桜の花が散る時までに


『舞桜、久しぶりに会いに来たよ。さぁ、おいで』
『禅さん、嬉しい』
『可愛いな、舞桜』
 優しく自分を抱き寄せてくれる男の顔を見上げれば、それは見たことのない青年だった。
 しかし舞桜と呼ばれた自分は、その青年のことを『禅さん』と呼んでいる。もしかしたら、今目の前にいる青年が、舞桜が探し求めている禅さんなのだろうか。
 それに、僕は一颯なのに、禅さんは自分のことを舞桜と呼ぶ。
(なぜこの人は、僕のことを舞桜と呼ぶのだろう)
 理解のしがたいことばかりで、僕の頭は混乱してしまった。


 部屋の中を見渡せば、お香が焚かれているらしく、華やかな香りが漂っている。
 壁一面には、金色の模様が織り込まれた豪華な布が張り巡らされ、煌びやかな光を反射していた。
 部屋の隅に置かれた行灯の中には、蠟燭の炎が揺らめき、淡く室内を照らし出している。その光は禅さんを神秘的に映し出し、彼の目には禁断の欲望が秘められているように見えた。
『舞桜、会いたかった』
『私もです、禅さん』
 自分を慈しむかのような優しい笑みに、少しだけ乱れた呼吸。自分を見て、禅さんが性的に興奮しているのが伝わってきた。
 ほんのり赤く染まった頬に潤んだ瞳……、僕は夢中で禅さんの唇に吸い付いた。
『大好きです』
『俺も舞桜が好きだ』
 布団の上で、もつれ合うように抱き合う。着物ははしたなく乱れて、僕の白くて細い足が(くう)に晒された。「恥ずかしい」などと思う余裕もなく、禅さんに再び唇を奪われてしまったのだった。


「ハッ」
 突然心臓が大きく脈打ち、僕は布団の中で目を覚ました。
 暗闇の中、胸の奥で、まだ夢の残像が鮮やかに揺れている。それは煌びやかで、どこか禁断の香りが漂う、恐らく『陰間茶屋』の光景だった。
 夢の全てがいやにリアルで、禅さんという青年に触れた感触さえ残っている。
(あの夢はなんだったんだろう)
 それは、僕自身の心の奥底に眠っている想いが、夢という形を借りて自分に語り掛けてきたのだろうか? それとも単なる幻想だったのだろうか?
 僕の心は、あの夢の持つ意味を、必死に探そうとしていた。


『舞桜』
 僕を愛おしそうに見つめる禅さんは、自分よりもかなり年上だろうか? 今となっては、はっきり思い出すことはできないけれど、背が高く端正な顔立ちをしていたような気がする。
 立ち振る舞いには品があり、育ちの良さを感じさせた。漆のように黒い髪がキラキラと光を受けて輝いて眩しいくらいだ。
 なんて綺麗な人なんだろう……。惚れ惚れとしてしまうぐらい、禅さんは魅力のある男性だった。
 ただ、不思議なことに、僕はなぜか知っていたのだ。
 禅さんの髪の手触りも、唇の柔らかさも。細くて長い指や、穏やかな低い声に、自分を抱き締める腕の力強さも。
 禅さんの全てを知っているように思えてならなかった。


「一体、なんだっていうんだ?」
 どんなに考えても、僕は『禅さん』と呼ばれる青年のことを知らない。
 そして、夢の中の禅さんは僕のことを『舞桜』と呼んでいた。
 そのパズルのピースを組み立てていくと、僕の中で一つの仮説が浮かんでくる。
 それは、僕は舞桜の生まれ変わりで、今見た夢は舞桜の記憶だったということ──。
 そう考えれば、舞桜の顔が僕とそっくりなのも頷ける。
 ベッドの脇を見れば、舞桜が体を縮こまらせて気持ちよさそうに眠っている。
「舞桜、僕、禅さんに会えたよ」
 舞桜を起こさないよう、そっと声をかけた。

