【リライト版】人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる〜心を失った令嬢は秘密を抱えた執事に甘やかされて愛を知る〜


 翌日、深夜。

 アイザックは王宮図書館へと忍び込んだ。



 クロム王家の真実。カーノヴォン連合国の植民地の歴史。そして、クロム王家に伝わる加護の力など、不足している情報を集めたかったためだ。



 相手は一国を率いる王。

 そして彼の軍、『猟犬』の強さは自身が身をもって理解している。



 だからこそ、入念な準備をして、王の打倒に挑みたいのだ。



 だが、重要書庫の扉を阻んでいるものがいた。

 クロム王国の兵士だ。

 

「ちっ……」



 アイザックは物陰に隠れると一つ、息を吐いた。そして、一気に彼の背後に忍び寄る。



 首元に手刀を一発。



 途端、兵士は気を失った。



「手荒なことをして、悪い」



 アイザックは詫びを入れながら、するりと書庫の中に侵入する。



 中はホコリと紙の香りでいっぱいで、むせ返りそうだった。



 電灯をつけると、随分と古い資料や本ばかりが所蔵されているのが見えた。

 タイトルが掠れて、読めないものも山ほどある。

 重要書庫というのは名ばかりらしい。あまり手入れがされていないようだった。

 

 手当たり次第に全てを漁るのは効率が悪いと、アイザックは一先ず、知っている国に関する何かがないかと考えた。



 ライテル国だ。



 セイロン王の話しぶりからするに、クロム王国とライテル国に全く関わりがない、ということはなさそうだった。であれば、記述の一つや二つは見つかる可能性がある。



「ラ行、ラ行……。ん?」



 ラから始まる資料のタイトルを流し見る。

 と、次の「リ」の棚の始めの方に、『猟犬』という文字が一瞬、見えた気がした。



 気になってそちらに注視すると、やはりある。



「『猟犬の運用方法とデータベース』……?」



 比較的新しいファイルの名前は、そう称されていた。



 ページをぱらぱらとめくってみる。



 「なっ……!」



 アイザックは驚愕した。



 クロム王国が建設された七百年前から『猟犬』は組織されており、あらゆることを行なってきた証拠となる資料だった。



 表だったことから、暗殺、スパイ、テロ行為等の裏の工作まで。



 さらに、最後のページまで辿り着くと、アイザックは目を見開いた。



「俺の、情報……?」



 震える指で、文字列をなぞる。



『郊外の村にて、尋常でない強さを誇る子供がいるとのこと。猟犬に相応しく、また、昨今の弱体化解消の一助になるべし』



「なんだ、これ……」



 言葉を失うアイザックだったが、そのページの最後の一行を読んだ瞬間、ファイルを取り落とした。



 そこには、こう書かれていた。



『経緯:両親の説得に失敗。強硬手段に出られたし』



 ──つまり。つまりつまりつまり。



 頭を抱え、ぐしゃりと自身の髪をかきむしる。



 信じられない。信じたくない。



 両親を、ルークを、殺したのは。



 足元が崩れ落ちていくかのような、背筋がすうっと凍るような感覚に全身を呑み込まれていた、その時。



 アイザックの背後から、かかる声があった。



「勉強熱心だな、我が猟犬」