「すみません」
観念して出てきたはずなのに、大狼先輩の顔を見たらまた恥ずかしさがぶり返して来た。けれど、逃げたい気持ちをぐっと堪えて我慢する。
「あの、日誌、見てもいいですか?」
片手を差し出す。
大狼先輩は頷いて、丁寧に畳まれた数枚のページを、そっと俺に向かって差し出してくれた。しかし、俺が受け取るより早く、ぬっと白い頭が俺たちの間に差し込まれてくる。
「うわっ、メイ!」
興味津々に頭を突っ込んできた白ヤギは、俺が受け取るはずだったはずの紙を「どうもありがとうね」といわんばかりに咥えると、用は済んだとばかりに早足で去っていってしまう。
「メイ、こら! それ俺の! 返して! 紙は体によくないから」
慌ててメイを追いかける。どうにかこうにか食べられる前に紙だけは取り上げたものの、メイのよだれでべたべたのクシャクシャになった紙は、もう何が書いてあるのかさっぱり読めそうになかった。
「ああ……! 俺、まだ読んでないのに……!」
泣きたい気分でうなだれていると、背後から控えめに笑う声が聞こえてきた。
「そんなに落ち込むことないだろ」
「落ち込みますよ! 日誌に書いてあったってことは、俺の朝当番が終わった後に大狼先輩が返事を書き足してくれたってことですよね? なのにこんなのってありですか……⁉︎」
「……なら、全部じゃないけど、書いてあったこと、今言ってもいいか?」
真面目な声音に、つられて俺まで背筋が伸びる。
姿勢を正しつつ大狼先輩と向き合うと、大狼先輩は今にも悪態をつきそうな凶悪な顔――もとい、緊張の滲んだ真摯な顔で、ゆっくりと言葉を紡いでくれた。
「三年前に助けてもらったときから、ずっと日辻と話してみたかった。いざ会ってみたら、ゲームの話をするのも楽しいし、一緒にどこかに行けるのも嬉しいし、俺――」
言葉を切って、バツの悪そうな顔で頭に手をやりつつ、大狼先輩はまっすぐに俺を見た。
「日辻のことが好きなんだ。もっと知りたい。俺のこと、嫌でなければ、恋愛対象として見られるかどうか、考えてみてくれないか」
「……っ!」
大狼先輩はいつも直球だ。そういうところがとてもすごいなと思う。
「ヴィータとルクスみたいな恋じゃなくてもいいんですか……?」
海の旅路の主人公たちの名前を出すと、大狼先輩は一瞬、ぽかんとしたような顔をした。俺は焦りながら、「その、日誌に書いてましたよね」と補足する。
「大狼先輩は、ああいう穏やかな恋に憧れてるんじゃないんですか。俺、大狼先輩と話すようになってまだ少ししか経ってないけど、いいんでしょうか」
「それを言ったら、俺だって日辻の幼なじみじゃないだろ」
それはそうだ。理想と現実は別物である。
向き合いながら苦笑して、俺は改めて大狼先輩の目を見つめ直した。
「なら、考える時間はいらないです。だって俺も大狼先輩のこと、好きですから」
「好きっていうのは、俺と同じ意味で?」
「はい。その……もっと仲良くなって、友だちにも恋人にもなりたいって、そういう意味です」
いざ言葉にすると恥ずかしい。
でも、大狼先輩だけにいつもなんでも言わせるのは、男が廃るというものだ。ぐっとお腹に力を込めて、俺は勇気を振り絞る。
「だからその、今までみたいに遊ぶだけじゃなくて、俺と付き合ってもらえませんか」
おそるおそる手を差し出す。震える俺の手を優しく握り返して、大狼先輩は本当に嬉しそうに、くしゃりと顔を歪めて笑ってくれた。
「……喜んで。よろしく、日辻」
「はい、よろしくお願いします。大狼先輩!」
めええ、と近くでメイが鳴く。よかったねとでも言ってくれているかのようなのんきな声は、穏やかな夜の空気の中で、長く伸びやかに響いていた。