◇◆◇◆

 翌日僕は舞桜を連れてもう一度月影先生のお宅を訪れた。
 舞桜は何が何だかわかっていないらしく『急にどうしたの?』と不安そうな顔をしている。
 でも僕は、月影先生に会って確かめたいことがあった。
 月影先生のお宅のインターホンを鳴らすと、昨日と同じ格好をした月影先生が出迎えてくれる。
 部屋の中に通された僕は間髪を入れずに、月影先生にこう尋ねかけた。
「あの、僕、月影先生に聞きたいことがあるんです」
「ちょうどいい、ボクも君に話があってね。今お茶を煎れてくるから、ちょっと待っててくれるかい?」
「はい」
 月影先生がキッチンの方へ消えて行くと、舞桜が心配そうに僕に声をかけてくる。
『ねぇ、一颯。月影先生に聞きたいことって何?』
「大丈夫だから、舞桜はそこで話を聞いててくれるかな?」
『……うん。わかった』
 しばらくするとお茶と、美味しそうなお茶請けを持った月影先生が戻ってきた。


 舞桜は月影先生が出してくれたお菓子が食べたかったらしい。手を伸ばしてみるものの、その瞬間だけ舞桜の手が透き通ってしまい、お菓子を掴むことができない。『食べたかったなぁ』と、子どものように唇を尖らせ拗ねていた。
 でも、舞桜は僕には触れることができる。だから、手を繋いだり、舞桜が僕に捕まったりすることはできるのだ。
 こうして舞桜と過ごしているうちに、少しずつ色々なことがわかってきた。
 僕は、昨夜見た夢の話と、自分が舞桜の生まれ変わりではないか? と思っていることを月影先生に伝える。
 それを聞いた舞桜が、隣で目を見開く。それから、僕と月影先生の話を食い入るように聞いていた。
「ボクも君たちが帰った後に少し調べたんだけれど、亡くなった人は成仏ができなくても転生、つまり、生まれ変わるという事例もあるらしいんだ」
「やっぱり……。じゃあ、僕は舞桜の生まれ変わりなんでしょうか?」
「そうだね。一颯君が見た夢は、君が想像した通り舞桜君の記憶だろう。それに、君たちは姿形もよく似ている。このことから、舞桜君の生まれ変わりが一颯君と考えてもおかしくないだろうね」
「そうですか」
 僕は膝の上で拳を握り締め、唇を噛む。
(やっぱり僕は舞桜の生まれ変わりだった)
 それが、確信に変わった瞬間だった。


「ところで舞桜君。僕の声は聞こえるかい?」
 月影先生が僕の隣にいる舞桜に話しかける。月影先生は、舞桜の姿がぼんやり見えるくらいで、彼と会話はできないようだ。
 舞桜はそれに気付いたらしく、僕の隣でこくんと首を縦に振る。
「じゃあ、とりあえずボクに憑依してもらえるかな?」
 月影先生の言葉に舞桜がびっくりしたような顔をする。助けを求めるように、僕の方にチラッと視線を送ってきた。
「あの、月影先生。憑依って一体どうやるんですか?」
「ボクもよくわからないけど、その人の体に入り込むイメージかなぁ。ボクの体を乗っ取るつもりで憑依してみてよ」
「はぁ……」
 僕自身も月影先生の言っている意味がわからず、舞桜にそっと問いかけた。
「舞桜、月影先生の体に入り込める?」
『わからないけど、やってみる』
「うん」
 舞桜は月影先生の隣に近づき、そっと体を寄せる。それから、悲しそうに首を横に振った。
『駄目だよ。月影先生の近くに壁があるみたいで弾き返されちゃう』
「そうなんだ」
 舞桜がそう言うと、僕の隣に戻ってくる。そのやり取りを見ていた月影先生が「やっぱり無理みたいだね」と眉を顰めた。


