* * *
【八月二日 夕方 雨】
夕方当番より、朝当番へ。
メイとジューンは賢い上に生意気なので、人間だと思って接した方がスムーズに仲良くなれるかもしれません。しっぽの付け根と耳の間あたりは好きなようで、丁寧に撫でると少しだけ目が丸っぽくなります。よければ試してみてください。
海の旅路、朝当番さんの感想を読んだらいても立ってもいられなくなってしまって、ついつい俺も最初からはじめ直してしまいました。村人たちに話を二回聞かないとサブイベントが発生しないマラソン仕様は、一週目は楽しいんですが二週目はちょっと面倒ですね。
旅路シリーズのストーリーは何度見ても最高です。ラストで無慈悲にヴィータに突き放されてしまったルクスには本当に同情しますが、ふたりの絆に胸が熱くなります。こういう感想はキモイと思われるかもしれませんが、あんな風に友情と恋の境にあるような優しい恋には、正直少し憧れます。
ちなみに、恨み言みたいになってしまって恐縮ですが、俺は海の旅路の前編が発売してからすぐにクリアしました。一年間あの衝撃のラストの続きを待ち続けてきました。クリアして即、後編に進める朝当番さんが羨ましくてなりません。
くり返しますが恨み言ではありません。
(狼)
* * *
「絶対恨み言じゃんか」
朝学校に来るなり、いの一番に日誌を開き、俺はうっかり吹き出しかけた。
どうやら狼さんは俺に負けず劣らずのゲーマーらしい。もはや、ヤギたちのことよりゲームの感想の方が長いくらいだ。多分短くまとめようとしたのだろうけれど、隠しきれていない熱さを感じる。
「……分かるなあ」
あんな風に友情と恋の境にあるような優しい恋には正直少し憧れます、という一文をじっと見つめて、俺は声に出さずに呟いた。
恋だの愛だのと言われると、漫画やドラマの中にあるような激しくてすごいものというイメージが強くて、雲の上のものとしか思えない。
でも、元から幼なじみである海の旅路の主人公・ルクスとヒロイン・ヴィータには、親友のようなバディのような、爽やかで穏やかな雰囲気があるのだ。ずっと見守っていたくなるような、それでいてもう早く付き合っちゃえよともどかしくなるような距離感には、素直に「ああ、いいなあ」と憧れる。
気の合う相手と話すだけでも楽しいのだから、ただでさえ仲のいい人とゆっくりと恋を育てていけた日には、きっと楽しいものだろう。
(狼先輩ともっと話してみたいな)
海の旅路の感想をもっとがっつり語り合いたい。
今まで俺のまわりには、ゲームの話ができる人がいなかった。スマホゲームならいなくもないけれど、ゲーム機を買ってがっつり進めるタイプのRPGとなると、めったにいない。むしろ下手にゲームが好きなんて漏らした日には、引かれることもあるくらいだ。
引かれたくない、変なやつだと思われなくないと、そればかり考えていると、自然と口数も少なくなる。自分の話ばっかりしててもウザがられるものだけれど、自分の話を極端にしないやつも、なかなか誰かと仲良くなれない。そうこうしているうちに、いつの間にやらぼっちの完成だ。
(RINEのID、書いたら連絡くれるかな? いや、いきなりそれはキモいかな。変なやつって思われたら嫌だしなあ……)
好きなゲームが同じな上に、ゲームの中で好きなところまで同じときたら、どこの誰かも分からない人とはいえ、親近感を覚えずにはいられない。
でも、自分から声を掛けるのは怖かった。悲しいかな、俺はひたすらにビビりなのだ。
それに、焦らなくてもまだあと四日も飼育当番の日はある。この交換日記っぽいものができる間は、少なくともまだまだやり取りができるのだ。
「しっぽの付け根と耳の間って書いてあったっけ」
日誌に書いてあった言葉を繰り返しつつ、俺は隣から日誌を覗き込んでくるメイの眉間に手を伸ばす。
横一文字の目は、近くで見るとちょっと怖い。耳の間をかいても嫌がっている様子はなかったけれど、ヤギの相変わらずの無表情は、そこが気持ちいいのかどうなのか、いまいち判断が難しかった。
「目、丸くなってるかな……?」
「メェ」
手を止めると『やめるな』と言いたげに鳴いてくるから、多分気持ちはいいのだろう。とはいえ言われなければ気づかない程度の反応なので、自分でヤギたちの好きな場所に気づいたというのなら、狼先輩はなかなか観察眼が鋭いタイプらしい。
「狼先輩によろしくね、メイ」
声を掛けると、メイは何を考えているのか分からない顔で見返してきた。
* * *
【八月三日 朝 晴れ】
朝当番より、夕方当番へ。
耳の間、メイで試させてもらったら、たしかに気持ちよさそうにしている気がしました。教えてくれてありがとうございます。
海の旅路のストーリーが最高なの、すごくよく分かります。気持ち悪くなんてありません。誰が何を好きでも、どんな感想を持っても自由だと思います。
幼なじみの純愛感っていうか、あの仲のいい友だちから穏やかに恋をしている感じ、俺もとても好きです。俺にはなんで幼なじみがいないのかと悔しくなるくらいです。幼なじみどころか、夏休みに一緒に遊ぶ友だちもいない寂しい身ではありますが、おかげでいくらでも徹夜してゲームできるので、これはこれでいいかもしれません。
一年間も後編を待つことになっていたかと思うと、夕方当番さんに心底同情します。お疲れ様です。
(羊)
* * *
【八月二日 夕方 雨】
夕方当番より、朝当番へ。
