ノストラダムスに恋を

きっかけがなんだったかは覚えていないけれど、大学2年に上がって、今度は正式に新入生を歓迎する側に回った頃には、何をするにも気付けば隣には出月がいて、どちらかに聞けば、だいたい相手の予定はわかる、そういう扱いになっていた。

「天原先輩、三笠先輩って今日のミーティング来ますか?」

「今日バイトだから来ないよ。17時からだから、急ぎなら今連絡すれば繋がると思うよ」

当たり前のように僕に尋ねて、「ありがとうございます」と去っていく後輩たち。

いつだったか、大学のラウンジで半ば泣いているように見えるくらい落ち込んでいる後輩を見つけて、傍らに寄り添っている別の後輩にどうしたのかと声を掛けてみると、慌てた様子で僕を少し離れた席に座らせてきた。

「いいの?泣いて、る?泣いてはない?何かあった?」

「それが、あの子、三笠先輩が好きで……」

「あぁ、そう、ね、確かにいっつもくっついて回ってたか」

出月は女の子に興味ないからな、と訳知り顔で、泣いている後輩に同情した。
人当たりも顔もいい。まして後輩の面倒見もいいとなれば、新入生の憧れのキャンパスライフに、先輩に片想いという項目が追加されるのは、簡単だ。

「そうじゃないです。そう、なんですけど、なんていうか、ちょっと違ってて」

「何?ゲイなのは知ってるってこと?」

「そう、です。そうなんですけど、あの、先輩って三笠先輩と付き合ってますよね?」

「どの先輩?サークルでは相手作ったことないと思うけど」

名前も忘れたような大学時代の後輩の、不可思議そうな顔は朧げながら思い出せる。

「天原先輩ですよ!」

大きな声だった。
吹き抜けのラウンジに5階の天井まで届くようなよく通る声。

「はぁ?なんで僕?彼女いるぞ?」

「なんで、"なんで"なんですか???」

理解できないと責め立てられた。
ほぼ毎日一緒にいて、常に相手の予定を把握しているくらい連絡を取り合っていて、飲み会も旅行もお互いがいるかが最優先、週の半分を僕の家で寝泊まりしていて、相手は僕の顔が好みだと公言していたら、付き合っていると思うんだそうだ。
面食らうよりも先に、他人事みたいに納得していた。

不思議と、男と付き合っていると思われていることに対して、嫌悪感も、違和感も、浮かんでは来なかった。

「僕とお前、付き合ってるらしいぞ?」

出月に教えてみると「お似合いだもんね」と得意げに笑った。

「どの辺が?」

「身長差、15cmが理想らしいよ」

「181cm、引く?」

「166cm」

「ジャストじゃねぇか」

「春日には可愛い系が似合うよ」

「んなこと言うやつは可愛くない」

環状線に掛かる古びた陸橋で、2人腹を抱えて笑った。
花びらをなくした桜の枝には、濃い緑が繁っていた。

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