「じゃあ舞桜君は、一颯君には憑依できるかな?」
「僕に、ですか?」
「うん。一颯君は『イタコ』って知っているかい? 彼らは自らの意思で霊を自分の体に憑依させることができるんだ。でも普通の人にはそんなことはできない。ボクが調べた古い文献に、『成仏することができない霊は、自分の生まれ変わりの人間には憑依することができる』って書いてあったんだ」
「イタコ? 生まれ変わりの人間?」
「つまり、一颯君がイタコのような能力を持っていなくても、舞桜君の生まれ変わりだとしたら、舞桜君は一颯君に憑依できるってことさ」
「なるほど、ようやく言っている意味がわかりました」
 月影先生の言っている意味が理解できた僕は、舞桜に声をかける。
 でもそれは、本当に軽い気持ちで舞桜にお願いしたことで、これから起こる様々な事件の引き金になるなんて、僕は思ってもみなかった。
「じゃあ、舞桜。今度は僕に憑依できるか試してみてくれる?」
『わかった。やってみるね』
 舞桜の言葉を聞き終わらないうちに、意識が遠くなっていくのを感じた。


 冷たい空気が僕の体を包み込むようにして、舞桜は僕の体に憑依した。
 その瞬間、僕の体は氷のように冷たくなり、意識ははっきりしているのに、体の自由が利かなくなる。
 僕は自分の目の前に広がる世界を見ているのに、それに触れることも、動くこともできない。
 「舞桜、早く出て行ってくれ」と心は叫んでいるのに、それは声にならない。
 そんな僕に向かって、月影先生がにっこりと微笑んだ。
「はじめまして、舞桜君」
『は、はじめまして』
「やっぱり、上手く憑依できたんだね? これで、一颯君が舞桜君の生まれ変わりだって証明されたわけだ」
『は、はい』
「これから君がやるべきことを話すから、一颯君と一緒に聞いてもらえるかな? 今この状態で、一颯君と君は会話できるの?」
『はい。頭の中で一颯が早く出てけって騒いでます』
「なるほどね。じゃあ、一颯君も聞いてもらえるかな?」
 自分の力では舞桜を追い出すことができないと観念した僕は、黙って月影先生の言葉に耳を傾けた。


「これから舞桜君は、君の未練を晴らすための行動を起こさなければならない。君の未練とは何かな?」
『私の未練は身分の違いから結ばれず、共に心中をした禅さんにもう一度会いたいということです。そして、最期にもう一度だけ、彼に抱かれたい』
「なるほどね……」
 月影先生は僕と話しているのに、その実感がない。
 僕は僕なのに、僕ではない、そんな不思議な感覚だ。
「ならばその恋人が成仏していなければ、彼が封印されている場所を見つけて、その封印を解くこと。そして彼の生まれ変わりを見つけること。この二つだ」
『禅さんの生まれ変わりを見つける?』
「そうだ。そして、君の恋人の生まれ変わりに、君の恋人を憑依させ、契りを交わせばいい。そうすれば二人とも成仏できるだろう」
 ちょっと、待って……。
 僕は月影先生の言葉に、一瞬耳を疑った。
 つまり舞桜が僕の体に憑依して、禅さんは彼の生まれ変わりに憑依する。そして契りを結ぶってことだろう?
 もしそうだとしたら、僕は禅さんの生まれ変わりと契りを交わすということか?
 僕の体から一瞬で血の気が引いていく。
 舞桜に向かって「僕にはそんなことはできない!」と叫ぶと、『少し黙ってて』と逆に叱られてしまった。


『禅さんは成仏していないのでしょうか?』
「君と同じ想いを抱いているとしたら、ボクは彼も成仏していないと推測している」
『ならば私は禅さんと、禅さんの生まれ変わりを探します』
「うん。頑張って。ボクは君を応援しているから」
『はい』
 そう話す舞桜の心が、期待からかドキドキしているのが伝わってくる。きっと、禅さんと禅さんの生まれ変わりに、今すぐにでも会いたいのだろう。
(上手くいけばいいな……)
 僕は心の中でそっと舞桜を応援した。
 それと同時に、契りを交わすことへの不安を感じてしまう。


