テンプレみたいな恋だった


桜の夜風と缶ビールで冷えてきたので、近くのカフェで私と犬沢くんはテーブルをはさんで向かい合っていた。

犬沢くんはホットココア、私は桜色に彩られたカフェラテを飲んでいる。私は苦手な桜味を口に運ぶたびに顔を少し歪める。犬沢くんがあきれて言った。

「なんで苦手なのにまた桜味頼むんですかー」
「桜ラテかわいいから。今度はちゃんと飲んでるんだからいいでしょ?」
「お金出してわざわざ苦手なもの飲まなくても」
「私はこれが飲みたいの」

納得いかない感じの犬沢くんがココアを口にしてから、今度は祈るように言った。

「話の続きですけど、中学校の再会は良い感じじゃないですか。それから、サヤさんから翔ちゃんに告白とか仲良くなったとか……?」
「まあ、そうはならないよね」

犬沢くんはがっくり肩を落とす。

「小学生の頃から人気者だった翔ちゃんは、中学生でもうすっかりモテ男だったから」

何度飲んでも慣れない桜ラテの独特な味を無理に飲み込む。

「彼女をとっかえひっかえって噂だったよ。実際、放課後に見かけるたびに違う女子と歩いてたりした」

犬沢くんも甘いココアを飲んで苦い顔をする。

「翔ちゃん……グレちゃったんですか」
「悪いことするようになったわけじゃないよ? でも、つるむ友だちが変わった感じはあった。犬沢くんが言うように中学からはわかりやすくカースト上位男子でさ。授業を妨害するくらい騒ぐ子だったり、派手なメイクの子たちとよく一緒にいて」

私は自分の前で両手を広げ、清楚と言えば聞こえはいいが、地味な服装を犬沢君に見せた。

「でも私はずっと、こんな感じ」
「俺はサヤさんの落ち着いた感じ、好感度高いと思いますけど」
「ふふっ、ありがとう。優しいね」

私が笑うと、犬沢くんがまた苦そうに目を細める。

「中学生の私は今よりさらに芋っ子地味娘だったから……それから翔ちゃんとは話したのかもしれないけど、もう覚えてないくらいで。卒業した」
「それで、翔ちゃんとは関係切れちゃったんですか」
「うん、切れたも同然」

私は窓の外でひらりと落ちる桜の花びらを見上げた。