逃げてきた僕は、ナチュラルキザ男に迫られてます

P'Ton(ピートン)のお店を後にして俺はP'Gem(ピージェム)とともにデート?とやらをしている

この辺りは夜も開いているお店が多いみたいでぽつぽつと明かりが灯り始めている

いつも通るのは昼間だったから知らなかったな…

カランカラン

「いらっしゃい」

カフェに入るとマスターらしき人がふっくらとした頬をゆるませながら人の良さそうな笑みを浮かべて俺たちを迎えてくれた

「マスター、いつもの2つお願い」

「はいよ」

「いつものって何ですか?」

「来てからのお楽しみ」

P'Gemはその宝石のような瞳からウィンクをひとつ放ってきた

まぶしい
さすがイケメンはやることが違うな

丸いテーブル。向かい合って座るが、割りと距離が近い…
座る瞬間さっきよりは弱いが、かすかにP'Gemの香りが漂ってきた

「飲み物は何にする?」
ということは、さっき頼んだのは飲み物じゃないのか

何にしよう
「甘いのありますか?」

「ふっNong Jamはかわいいなぁ
いろいろあるぞ、俺のおすすめは炭酸水だ」

「え?…甘くないですよね」

「炭酸水にしておいた方がいいぞ」

ふふふ、と意味ありげな顔でP'Gemが炭酸水をすすめてきた

「はい…じゃあ炭酸水で」

「素直だなぁかわいい」

「あの!さっきから思ってたんですけど、その…い、いちいち可愛いって言うのやめてくれませんか?!なんか恥ずかしいです…!そんな柄でもないですし…」

「おいおいNong、鏡見たことあるか?」

「見ましたよ、さっき試着室で」

「じゃあ分かるだろ、昨日までのJamのことは知らないが今日のJamはとびっきりかわいいぞ?食べちゃいたいくらいに」

そう言ってP'Gemはこちらへ腕を伸ばす。
そして、俺の首に巻かれたスカーフの端をすくいとると身を乗り出してチュッとキスをした

…ぶわっ

濃くなったP'Gemの香りとともに、
一瞬で首から赤くなっていくのが自分でも分かった

なんだこの人、わざわざ立ち上がってまですることか?

「かわいいね、Nong Jam」

してやられた。完全にしてやられた
むぅと口を尖らせる

「ふっ」

なんかまた笑ってる、解せぬ。


「飲み物は決まったかい?」
マスターが聞きに来てくれた

「炭酸水2つで」

「はいよ」

注文をすると、分かっていたかのようにすぐにグラスに入った炭酸水が運ばれてきた

シュワぁ~

透明の液体に気泡ができている
炭酸だからな当たり前か

それをぐいっとひとくち
その一瞬
透明ごしに覗く宝石と目が合った
炭酸のきらめきと重なる
なにもかもがきらめいて見えた

「どうした?」

「いえ、炭酸みたいだなって」

「俺が?それ褒めてる?笑」

「なんでもありません!」

コトっ

そんな会話をしていると皿が2つテーブルに置かれた

「おまたせ、いつものやつだよ」

「ありがと、マスター」

マスターさんはさっさと仕事を済ませて去っていくなんだか雲のような人だな
なんとなくそう思った

「Nong、これだよ。俺ここに来ると毎回これ頼むんだ」

それはまさに焼き立てですと言わんばかりのトーストに、ピンクとオレンジが混ざったような色のジャムが挟まっていた。

このジャムなんだろう?

「珍しいだろ、それアセロラジャムなんだぜ
食べてみてくれクセになると思う」

言われるがままひとくち食べてみる

ぱくっ

「…ん!美味しい…!」

アセロラ。ジュースで飲んだことはあったけどジャムで食べるとまた違った美味しさだ

「どうだ?」

「んー、どんな味って言えばいいんでしょう
爽やかで角があるのに丸みがあって甘酸っぱい…」

「恋のような味だ」

「……」

何言ってるんですか?と、いい損ねてしまった。変な空気が流れる
雲のようなマスターが雲のように横を通りすぎて行く
「あー甘酸っぱい恋…」
「言い直さなくていいです!」

鏡見なくても分かる、いま俺アセロラ色にそっくりかもしれない

アセロラ色ってどんな色だよ

浮かんだ単語を揉み消すように炭酸水をがぶ飲みする

うん、完璧な組み合わせ