいいですけど……それで行きますか?」
「え?」
「あんまり口出ししないように言われてるんですけどね、サービスしちゃいますね。
まずブレーカーを落とした後にセリを下げて死体を乗せた後また舞台上に戻したことになりますが、時間がかかりすぎていませんか?停電の直後のはずでしたよね?」
確かにそうだ、犯人は地下と地上を行ったり来たりしたはずである。そもそも地下への侵入は限られているのでこれは可能だろうか?
では犯人は二人組だったのかもしれない。
「じゃぁ、仮に犯人が二人いたとしてそれは誰ですか?セリを使ったというのはヒラメキさんの妄想でしかないですよね?真犯人を見つけない限り私の容疑を晴らしたとは言えないんじゃないでしょうか?」
それも、確かにそうかもしれない。閃木の自信は瞬く間に消えて行った。
「じゃぁどうすればいいのさ」
「それを探すのがヒラメキさんのお仕事じゃないですか」
本当に、その通りであった。
正直なところ、推理は完成したと思っていた。しかしこの試験はそんなに甘くないこと痛感し、閃木は肩を落とした。
ではどうすればいいのだろう。他の手がかりを探して真犯人を突き止めるためには……。本当に自分が名探偵だったらどんなに良かったか。閃木は捜査の初歩の初歩も知らない。
「でも推理の方向はいいと思うんだよね、なにか見落としてないかな…」
閃木は辺りを見渡した。この現場に何か手がかりはないだろうか。
「どうしました?」
「ここ……」
閃木は何かを見つけたように指さした。照明の影になっており薄暗い壁には揺れるランプの影のほかに、赤い跡が残っていた。
「血痕かもしれない」
「え?」
夜空が怪訝そうな顔をする。
「まだ何かあるかも」
辺りをくまなく探すと、今度は物置の下に黒い物体を見つけた。
手を伸ばして見るとそれはスマホであった。
待ち受けを見るといかにもチャラそうな黒髪の男が写っている。
「ああこれ鈴木さんですよ」と夜空が教えてくれた。
「じゃぁこれは鈴木さんのスマホ?」
中身を見てみたかったが、流石にロックがかかっていた。
他にも辺りを探してみたが目ぼしいものは見当たらなかった。
しかしここで何かがあったのは確かだ。だがその何かはどう証明すればいいのだろうか。
閃木が頭を捻っているも夜空は見かねたように顔をしかめた後、スマホに目を落としながらポツリと呟いた。
「あと私、実は鈴木さんとそんなに仲良くないんです」
「え?」
「そういう設定ですよ、鈴木さんは私に何度も告白してきてくれたんです。それがだんだん怖くなっちゃって、もう近づかないでって言ったんです。だから殺害動機があるんです私」
淡々とスマホから目を逸らすことなくそう言った。
「待って、鈴木さん、知り合いなの!?」
「そうですよ、聞かないから」
思い起こせば閃木は夜空から聞いた話をことの全てだと思い込んでいた。しかし実際は彼らにも人生があり、バックボーンが存在する。
キャラクターは作り込まれている。
これはただのなぞなぞではない。座長星野が作り上げた世界で行われている一種のRPGにも似た膨大な謎解きシュミレーションなのだ。
「じゃぁさ、少し気になっていたんだけどなんでヴァイオリンの舞台にマジシャンがいるわけ?」
おおよそ接点のない二つの職業。確かに気にはなっていたのだ。
「それは私がマジックショーの前座でヴァイオリンを弾いていたからですよ」
「え!?じゃぁ昨日行われていたのはヴァイオリンの演奏会ではなく、マジックショーだったってこと!?」
「はい、まぁ事件のせいでマジックショーは無くなっちゃいましたけど。鈴木さんはとあるマジシャンの助手だったんです。」
「鈴木さんが助手?じょぁ主役は鈴木さんじゃなかったんだ」
「はい、主役はこの人です」
夜空がスマホで画像を見せてきた。ブロンドの髪をした気の強そうな女性が写っている。
「名前は二階堂レイさん!すごいマジシャンなんですよ!私が前座で入れたのもパパがレストランのオーナーだからで……事件があった日も彼女を見ようと人でいっぱいでした!」
「そ、その人会ったことある!?」
「事件の前に挨拶をしましたよ、あ、本当に会ったことあるかって話ですか?劇団の人なのでちゃんと実在してますよ」
夜空の言い方は紛らわしい。他のキャストの人みたいに完全になりきっていてほしいのに……。
「でも今は公演で九州に行ってるとか聞きました、これは物語の中の話ですが」
「九州!?じゃぁ会うことはできないか…」
今は会うことができなくても、容疑者の可能性はある。鈴木とはもちろん知り合いだろうし、いざこざがあってもおかしくはない。
しかし会うことのできない相手をどう探ればいいのだろうか。