「じゃあ、このお礼は体で払ってもらおうかな?」
『こんな体でよければ是非。抱いてください』
「うん。君は十分に可愛らしいよ」
『ではよろしくお願いします』
 舞桜が畳に三つ指をついて深々と頭を下げる。
(ちょっと待ってよ、何がお願いしますだよ! 舞桜ぉ!)
 僕が叫ぶと、ふと、スイッチが切り替わった感覚に襲われる。
 

 冷たい空気が僕の体を包み、舞桜に憑依されていた状態から、突然解放された。
 まるで深い眠りから覚めたかのようにハッと我に返った僕は、自分の体が再び自分の意思で動くようになったことに気付いた。
 氷のように冷たかった手足に、温かい血が巡り始める感覚。
 僕はまるで長い間止まっていた時計の針が、動き出したかのような安堵感に包まれた。
 そして、目の前に広がる現実の世界が、再び色鮮やかに色づき始める。
「戻って来たかい?」
「あ、はい」
 月影先生の言葉に、舞桜の憑依から解き放たれたことを実感できた。
(あぁ、怖かった……)
 僕が胸を撫で下ろしていると、隣にいる舞桜が『ごめんね』と両手を合わせている。
 もうあのまま、舞桜に体を乗っ取られてしまうのではないか? という強い恐怖から、ようやく解放された瞬間だった。
「舞桜君が成仏するには、一颯君の協力が必要だ」
「はぁ……」
 ようやく解放されたのに、次の悩みの種が僕を襲う。
 僕は禅さんが憑依した、禅さんの生まれ変わりに抱かれなくてはならないのだ。
 しかも、桜の花が散る時までに──。
 僕たちはお礼を言ってから月影先生のお宅を後にする、彼にはこれからも世話にならなくてはならないかもしれない。

◇◆◇◆

 外に出ると、梅林の梅が満開に花開いている。それは、長かった冬が終わりを迎え、春の到来を感じさせる。
 桜の花弁は膨らみ、もうすぐ開花するだろう。そう考えると、少しだけ焦りを感じてしまう。
 桜の花が散るときまでに、僕たちは禅さんと、禅さんの生まれ変わりを探すことができるのだろうか。
 そして、もし禅さんが成仏してしまっていたら……。
 舞桜は僕の隣で梅林を眺めている。懐かしそうに目を細めながら。
 きっと彼が生きていた時代でも、こんな風に梅が綺麗に咲いていたのだろう。
 そんな舞桜にそっと声をかけた。


「ねぇ、舞桜。今日、禅さんの夢を見たよ」
『え? 本当に?』
「うん。顔ははっきり覚えてないんだけれど、すごく綺麗な男の人だった気がする」
『そうだね。禅さんはとっても綺麗な男の人だったよ』
 舞桜は禅さんのことを思い出しているのだろうか。遥か遠くを見つめている。
 どうしても結ばれることができない二人は、一体どんな思いで心中を選んだのだろうか? 
 もし舞桜と禅さんが令和の時代に出会っていたら、今も一緒にいることができただろうか?
 そんな二人のことを思うと、胸がグッと締めつけられる。
 僕は、二人に生きて、一緒になってほしかった。


『禅さんはね、有名な呉服屋の長男だった。あの頃の呉服屋と言ったら大富豪で、みんなから一目置かれる存在だよ。そんな彼がある日、友人に連れられて私がいる陰間茶屋にやってきたの』
 突然禅さんのことを話し始める舞桜に僕は驚いてしまったけれど、幸せそうに彼のことを話す舞桜を見ていると、もっと二人のことが知りたくなった。
『禅さんは迷わず私を指名してくれて、私の部屋にやって来た。彼はそういったお店は初めてだったらしく、とても緊張していたの。そんな禅さんは何をして帰って行ったと思う?』
「え? そういうお店なら、そういうことをしたんじゃないの?」
 僕が顔を赤くして答えると、舞桜がクスクスと笑う。
『普通はね。でも彼は違った。ただ私と話をして帰っていったんだ』
「話をしただけ?」
『そう。自分は、本当に好きな人としかそういうことはしたくないからって』
「そっか。禅さんって、とっても真面目な人なんだね」
『うん。とても真面目で優しい人だった。そんな彼に、私はどんどん惹かれていった』
 舞桜が少しだけ照れ臭そうにはにかむ。
 それから懐からある物を取り出す。
 舞桜は、それを大切そうに両手の上にそっと乗せて、僕の前に差し出した。


