5
レアンは颯爽と弁護席についた。アサムは幼馴染の背中をこのまま見送ることはできなかった。
「夫人……ごめんなさい!」
そういうと夫人の側を離れ、レアンに駆け寄る。
「レアンがやるならオレもやる……!やってやる……!くそ!そういう仲だろオレ達は!」
レアンの肩を叩くとアサムはレアンの隣についた。正直できることなどなかった。彼と一緒に火の中に飛び込んでやることくらいだ。
「うん、やろう!」
レアンは頷いた。その目には敗北など映ってはいなかった。レアンのやつは考えなしのバカだ。アサムはそう思っていた。せめて、何か、できることはないものか。まずはレベッカが魔女ではないということを証明しなければならない。さてどうしたものか……頭をあれやこれやが巡っていた。
「平民よ、しかしどうするつもりなのだ?貴様達がいくら弁護しようとも被告人は魔女なのだ」
「そんなこと、その、決めつけるなよ!」
アサムはコーニクスにガンつけて言ってみたが到底弁護士のようにはいかなかった。レアンは黙って何かを考えている。頼むから何か言ってくれ!そう思ったが口を開いたのはコーニクスだった
「なんだ知らないのか?」
「なにをだよ」
「被告人は魔法を使ってパフォーマンスをし、花を売っていたのだぞ」
「!?」
「いかがかな?被告人」
アサムは驚きレベッカを振り返った。
「それは……」
口籠るレベッカ、彼女が魔法を見せ物に花を売っていたとするならば、本当に魔女だということになる。
アサムは計られたと思った。この裁判は本当に魔女を裁こうとしていたなんて。
つまりは勝ち目のない裁判。アサムとレアンは自ら火の中に飛び込んでしまったのだ。アサムは言い返す言葉を探した。しかしそんなものが見つかるはずがない。目撃者はいるのか?証拠はあるのか?あるに決まっている。なければコーニクスはあんな勝ち誇った顔をするはずがない。彼の嘘ではありえない。
死ぬのか自分は、幼馴染と共に……せめて最後になにか弁明を?しかし声を出したのはアサムではなかった。
「お待ちを」
すっかり俯いてしまっていたアサムが顔を上げるとようやく口を開いたレアンがいた。前髪で上手く顔こそ見えないが。
「ほう弁護人、反証があるかな?」
「いえ……」
レアンが何か思いついたのだとアサムは思った。死ななくてもよい希望を……。
レアンは薄い唇をゆっくりと開いた。
「その通り、彼女は魔女でございます」
その目は鋭く、まるで今までの彼とはかけ離れた残酷な表情を浮かべていた。
前髪が落とす影から覗く眼光、緩やかに上がった口角。
悪魔のようにも思えた。
「おいレアン!」
「そうよ味方してくれるんじゃなかったの!?」
アサムに続きレベッカもレアンに駆け寄った。
「味方だよ。でも俺も君が魔法を使うところはよくみてるし…」
つまり誤魔化すことはできない。そう言いたいようだった。ではどうやってこの場を切り抜けるつもりなのか、まさか事実を肯定しただけだったのか。
「みんなも考えてみてほしいんだ。火刑法廷のルールを」
「ルール?オレたちがこのまま死ぬってことか?」
「違うよ、いい?犯罪を犯した魔女は火刑に処される。つまりレベッカがたとえ魔女だったとしても罪さえ犯してなければなんら問題はないのさ」
そういうとレアンはそっとウインクをした。
「な、なんだって…!?」
たしかに魔女だというだけで罪ならばレベッカは魔法をつかうところを見せたりしなかっただろう。つまり魔女自体の存在は許される。考えてみれば単純なことだった。
「俺たちのやることは一つだけ、彼女が犯人じゃないことを立証すればいいのさ、普通の裁判みたいにね」
急に希望の光が差したように思えた。
「ふん」
その様子を見ていたコーニクスが鼻を鳴らす。
「ならば証明してみるといい。せいぜいその魔女の戯言をな」
レアンとアサムはコーニクスを睨んだ。戯言だと?しかし彼女の証言を一度も聞いていないというのが正直なところであった。
「ねぇレベッカ、聞かせてくれる?何があったのか」
レアンとアサムはここで初めて彼女の身に何があったのか知ることになる。
レベッカの主張はこうだった。
-レベッカの証言-
今日の朝、ノアに大聖堂に呼び出されたの。
そこには大量の花とノアがいて、目を閉じるように言われたわ。
キスをされるのだと思ったの。
しばらくして「もういいよ」て声がきこえたんだけど目を開けるのを戸惑った……だってまだキスされてないもの!