メイとジューンは賢い上に生意気なので、人間だと思って接した方がスムーズに仲良くなれるかもしれません。しっぽの付け根と耳の間あたりは好きなようで、丁寧に撫でると少しだけ目が丸っぽくなります。よければ試してみてください。
海の旅路、朝当番さんの感想を読んだらいても立ってもいられなくなってしまって、ついつい俺も最初からはじめ直してしまいました。村人たちに話を二回聞かないとサブイベントが発生しないマラソン仕様は、一週目は楽しいんですが二週目はちょっと面倒ですね。
旅路シリーズのストーリーは何度見ても最高です。ラストで無慈悲にヴィータに突き放されてしまったルクスには本当に同情しますが、ふたりの絆に胸が熱くなります。こういう感想はキモイと思われるかもしれませんが、あんな風に友情と恋の境にあるような優しい恋には、正直少し憧れます。
ちなみに、恨み言みたいになってしまって恐縮ですが、俺は海の旅路の前編が発売してからすぐにクリアしました。一年間あの衝撃のラストの続きを待ち続けてきました。クリアして即、後編に進める朝当番さんが羨ましくてなりません。
くり返しますが恨み言ではありません。
(狼)
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「絶対恨み言じゃんか」
朝学校に来るなり、いの一番に日誌を開き、俺はうっかり吹き出しかけた。
どうやら狼さんは俺に負けず劣らずのゲーマーらしい。もはや、ヤギたちのことよりゲームの感想の方が長いくらいだ。多分短くまとめようとしたのだろうけれど、隠しきれていない熱さを感じる。
「……分かるなあ」
あんな風に友情と恋の境にあるような優しい恋には正直少し憧れます、という一文をじっと見つめて、俺は声に出さずに呟いた。
恋だの愛だのと言われると、漫画やドラマの中にあるような激しくてすごいものというイメージが強くて、雲の上のものとしか思えない。
でも、元から幼なじみである海の旅路の主人公・ルクスとヒロイン・ヴィータには、親友のようなバディのような、爽やかで穏やかな雰囲気があるのだ。ずっと見守っていたくなるような、それでいてもう早く付き合っちゃえよともどかしくなるような距離感には、素直に「ああ、いいなあ」と憧れる。
気の合う相手と話すだけでも楽しいのだから、ただでさえ仲のいい人とゆっくりと恋を育てていけた日には、きっと楽しいものだろう。
(狼先輩ともっと話してみたいな)
海の旅路の感想をもっとがっつり語り合いたい。
今まで俺のまわりには、ゲームの話ができる人がいなかった。スマホゲームならいなくもないけれど、ゲーム機を買ってがっつり進めるタイプのRPGとなると、めったにいない。むしろ下手にゲームが好きなんて漏らした日には、引かれることもあるくらいだ。
引かれたくない、変なやつだと思われなくないと、そればかり考えていると、自然と口数も少なくなる。自分の話ばっかりしててもウザがられるものだけれど、自分の話を極端にしないやつも、なかなか誰かと仲良くなれない。そうこうしているうちに、いつの間にやらぼっちの完成だ。
(RINEのID、書いたら連絡くれるかな? いや、いきなりそれはキモいかな。変なやつって思われたら嫌だしなあ……)
好きなゲームが同じな上に、ゲームの中で好きなところまで同じときたら、どこの誰かも分からない人とはいえ、親近感を覚えずにはいられない。
でも、自分から声を掛けるのは怖かった。悲しいかな、俺はひたすらにビビりなのだ。
それに、焦らなくてもまだあと四日も飼育当番の日はある。この交換日記っぽいものができる間は、少なくともまだまだやり取りができるのだ。
「しっぽの付け根と耳の間って書いてあったっけ」
日誌に書いてあった言葉を繰り返しつつ、俺は隣から日誌を覗き込んでくるメイの眉間に手を伸ばす。
横一文字の目は、近くで見るとちょっと怖い。耳の間をかいても嫌がっている様子はなかったけれど、ヤギの相変わらずの無表情は、そこが気持ちいいのかどうなのか、いまいち判断が難しかった。
「目、丸くなってるかな……?」
「メェ」
手を止めると『やめるな』と言いたげに鳴いてくるから、多分気持ちはいいのだろう。とはいえ言われなければ気づかない程度の反応なので、自分でヤギたちの好きな場所に気づいたというのなら、狼先輩はなかなか観察眼が鋭いタイプらしい。
「狼先輩によろしくね、メイ」
声を掛けると、メイは何を考えているのか分からない顔で見返してきた。
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【八月三日 朝 晴れ】
朝当番より、夕方当番へ。
耳の間、メイで試させてもらったら、たしかに気持ちよさそうにしている気がしました。教えてくれてありがとうございます。
海の旅路のストーリーが最高なの、すごくよく分かります。気持ち悪くなんてありません。誰が何を好きでも、どんな感想を持っても自由だと思います。
幼なじみの純愛感っていうか、あの仲のいい友だちから穏やかに恋をしている感じ、俺もとても好きです。俺にはなんで幼なじみがいないのかと悔しくなるくらいです。幼なじみどころか、夏休みに一緒に遊ぶ友だちもいない寂しい身ではありますが、おかげでいくらでも徹夜してゲームできるので、これはこれでいいかもしれません。
一年間も後編を待つことになっていたかと思うと、夕方当番さんに心底同情します。お疲れ様です。
(羊)
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