観念して出てきたはずなのに、大狼先輩の顔を見たらまた恥ずかしさがぶり返して来た。けれど、逃げたい気持ちをぐっと堪えて我慢する。
「あの、日誌、見てもいいですか?」
片手を差し出す。
大狼先輩は頷いて、丁寧に畳まれた数枚のページを、そっと俺に向かって差し出してくれた。しかし、俺が受け取るより早く、ぬっと白い頭が俺たちの間に差し込まれてくる。
「うわっ、メイ!」
興味津々に頭を突っ込んできた白ヤギは、俺が受け取るはずだったはずの紙を「どうもありがとうね」といわんばかりに咥えると、用は済んだとばかりに早足で去っていってしまう。
「メイ、こら! それ俺の! 返して! 紙は体によくないから」
慌ててメイを追いかける。どうにかこうにか食べられる前に紙だけは取り上げたものの、メイのよだれでべたべたのクシャクシャになった紙は、もう何が書いてあるのかさっぱり読めそうになかった。
「ああ……! 俺、まだ読んでないのに……!」
泣きたい気分でうなだれていると、背後から控えめに笑う声が聞こえてきた。
「そんなに落ち込むことないだろ」
「落ち込みますよ! 日誌に書いてあったってことは、俺の朝当番が終わった後に大狼先輩が返事を書き足してくれたってことですよね? なのにこんなのってありですか……⁉︎」
「……なら、全部じゃないけど、書いてあったこと、今言ってもいいか?」
真面目な声音に、つられて俺まで背筋が伸びる。
姿勢を正しつつ大狼先輩と向き合うと、大狼先輩は今にも悪態をつきそうな凶悪な顔――もとい、緊張の滲んだ真摯な顔で、ゆっくりと言葉を紡いでくれた。
「三年前に助けてもらったときから、ずっと日辻と話してみたかった。いざ会ってみたら、ゲームの話をするのも楽しいし、一緒にどこかに行けるのも嬉しいし、俺――」
言葉を切って、バツの悪そうな顔で頭に手をやりつつ、大狼先輩はまっすぐに俺を見た。
「日辻のことが好きなんだ。もっと知りたい。俺のこと、嫌でなければ、恋愛対象として見られるかどうか、考えてみてくれないか」
「……っ!」
大狼先輩はいつも直球だ。そういうところがとてもすごいなと思う。
「ヴィータとルクスみたいな恋じゃなくてもいいんですか……?」
海の旅路の主人公たちの名前を出すと、大狼先輩は一瞬、ぽかんとしたような顔をした。俺は焦りながら、「その、日誌に書いてましたよね」と補足する。
「大狼先輩は、ああいう穏やかな恋に憧れてるんじゃないんですか。俺、大狼先輩と話すようになってまだ少ししか経ってないけど、いいんでしょうか」
「それを言ったら、俺だって日辻の幼なじみじゃないだろ」
それはそうだ。理想と現実は別物である。
向き合いながら苦笑して、俺は改めて大狼先輩の目を見つめ直した。
「なら、考える時間はいらないです。だって俺も大狼先輩のこと、好きですから」
「好きっていうのは、俺と同じ意味で?」
「はい。その……もっと仲良くなって、友だちにも恋人にもなりたいって、そういう意味です」
いざ言葉にすると恥ずかしい。
でも、大狼先輩だけにいつもなんでも言わせるのは、男が廃るというものだ。ぐっとお腹に力を込めて、俺は勇気を振り絞る。
「だからその、今までみたいに遊ぶだけじゃなくて、俺と付き合ってもらえませんか」
おそるおそる手を差し出す。震える俺の手を優しく握り返して、大狼先輩は本当に嬉しそうに、くしゃりと顔を歪めて笑ってくれた。
「……喜んで。よろしく、日辻」
「はい、よろしくお願いします。大狼先輩!」
めええ、と近くでメイが鳴く。よかったねとでも言ってくれているかのようなのんきな声は、穏やかな夜の空気の中で、長く伸びやかに響いていた。

