今日、僕は、ようやくこの呪いから解き放たれる。
ことさらに、ようやく、と。
自分のことを、僕、と呼んだのはいつぶりだろうか。
記憶の彼方では、かーくん、と自分を呼んでいたし、ランドセルを背負った頃には、オラ、とか、おいら、とかアニメのキャラクターを真似てみていた。中学に上がると、人前では恥ずかしいから、俺、と名乗っていた覚えがある。たまに、一人称が迷子になって、自分、だとか武士みたいになってしまうこともあった。
高校に上がって、格好の付け方が変わると、僕、に戻ってきたと記憶している。
「春日は、僕、って感じ」
穏やかで柔らかく、それでいて素っ気ない声が聴こえる。
そうか。
僕に戻ったんじゃなくて、戻されたんだ。
僕に、俺、は似合わないんだって。
君は決まって「春日は⚪︎⚪︎って感じ」と、暗示を掛ける。
もっと強く、いっそ呪いのように僕を縛りつける時には「春日は⚪︎⚪︎が似合うよ」と。
そして、時に否定を許さず、暗示や呪いのその先を向いて「⚪︎⚪︎してるのが見える」と。
さながら、天にまします我らの父から、啓示を受けて、地上に降りた予言者のように。
優しい色調の広々としたこの部屋は、終末期医療のホスピスの一室でも、主治医の計らいで許可された、今は妻と二人で住むにはいささか広すぎる自宅でもない。
僕の終の住処は、無駄に広く、窓の外にまだ咲かない桜が覗ける、この病室だ。
『春日は、可愛い奥さんと、子どもと、孫と、大勢に囲まれて、そうだなぁ…、満足そうに最期を迎えるのが目に浮かぶ』
*****
ことさらに、ようやく、と。
自分のことを、僕、と呼んだのはいつぶりだろうか。
記憶の彼方では、かーくん、と自分を呼んでいたし、ランドセルを背負った頃には、オラ、とか、おいら、とかアニメのキャラクターを真似てみていた。中学に上がると、人前では恥ずかしいから、俺、と名乗っていた覚えがある。たまに、一人称が迷子になって、自分、だとか武士みたいになってしまうこともあった。
高校に上がって、格好の付け方が変わると、僕、に戻ってきたと記憶している。
「春日は、僕、って感じ」
穏やかで柔らかく、それでいて素っ気ない声が聴こえる。
そうか。
僕に戻ったんじゃなくて、戻されたんだ。
僕に、俺、は似合わないんだって。
君は決まって「春日は⚪︎⚪︎って感じ」と、暗示を掛ける。
もっと強く、いっそ呪いのように僕を縛りつける時には「春日は⚪︎⚪︎が似合うよ」と。
そして、時に否定を許さず、暗示や呪いのその先を向いて「⚪︎⚪︎してるのが見える」と。
さながら、天にまします我らの父から、啓示を受けて、地上に降りた予言者のように。
優しい色調の広々としたこの部屋は、終末期医療のホスピスの一室でも、主治医の計らいで許可された、今は妻と二人で住むにはいささか広すぎる自宅でもない。
僕の終の住処は、無駄に広く、窓の外にまだ咲かない桜が覗ける、この病室だ。
『春日は、可愛い奥さんと、子どもと、孫と、大勢に囲まれて、そうだなぁ…、満足そうに最期を迎えるのが目に浮かぶ』
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