こんなときヒラメキなら、名探偵なら……。
もし自分が本当に事件に巻き込まれた探偵ならどうするだろうか?うんと一度唸ってみると簡単な答えに辿り着いた。
しかし、そんなことが可能であるのか。
おもむろにスマホを取り出すと検索エンジンに文字を打ち込む。
『二階堂レイ』
もし相手が有名なマジシャンだと紹介されたら、まずは検索するだろう。しかしこれは現実ではない。こんな方法は通用しないのでないかと疑い半分の気持ちでいた。
疑いの心とは裏腹に検索のトップに二階堂レイのホームページは存在した。
「あっ!あった!?」
「そりゃぁ有名マジシャンですから」
まさかこんなものまで用意されているなんて。さすが星野劇団、恐るべし。ニヤニヤとした夜空の表情は気に入らないが。
二階堂レイのホームページには彼女の輝かしい実績とこれからの公演予定が掲載されていた。
よく見ると、先ほど話していた九州公演が中止になっている。つまり二階堂レイはまだ東京にいるのだ。
いるなら会えるということかもしれない。閃木はホームページに掲載されている連絡先へと電話をかけることにした。
呼び出し音がなるが、すぐに留守電へと切り替わった。
「でないな……」
「おかしいですね、トイレでも行ってるのかなレイさん」
でないものは仕方がないので少し待ってみることにする。閃木は地下レストランの椅子に腰掛け天井を仰いだ。
「二階堂レイのホームページがあるのだから、他にも用意されてるのかなぁ」
「えーいやそこまでは……」
「あ、鈴木さんとか!」
今度は検索エンジンに鈴木尚人と入力する。
どうやら鈴木尚人は本名のようで、星野劇団のホームページがでてきた。
「なんだ」
「ほら言ったじゃないですか」
そんなことをしていると、突然スマホが鳴った。知らない番号からだ。
「はい」
『お世話になっております。中堂です。先ほどお電話いただいたようで折り返しました。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
「中堂……?そちら二階堂レイさんのお電話ではないですか?」
電話は中堂という男性からだった。声からして三十代ぐらいだろうか。くたびれた声が響いた。
『僕は二階堂レイのマネージャーです。失礼ですがどちらでこの番号を?』
「失礼しました。ホームページに掲載されていた番号にかけさせていただいております。僕は私立探偵の閃木孝太郎と申します」
『私立探偵……?私立探偵がレイに何のようですか……?』
中堂は訝しんだ声でこちらを伺っている。閃木はことの経緯を説明し、二階堂レイに会わせてもらえるように頼んだ。
何度か受け答えこそしてくれたものの、説明し終わったところで電話はプツンと切られてしまった。
「あ!切られた!」
「そりゃ怪し過ぎますからね」
「え?僕の問題なわけ?」
「そうでしょう、ゲームのNPCじゃないんですから」
そう言われると黙るしかない。だがこちらも名探偵ではないのだから多めにみていただきたい。
「ただ電話の中で面白いことを聞いたよ」
電話の内容を整理するとこうだ。
まず昨日の夜地下に行けたルートは限られている。一つは舞台袖から階段を降りて地下へ行くルート、そして地下にある楽屋から直接地下へ入るルートだ。
マネージャーの中堂の話では、二階堂レイは停電の間一人で楽屋にいたらしい。
つまり、地下へ行くことのできた限られた人物の一人だったのである。
閃木は意気揚々と夜空に話して聞かせた。犯人候補を見つけたかもしれないと。
「なるほどーよかったですねー」
夜空はスマホを弄りながらぶっきらぼうに答えた。
「なんでだよ!もっと喜びなよ!二階堂さんが犯人なら夜空ちゃんの容疑は晴れるんだよ!」
「そりゃまぁ……そういうことになりますね……ヒラメキさん!がんばって!」
なんともつかみどころのない少女だ。このオーディション自体に興味がないのかもしれない。閃木にとっては人生がかかった大舞台でも彼女にとっては日常の一部なのだろう。
「もっと盛り上がってくれないと僕の気分的にもさ」
「知りませんよそんなこと」
二人がなんだかんだとクダを巻いている間に、レストランの前には一台の車が止まっていた。キッとブレーキ音を立てた後、慌ただしく扉が開き一人の男が降りてくる。
「ちょっと!勝手に入らないでください!」
「お願いです!そこをなんとか!」
男性たちの言い争う声と共にドタドタと階段を駆け降りる音がした。
閃木たちが振り返るとそこには見知らぬメガネの男が立っていた。警察官に取り押さえられながら息を切らしているその男は「レイのマネージャーの中堂です!」と名乗った。