しばらくして目を開けると……そこには壁に打ち付けられた死体が……周りには誰もいなかったわ。
「おいおい……!」
こんなの誰が信じるんだとアサムは思った。つまりさっきまで生きていた被害者が彼女の目の前で誰もいないのに殺されたということになる。まるで夢の話を聞いているようだった。
「到底信じることはできまい」
コーニクスはまたもや勝ち誇った顔でこちらを見ていた。
「しかし何があったか知りたいだろう。」
「そりゃまぁ……レベッカは目を閉じていたわけだし……」
「では教えてやろう。証人をここへ」
「証人……?」
そういうとコーニクスは裁判長へ目配せをした。
「いいでしょう。検事側は証人を入廷させてください」
裁判長の合図で向かいの扉が開いた。
大きな男がゆっくりと扉をくぐり大聖堂に足を踏み入れる。
「紹介しよう。彼こそがこの教会の神父であり……目撃者だ」
目撃者。その言葉にアサムは目を見開いた。
「目撃者!?聞いてないぞ!」
「なぜこの法廷がこんなにも早く開廷できたのか?まさかいくらこの国の法律が魔女を憎もうとただの魔法を使う少女を焼き殺すことはできない。目撃者の決定的な証言があってこそなのだよ、平民」
この大男が一部始終を見ていたというのだろうか。神父は短く切りそろえた髪を掻きながら申し訳なさそうに話し始めた。
「レグソンと申します。教会に雇われている神父です……」
-レグソンの証言-
普段は執務室にいるのですが……今日はその窓からとんでもない光景を目にしたのです。
窓から真っ直ぐ見下ろすと、そこは大聖堂になっていて目の前に十字架を望むことができる仕様になっています。
その窓から大聖堂を覗くと少女がいました。
彼女は青年を殺した後、魔法を使いあの高さまで死体を持ち上げ矢を打ち付けて吊るしたのです。
以上が神父の語る真実であった。なんということだレベッカはその犯行の全てを神父に見られていたのだ。
アサムが見上げると確かにそこには小窓があり、おそらくそこが神父の執務室なのだろう。
「ちなみに犯行に使われた矢だが、神父の部屋から盗み出されたものであった」
とコーニクスが付け加える。
「狩に行くもので……こんなことなら教会に置いておくべきではなかった」
と神父が続けた。
「そんな!アタシ盗んだりしません!」
レベッカは反論したが聞き入れてもらえる素振りはない。そもそも盗んだ盗んでないはあまり関係ないのかもしれない。
「矢は誰でも手に取れるところに?」
レアンも一応尋問したが「はい」とだけ返ってきた。
その矢はまだ、死体に刺さったままである。
アサムは吊るされたままの死体を見上げるとそっと十字架をきった。神を信じているわけではなかったがどうにも神父の話を聞いた後だと彼が哀れに見えた。
「裁判長、休憩時間をいただけませんか?被告人も疲れていますし新たな証言がでましたので弁護側には精査の時間が必要です」
レアンがそう申し出ると、裁判長も頷きしばしの休廷となった。その時間わずか10分。火刑法廷の迅速さが伺えた。
レアンは颯爽と弁護席についた。アサムは幼馴染の背中をこのまま見送ることはできなかった。
「夫人……ごめんなさい!」
そういうと夫人の側を離れ、レアンに駆け寄る。
「レアンがやるならオレもやる……!やってやる……!くそ!そういう仲だろオレ達は!」
レアンの肩を叩くとアサムはレアンの隣についた。正直できることなどなかった。彼と一緒に火の中に飛び込んでやることくらいだ。
「うん、やろう!」
レアンは頷いた。その目には敗北など映ってはいなかった。レアンのやつは考えなしのバカだ。アサムはそう思っていた。せめて、何か、できることはないものか。まずはレベッカが魔女ではないということを証明しなければならない。さてどうしたものか……頭をあれやこれやが巡っていた。