『ねぇ、一颯、これを見て?』
 舞桜が取り出したのは、桜の花弁が薄く閉じ込められた薄桃色のトンボ玉だった。
 そのトンボ玉は柔らかな日差しを受けて、キラキラと輝いて見える。僕はそのあまりの美しさに、思わず見惚れてしまった。
『これはね、禅さんが私にくれた物なんだ。本当は簪についていたんだけど、取れちゃって……。だから今はこうやって大切に持ち歩いているんだ』
「凄く綺麗なトンボ玉だね」
『綺麗でしょう? このトンボ玉がついた簪をくれた時、禅さんは初めて私のことが好きだと告白してくれた。そしてその晩、私たちは初めて結ばれたんだ』
「そっか……」
 僕は道に転がっている石を一つ蹴る。
 二人の幸せな話を聞いていることが、少しだけ辛く感じられたから──。


『私は禅さんと心も体も結ばれたことが嬉しかった。でも、それが不幸の始まりだったんだ』
「なんで? 思いが通じ合ったんだったら、幸せになれたんじゃないの?」
『普通だったらね。でも私たち陰間は、男に抱かれることが仕事なんだ。だから禅さん以外の人にも抱かれなくてはならない。私も禅さんもそれがどんどん苦しくなっていった。私は禅さん以外の男に抱かれることが、ひどく苦痛に感じられるようになったんだ』
 その時、今まで笑っていた舞桜が苦しそうな顔をする。
 その当時のことを思い出しているのだろう。トンボ玉をギュッと握りしめている。


『そんな時に、禅さんの見合いの話が持ち上がったんだ。彼は有名な呉服屋の長男。いい家柄の娘さんと結婚して、子をもうける。それが彼の幸せだから。私は、いつかそんな日が来るっていうことなんて、わかりきっていたはずなのに……。いざその日が来てしまうと、禅さんから離れることができなかった』
 舞桜が苦しそうにトンボ玉を抱き締めながら、体を縮こませる。
 その時の舞桜の気持ちを思えば、僕の胸は張り裂けそうに痛む。
 こんな風に苦しむ舞桜の姿は見たくなんてなかった。
『私たちは何度も何度も話し合った。そして出た結論が、一緒に命を絶つ、ということだったんだ』
「そんな……」
『この結論に辿り着くまで、二人で何度も話し合ったし、何度も泣いた。でもどんなにあがいても、私たちの身分は変えようがないから……』
 舞桜の瞳から涙が溢れ、頬を伝う。


『一颯。私は禅さんと、禅さんの生まれ変わりに会って、無事に成仏ができるかな?』
「うん。きっとできるよ」
『できるといいなぁ』
「だから、大丈夫だって」
 本当なら、もっと気の利いた言葉を舞桜にかけてあげたかったのに、僕にはそれができなかった。
 悔しくて、情けなくて、目頭が熱くなる。
『会いたい。禅さんに、会いたい……』
 そう言いながら涙を流す舞桜がとても綺麗で……。
 僕はそんな舞桜の傍にいてあげることしかできない。


 それでも僕は、こんなにも舞桜を助けてあげたいのに、心の中にある嫌悪感を消し去ることができずにいる。
 僕は、どこで何をしているか分からない人物と、契りを結ぶことが本当は凄く嫌だった。できることなら、御免こうむりたい。
 いくら舞桜の為だと言っても、同性に抱かれるという行為に抵抗感は強い。
 そもそも同性でどうやってそういった行為をするのかも想像がつかない。
 だから、怖くて、気持ち悪くて、嫌だった。
 でも、涙を流し続ける舞桜を目の前に、僕はその言葉を呑みこんだ。