テンプレみたいな恋だった


翔ちゃんと六年生では違うクラスになった。

さらに背が伸びて、声も低くなった彼の魅力に告白する人がいる。なんて話を噂に聞いたりしたけれど、私はそうなんだとしか思わなかった。

教室で私は給食をがんばって食べているのに、隣のクラスの翔ちゃんはもう食べ終わっていて廊下を走り抜けて行くのが目に入った。

そんな翔ちゃんを見て、もうお皿を片づけ終わった彩矢が話しかけてくる。

「翔ちゃん、隣のクラスの女子に告白されたらしいよ?」
「へぇ」
「サヤちゃんのその余裕すごいよね。まあ、翔ちゃんの本命がサヤちゃんなのはみんな知ってるんだけど」

彼女はなぜか勝ち誇ったようにむふふと笑う。そういう話はさすがに私の耳にも入るようになっていた。やっと食べ終わったお皿を持って立ち上がる。

「何言うてんねん。翔ちゃんとはよう遊ぶだけやろ」
「もう、またそれ~?」

またまたぁと言いながら笑う彩矢は含みを持っていたけれど、もう慣れていて気にしなかった。そのまま昼休みに教室で彩矢とお喋りしていた私のところに、外で野球をしていたらしい翔ちゃんがやってきた。

隣のクラスのくせに、彼は自分のクラスみたいに平気で入ってくるのだ。そうすると今まで喋っていた彩矢はするりといつの間にかいなくなる。

「サヤちゃん、去年の祭りってどこにおったん? 見つけられへんかったんやけど」
「祭り?」

泉州の秋には「だんじり祭り」という4トンを超える地車を大勢で曳き回し、五穀豊穣を祝う派手な祭りがある。地元の男子たちはだんじり祭りが大好きだ。

翔ちゃんは地主の息子なので、特にだんじり祭りに気合いが入っていた。祭り前の今の時期になると、廊下でだんじりごっこをする男子の中心に翔ちゃんがいるのは見慣れた光景だった。

彼はとにかく野球とだんじりが好きなのだ。

「だんじり見に行ってないで。旅行に行ってた」
「は? 見に来てないん? マジで?!」

宇宙人に出会ったときのような顔を向けられた。私は転校生で、地元の祭りにそれほど興味がない。だが、翔ちゃんにはそれが信じられなかったようだ。気を取り直した彼は、小さい私に向かってわざわざ腰を屈めて顔を見て言う。

「サヤちゃん、絶対祭り見に来て」
「えー、祭りって人多いからあんまり」
「見に来て!」

ごり押しの翔ちゃんの熱意に負けて、私は週末、しぶしぶだんじり祭りを見に行くことになった。



秋晴れの爽やかな日に初めて、黒と赤の法被を着て、ねじりハチマキをする翔ちゃんが見た。真剣な顔でだんじりの綱を曳く姿は、普段のお調子者とは違っている。

通行止めになり歩行者天国の道路の真ん中を堂々と走る地車を見送りながら、私は一緒に祭りに来た彩矢に言った。

「法被を着た男子は普段より二割増しかっこええな」
「それわかってくれる?! やっと通じ合えるところあって嬉しいわ! 翔ちゃんに言っとく!」

彼女はなぜかテンションが上がって大喜びだ。二人で法被の祭り男子の良さについて語り合って笑いあった。駅前を地車が走るパレードを見終わると、彩矢がため息をつく。

「翔ちゃん、祭りを見に来てとは言ったけどさ。曳いてるんやから忙しくて、遊べるわけちゃうんよなぁ」
「まあ、手は振ったから約束は果たしたってことで」

きちんと見に来たことをアピールするために、休憩中の彼と手を振り合ったことは達成感だ。約束は守る。夕暮れまで地車を追いかけて、公園で遊んでから帰ろうとしたとき。私はクラスの男子、相田に引き止められた。

「あの、坂上。ちょっとええ?」
「なに?」
「二人で話したいんやけど」

公園に置いた自転車に乗ろうとしたところだったので、彩矢がにやにやしながら先に帰ってしまう。もう五時のチャイムが鳴っていて、家に帰らなくてはいけないと焦りながら翔ちゃんと同じくらい背が高い相田を見上げる。

「あの……そのぉ」

もじもじした相田の顔にはニキビが多かったことくらいしか覚えていないのだが、私は彼に告白された。