逃げてきた僕は、ナチュラルキザ男に迫られてます

あぁ、どうして俺はいつもこうなんだろう

雨粒が容赦なく落ちてくる
まるで俺に向かって降ってきているみたいだ

それも今は有難い

「…っ、…ぅ…ぁ」
とまらない、勝手にあふれてくる
雨に混じって頬を流れていく感情に俺は抗うつもりだったが、さすがにもう無理かと諦めモードになったそのとき、

パサッ

…気が付くと何かが頭の上を覆っていた

ジャンパー?あ、今はブルゾンって言うんだっけ?とかどうでもいいことを思いながら上を見上げる

「そこまでちょっと走れる?」

「えっ?」

横を向くとゆるくパーマのかかったセンターパートの黒髪から雫をポタポタと滴らせ、男の人が俺を見ている

水も滴るいい男……じゃない!

え、どゆこと?なにこの状況
走る?走らないといけない?

俺が戸惑っていると、からだ全体をたくましい腕で包み込まれる。そのまま何かの店の前まで導かれた
今は“まだ”やってないみたいだ

バサッバサッバサッ
「おーだいぶ濡れたなぁ」

隣で服についた雫を払い落としている彼はいったいどこの誰なのだろうか

「えと…ありがとうございます?」

「……ふっははっクエスチョンマークが付くってことはやっぱり俺、余計なことしちゃったか?」

「…あ、いえ……はい。」

「ははっなんか思ったより平気そうだな俺の出る幕じゃなかったか」

「……」

いや、正直あのままほっとかれていたら地面にうずくまっていたかもしれない

人に話しかけられてこんなにも落ち着くなんて

弱ってるときは無意識に誰かのぬくもりを求めてしまうものなのかもしれない
なんて思っていると

「あー、何があったか知らねぇけど水分は少なすぎても多すぎてもダメなんだぜ
あ、俺最近植物育てるのにハマっててよー
なんつーか、人間も適度に水やりしてもらったらあとは日光浴して腹ごしらえして成長していけばいいんじゃないか」

「…ふっ、なんですかそれ」

「俺も何言ってんのか分かんねー笑」

なんだろう?さっきまで心細くてもうどうにでもなってしまえ的な気持ちでいっぱいだったのに…この人と話してたら落ち着いてきたな…

「はぁ…」

「えっため息?そんなにつまんなかったか?」

「ふっ」

この人、見た目はクールで大人な感じなのにすごい話しやすい
いつもならこういうタイプの人とは距離を取って絶対交わらないはずなのに…

「おっ雨止んできたな」

雲の隙間から瞬間的に光が差し込む
彼の髪にくっついている水滴たちが存在を主張するかのようにきらめいていた。

「あ、ヒゲにも水滴」

「ん?ああ、君の眼鏡にもね」

そう言って俺の眼鏡に手をかける

「あっ…」

俺はあわてて顔を背けた。
彼の手がさみしそうに引っ込められるのを

見て見ぬふりでごまかし
眼鏡を外す。

黄緑色のカーディガンの下、
かろうじて濡れていなかったシャツの裾で水滴を拭った。

彼は何かを察したのか話題を変えてきた

「…腹へったなぁ、そう思わない?」

「…え、あ、はい…」

「お!減ってるって言ったな?前言撤回は無しだぞ」

「え?」

「メシ、行こうぜ
あ、でもその前に服だな!このままじゃ風邪ひいちまう。
ここ、俺の知り合いが夜だけやってる服屋なんだ。もうすぐ開店すると思うぜ」

「え??」

「あれ、分かんない?
俺、ナンパしてんだけど」

そのとき、店の外にある看板のあかりがパッと灯り彼の横顔を照らす
先ほどとは違い、キラキラと宝石のような笑顔が僕に向けられていた。



カランカラン

「おっ来てたのか、今日は早いな」

店から人が出てきてCLOSEDの表示をOPENに変える

「仕事が早く終わってな、さっそくで悪いんだがコーディネートして欲しいんだよ」

と、言うやいなや彼は俺の肩をぐいっと引き寄せて

「この子に似合う服を」
と言った。

「おー、ずぶ濡れだな」

「だろ~?なぁ頼むよ、俺たちこれからデートなんだよ」

「そうなのか、よしまかせとけ」

「あ、あの!ちょっとストップ!ストップ!あのここが服屋さんなのは分かりましたけどコーディネートは大丈夫です、俺お金ないので」

それに、デートって…

「金なら心配するな俺が払う」

「い、いえダメですって返せないですもん」

俺はチラっとそばにあった服の価格を確認する。とてもじゃないが貧乏学生には払える金額じゃない

「俺がいいって言ってる。それに、服の代金も返さなくていい。その代わり…
俺とデート、してくれるよな?な?」

「で、でも………はっくしゅん!」

「ほら~そのままじゃ寒いだろ?」

うっ…拒否権は、ない。

「わかりました…よろしくお願いします」

俺は渋々条件を承諾した

「よし、決まり~」

「決まったかー?こっちはもうコーディネート出来上がったぞー」

はやっ
「お!さすがだな」

店員さんの手には明るいグレージュのセットアップにコーヒー色の靴

「かっこいい…」

「だろ?赤み寄りのグレージュだから似合うと思う」

「インナーはどうする?俺が決めていいか?
えと、そういえば名前なんだっけ?俺はGem(ジェム)

P'Gem(ピージェム)…」

「Gem、お前名前も知らない子をデートに誘ってたのか」

「まぁな!」

やるだろ俺~となぜか得意げな顔をするP'Gem

「すみません、自己紹介が遅くなりました
Jam(ジャム)です。よろしくお願いします」

Nong(ノン) Jam(ジャム)…可愛いな」

「俺はTon(トン)、よろしく
さっそくだけどこれを着てみてくれ」

P'TonがP'Gemを無視してセットアップを差し出してきた。素直にそれを受け取る

「インナーはこれな」

と言ってP'Gemが持ってきたのは赤色でクルーネックのサマーニット。でもただの赤じゃない、ピンクやオレンジが混ざった落ち着いた赤。

「綺麗…」

「試着室はこっち」

有無を言わさずP'Tonに連れていかれる



「着れたかー?」

「はい、一応」

シャッと
カーテンを開けて二人にお披露目する

「「おぉー!!」」

二人して同じリアクション

「どうですか?」

「似合ってる。でも何か足りないな」

「そうだな、これを首に巻いたらいいんじゃないか」

と言ってP'Gemが持ってきたのは白をベースにピンクの模様が入った薄手のスカーフだった

「スカーフ?巻いたことない…どうやるっ…」

どうやって使うのか聞こうとしたら、すっとP'Gemの手が俺の首の後ろにまわった

P'Gemの香水だろうか、深みのあるスパイシーな香りがすんっと鼻の奥へ届く
大人だな…なんだか俺とは住む世界が違う感じがする…

なんて考えていると、あっという間にスカーフが巻かれて整えられる

「完璧、さすが俺。」

一瞬の出来事で固まっていた俺のすぐ目の前ではP'Gemがあったかい眼差しでこちらを見ていた。


自分では絶対に選ばないであろう服を着てお店を後にする

外はさっきまでの雨が嘘のように澄んだ夜空の下、穏やかな空気が辺りを包んでいた