テンプレみたいな恋だった


翔ちゃんはそれから、私を明確に避けるようになった。話しかけてもそっけなく、廊下ですれちがっても無視される。

さすがに私も何か悪いことをしたと気づいた。

彩矢に聞いても「サヤちゃんが悪い」としか教えてくれない。私は翔ちゃんと仲直りしたいのに、どうしたらいいかわからなくて行き詰っていた。

そんな日が続いたある日、私は家のリビングでだらだらと嫌々、洗濯物を畳む手伝いをしていた。兄はソファでアイスを食べている。交友関係に明るい兄に、私は助けを求めた。

「あのな、お兄ちゃん。最近翔ちゃんが無視してくるねん」

アイスの棒を歯で噛んだまま、兄がにんまり笑う。

「サヤは翔ちゃんが大好きやもんな~」

タオルを乱暴に畳んでいた手がふと、止まる。私は呆然と兄の顔を見た。

「そんなこと言われたの初めてや。みんな……翔ちゃんは私のことが好きやとか言うけど」
「いやいや! 好きなんお前やん!」

兄がソファで足をばたつかせて大笑いする。

「家で翔ちゃんの話ばっかりしてるくせに!」
「そ、そうなん……?」

アイスの棒で私を差した兄が呆れたように言った。

「転校初日からずーっと翔ちゃんがこう言った翔ちゃんがこうしたって、そればっかりやんかお前。知らんかったんか?アホかよマジで」
「ま、マジか」

そういえば、私は自然と、彼のことをたくさん覚えている。翔ちゃんがどこで遊んで、何が好きで、彼がいつ私に話に来て、どんな表情で笑うのか。

全部を説明できるくらい覚えているのは、たくさん彼を見ていたから。

たくさん彼の話を、してきたから。

頬がだんだんと熱を持って色づいていく。慌てて洗濯物のタオルで火照った顔を隠した。私は洗濯物の石鹸の匂いとともに、ずっとそこにあった恋を、やっと知ったのだ。





桜まつりの屋台で買った甘酸っぱい苺飴を舐めながら、桜並木の下を犬沢くんと並んで歩く。だが、苺飴を持った犬沢くんはもう半泣きだ。苺飴の袋も開けられないほど肩を落としている。

苺飴の刺さった棒を手に持った私は真顔で言う。

「どうして犬沢くんがしょんぼりしてるの?」
「この話聞いてて、翔ちゃんに感情移入しない人いませんよ? 誰よりも少年翔ちゃんと一体化できますよ、俺。もはや俺が翔ちゃん」
「どういうこと?!」

笑いながらガリッと苺飴を噛む。口の中でじゃりじゃりと甘さと酸っぱさが溶けていく。

「でもあれは本当にもう、取返しがつかないことだったよね……」

犬沢くんも苺飴をなめて自分を慰め始めた。かじって形が崩れた可哀想な形の苺飴を見つめる。

「それから翔ちゃんとはね、小学校を卒業して、中学二年生になるまで全然話さなかった」
「そんなぁ……気持ちに気づいたよって言ってあげてくださいよ~」

犬沢くんの眉がぎゅっと八の字に情けなく下がる。

「できるわけないでしょ。もう避けられた段階でさ、初めて気持ちを自覚した超恋愛初心者の子どもが……」

背が小さかった頃の私がタオルで顔を隠す様を思い返す。彼女はあまりに幼く、無力だ。

「『私って今まで恋がわからなかっただけなの、不安にさせてごめんね』なんてそんな高度なことを、翔ちゃんに言えると思う?」
「子どもがそういうこと言えないのは……わかりますけど」

彼ががりっと苺飴を噛み砕く音にはやるせなさがあった。