「平民よ、しかしどうするつもりなのだ?貴様達がいくら弁護しようとも被告人は魔女なのだ」
「そんなこと、その、決めつけるなよ!」
アサムはコーニクスにガンつけて言ってみたが到底弁護士のようにはいかなかった。レアンは黙って何かを考えている。頼むから何か言ってくれ!そう思ったが口を開いたのはコーニクスだった
「なんだ知らないのか?」
「なにをだよ」
「被告人は魔法を使ってパフォーマンスをし、花を売っていたのだぞ」
「!?」
「いかがかな?被告人」
アサムは驚きレベッカを振り返った。
「それは……」
口籠るレベッカ、彼女が魔法を見せ物に花を売っていたとするならば、本当に魔女だということになる。
アサムは計られたと思った。この裁判は本当に魔女を裁こうとしていたなんて。
つまりは勝ち目のない裁判。アサムとレアンは自ら火の中に飛び込んでしまったのだ。アサムは言い返す言葉を探した。しかしそんなものが見つかるはずがない。目撃者はいるのか?証拠はあるのか?あるに決まっている。なければコーニクスはあんな勝ち誇った顔をするはずがない。彼の嘘ではありえない。
死ぬのか自分は、幼馴染と共に……せめて最後になにか弁明を?しかし声を出したのはアサムではなかった。
「お待ちを」
すっかり俯いてしまっていたアサムが顔を上げるとようやく口を開いたレアンがいた。前髪で上手く顔こそ見えないが。
「ほう弁護人、反証があるかな?」
「いえ……」
レアンが何か思いついたのだとアサムは思った。死ななくてもよい希望を……。
レアンは薄い唇をゆっくりと開いた。
「その通り、彼女は魔女でございます」
その目は鋭く、まるで今までの彼とはかけ離れた残酷な表情を浮かべていた。
前髪が落とす影から覗く眼光、緩やかに上がった口角。
悪魔のようにも思えた。
「おいレアン!」
「そうよ味方してくれるんじゃなかったの!?」
アサムに続きレベッカもレアンに駆け寄った。
「味方だよ。でも俺も君が魔法を使うところはよくみてるし…」
つまり誤魔化すことはできない。そう言いたいようだった。ではどうやってこの場を切り抜けるつもりなのか、まさか事実を肯定しただけだったのか。
「みんなも考えてみてほしいんだ。火刑法廷のルールを」
「ルール?オレたちがこのまま死ぬってことか?」
「違うよ、いい?犯罪を犯した魔女は火刑に処される。つまりレベッカがたとえ魔女だったとしても罪さえ犯してなければなんら問題はないのさ」
そういうとレアンはそっとウインクをした。
「な、なんだって…!?」
たしかに魔女だというだけで罪ならばレベッカは魔法をつかうところを見せたりしなかっただろう。つまり魔女自体の存在は許される。考えてみれば単純なことだった。
「俺たちのやることは一つだけ、彼女が犯人じゃないことを立証すればいいのさ、普通の裁判みたいにね」
急に希望の光が差したように思えた。
「ふん」
その様子を見ていたコーニクスが鼻を鳴らす。
「ならば証明してみるといい。せいぜいその魔女の戯言をな」
レアンとアサムはコーニクスを睨んだ。戯言だと?しかし彼女の証言を一度も聞いていないというのが正直なところであった。
「ねぇレベッカ、聞かせてくれる?何があったのか」
レアンとアサムはここで初めて彼女の身に何があったのか知ることになる。
レベッカの主張はこうだった。
-レベッカの証言-
今日の朝、ノアに大聖堂に呼び出されたの。
そこには大量の花とノアがいて、目を閉じるように言われたわ。
キスをされるのだと思ったの。
しばらくして「もういいよ」て声がきこえたんだけど目を開けるのを戸惑った……だってまだキスされてないもの!
