人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる〜心を失った令嬢は秘密を抱えた執事に甘やかされて愛を知る〜

<Side ガーネット>



「う……」



 ざらついた砂利が、頬に刺さっている。硬い地面に横たわっていたせいで、身体の節々が痛い。



 ゆっくり上半身を起こした私は、周囲をきょろきょろと見渡した。

 しかし真っ暗で、あまり状況が読めない。

 見上げると、にたりと笑っているような月が出ている。



 馬車が黒い鎧の集団に襲われたのが、正午を三時間ほど過ぎた頃だった。

 つまり私は、五時間ほど意識を失っていたと考えられる。



 つき、とこめかみに痛みが走り、鼻の奥に残った独特な香りが、微かに鼻腔をくすぐった。

 

 ────そう、思い出した。



 アイザックが倒れた後、私の元へも黒い鎧の兵士たちは近付いてきた。

 私はそれを、動くことも、泣き叫ぶこともなく、黙って待った。



「こいつ、死んでるのか?」



 微動だにしない私の姿に、馬車に乗り込んできた兵士の一人がそう言い放った程だ。



 その後、



「いや流石にそんなことはないだろう……。とりあえず、手筈通りに」



 馬車に入ってきたもう一人の兵士が淡々と指示したことで、私は何かの薬品を嗅がされ、気を失った。



 そしてこの場所に運ばれ、今まで転がされていたようだ。



 見知らぬ土地に、一人きり。



 改めて、これまで起きたことを整理すると、現状がかなり厳しいものであると実感する。

 アイザックと合流することが最優先事項だろうが、アイザックはおろか、私自身がどこにいるのかも不明だ。

 こんなに暗い中、どちらに向かって進めばよいかも、進んだ先で、何をするべきかも分からない。



 そもそも一人で、何かを成せたことなどないのだ。



 一気に心細くなって、私は膝を抱える。





 一人ぼっちで、どうしたらいいというの?私はこれから、あなたをどうやって探し出せばいいの?

 怖い。怖いから、何とかしてほしい。

 早く助けに来て、アイザック……。



 

 思わず、身体を抱きしめる両手に力が籠る。



 その時。



 ちらり。



 ちらり。



 遠くで、何かの光が揺らめいているのが視界に飛び込んできた。

 それはまるで、絵本で見たカナリアのようなほっとする色を纏って。



 こちらに近づいてきた。

 

 私は息をのんで、その光が私に接近するのを見つめる。



 そして光との距離が、もう1メートルもないくらいになった瞬間────。



「おねえちゃん、どうしたの?」



 ランタンと白い犬に繋がったリードを、それぞれ両手に持った、年端もいかない少女がそこには居た。