ノストラダムスに恋を

君のことを、本当に好きだったか、今ではもうわからないけれど、合コンで一番気が合ったとか、先輩の彼女の友達だからと紹介されたり、バイト先でシフトが被ることが多かったり、そんな理由で付き合った相手よりは遥かに、君のことを好きかどうか、考えて、考えて、時間を掛けて答えを出そうとしていたことは、ちゃんと覚えている。

何かを掴もうとして、自分の右手を伸ばすようにと脳が命じても、辛うじてこの体に留まっているだけの僕の命は、指先を微かに動かす力しか持っていなかった。

それでも、その微かな揺らめきに、妻は気付いてくれる。
ギュッと握られれば、ほとんどなくなった感覚の代わりに、記憶が「温かい」「柔らかい」「心地良い」と教えてくれる。

「あなた?ここにいますよ?みんな、いますよ?」

「ゆきも今、飛行機で向かってるから。お父さん、嫌よ?間に合わないで死んじゃうなんて」

「父さん、まだダメだよ。優翔のところに子どもができるんだ。ひ孫だぞ?」

愛する妻と、愛する子ども達の声が聞こえる。

上は25歳、下は17歳、孫も5人できた。秀一のところにも、孫が、僕にとってはひ孫が間もなく生まれるらしい。

君が掛けた呪いの言葉は、今、正に、成就しようとしている。

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