しばらくして目を開けると……そこには壁に打ち付けられた死体が……周りには誰もいなかったわ。
「おいおい……!」
こんなの誰が信じるんだとアサムは思った。つまりさっきまで生きていた被害者が彼女の目の前で誰もいないのに殺されたということになる。まるで夢の話を聞いているようだった。
「到底信じることはできまい」
コーニクスはまたもや勝ち誇った顔でこちらを見ていた。
「しかし何があったか知りたいだろう。」
「そりゃまぁ……レベッカは目を閉じていたわけだし……」
「では教えてやろう。証人をここへ」
「証人……?」
そういうとコーニクスは裁判長へ目配せをした。
「いいでしょう。検事側は証人を入廷させてください」
裁判長の合図で向かいの扉が開いた。
大きな男がゆっくりと扉をくぐり大聖堂に足を踏み入れる。
「紹介しよう。彼こそがこの教会の神父であり……目撃者だ」
目撃者。その言葉にアサムは目を見開いた。
「目撃者!?聞いてないぞ!」
「なぜこの法廷がこんなにも早く開廷できたのか?まさかいくらこの国の法律が魔女を憎もうとただの魔法を使う少女を焼き殺すことはできない。目撃者の決定的な証言があってこそなのだよ、平民」
この大男が一部始終を見ていたというのだろうか。神父は短く切りそろえた髪を掻きながら申し訳なさそうに話し始めた。
「レグソンと申します。教会に雇われている神父です……」
-レグソンの証言-
普段は執務室にいるのですが……今日はその窓からとんでもない光景を目にしたのです。
窓から真っ直ぐ見下ろすと、そこは大聖堂になっていて目の前に十字架を望むことができる仕様になっています。
その窓から大聖堂を覗くと少女がいました。
彼女は青年を殺した後、魔法を使いあの高さまで死体を持ち上げ矢を打ち付けて吊るしたのです。
以上が神父の語る真実であった。なんということだレベッカはその犯行の全てを神父に見られていたのだ。
アサムが見上げると確かにそこには小窓があり、おそらくそこが神父の執務室なのだろう。
「ちなみに犯行に使われた矢だが、神父の部屋から盗み出されたものであった」
とコーニクスが付け加える。
「狩に行くもので……こんなことなら教会に置いておくべきではなかった」
と神父が続けた。
「そんな!アタシ盗んだりしません!」
レベッカは反論したが聞き入れてもらえる素振りはない。そもそも盗んだ盗んでないはあまり関係ないのかもしれない。
「矢は誰でも手に取れるところに?」
レアンも一応尋問したが「はい」とだけ返ってきた。
その矢はまだ、死体に刺さったままである。
アサムは吊るされたままの死体を見上げるとそっと十字架をきった。神を信じているわけではなかったがどうにも神父の話を聞いた後だと彼が哀れに見えた。
「裁判長、休憩時間をいただけませんか?被告人も疲れていますし新たな証言がでましたので弁護側には精査の時間が必要です」
レアンがそう申し出ると、裁判長も頷きしばしの休廷となった。その時間わずか10分。火刑法廷の迅速さが伺えた。
