羊くんと狼先輩の交換日誌

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【八月二日 夕方 雨】
 夕方当番より、朝当番へ。
 メイとジューンは賢い上に生意気なので、人間だと思って接すると仲良くなれます。しっぽの付け根と耳の間が好きなようで、丁寧に撫でると少しだけ目が丸っぽくなります。よければ試してみてください。
 
 海の旅路、朝当番さんの感想を読んだらいても立ってもいられなくなって、俺も二週目をはじめました。村人たちに話を二回聞かないとサブイベントが発生しないマラソン仕様は、二週目だとちょっと面倒です。
 旅路シリーズのストーリーは何度見ても最高です。ラストで無慈悲にヴィータに突き放されてしまったルクスには本当に同情しますが、ふたりの絆に胸が熱くなります。こういう感想はキモイと思われるかもしれませんが、あんな風に友情と恋の境にあるような優しい恋には、正直少し憧れます。
 恨み言みたいになってしまって恐縮ですが、俺は海の旅路の前編が発売してからすぐにクリアしました。一年間、あの衝撃のラストの続きを待ち続けてきました。クリアして即、後編に進める朝当番さんがとてもうらやましいです。
 くり返しますが恨み言ではありません。

(狼)
 
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「絶対恨み言じゃんか」

 朝学校に来るなり、いの一番に日誌を開き、俺はうっかり吹き出しかけた。
 どうやら狼さんは俺に負けず劣らずのゲーマーらしい。もはや、ヤギたちのことよりゲームの感想の方が長い。多分短くまとめようとしたのだろうけれど、隠しきれていない熱さを文から感じた。

「分かるなあ」

 あんな風に友情と恋の境にあるような優しい恋には正直少し憧れます、という一文をじっと見つめて、俺は声に出さずに呟いた。
 恋だの愛だのと言われると、漫画やドラマの中にあるような激しくてすごいものというイメージが強くて、雲の上のものとしか思えない。でも、海の旅路の主人公・ルクスとヒロイン・ヴィータには、親友のようなバディのような、爽やかで穏やかな雰囲気があるのだ。ずっと見守っていたくなるような、それでいてもう早く付き合っちゃえよともどかしくなるような距離感には、素直に「ああ、いいなあ」と憧れる。
 気の合う相手と話すだけでも楽しいのだから、ただでさえ仲のいい人と恋人になれたら、きっともっと楽しいのだろう。

(狼先輩ともっと話してみたいな)

 海の旅路についてもっとがっつり語りたい。
 今まで俺の周りにはゲームの話ができる人がいなかった。スマホゲームならいなくもないけれど、ゲーム機を買ってがっつり進めるタイプのRPGとなると、ほぼいない。むしろ下手にゲームが好きなんて漏らした日には、引かれることもあるくらいだ。
 引かれたくない、変なやつだと思われなくないと、そればかり考えていると、自然と口数も少なくなる。自分の話ばっかりしててもウザがられるものだけれど、自分の話を極端にしないやつも、なかなか誰かと仲良くなれないものなのだ。スタートダッシュに失敗した俺は、今のところ立派なぼっちだった。

(LINEのID、書いたら連絡くれるかな? いや、いきなりそれはキモいかな。変なやつって思われたら嫌だしなあ……)
 
 好きなゲームが同じな上に感性も近そうときたら、親近感を覚えずにはいられない。
 でも、自分から声を掛けるのは怖かった。悲しいかな、俺はひたすらにビビりなのだ。

「しっぽの付け根と耳の間が気持ちいいの?」

 日誌に書いてあった言葉を繰り返しつつ、俺は隣から日誌を覗き込んでくるメイの眉間に手を伸ばす。
 横一文字の目は、近くで見るとちょっと怖い。耳の間をかいても嫌がっている様子はなかったけれど、ヤギの相変わらずの無表情は、そこが気持ちいいのかどうなのか、いまいち判断が難しかった。

「目、丸くなってるかな……?」
「メェ」

 手を止めると『やめるな』と言いたげに鳴いてくるから、多分気持ちはいいのだろう。とはいえ言われなければ気づかない程度の反応なので、自分でヤギたちの好きな場所に気づいたというのなら、狼先輩はなかなか観察眼が鋭いタイプらしい。

「狼先輩によろしくね、メイ」

 声を掛けると、メイは何を考えているのか分からない顔でじっと俺を見返してきた。

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【八月三日 朝 晴れ】
 朝当番より、夕方当番へ。
 耳の間、メイで試させてもらったら、たしかに心なしか気持ちよさそうにしている気がしました。教えてくれてありがとうございます。
 
 海の旅路のストーリーが最高なの、すごくよく分かります。気持ち悪くなんてありません。幼なじみの純愛感っていうか、あの仲のいい友だちから穏やかに恋をしている感じ、俺もとても好きです。俺にはなんで幼なじみがいないのかと悔しくなります。幼なじみどころか、夏休みに一緒に遊ぶ友だちもいない寂しい身ではありますが、おかげでいくらでも徹夜でゲームができるので、これはこれでいいかもしれません。
 一年間も後編を待つことになっていたかと思うと、夕方当番さんに心底同情します。お疲れ様です。

(羊)
 
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