テンプレみたいな恋だった



転校先の小学校の教室で

「パンツ何色ですか?」って聞かれたあの瞬間。

人生で一番、ヒロインだった。








『二人きりでの食事は遠慮させてください。部署の懇親会などで仕事の情報交換などできたら嬉しいです』

遅れて取った昼休憩が終わり、オフィスの廊下を歩きながらスマホに打ったダイレクトメッセージを読み直す。

「見たことあるあるの決まりきった文面……テンプレ感満載だけど。まあ、いいか。わかりやすいし」

テンプレ文面をそのまま送信して、隣の部署の男性からの気の乗らない誘いをきちんと断る。

一年前に友だちの紹介で付き合った遠距離の彼氏がいたが、すれ違いが激しくてすぐに別れてしまった。それきり、彼氏はいない。

結婚もしたいし、彼氏もつくりたいと思っているが、わざわざ気の乗らない誘いに行くほどがっついてもいない。

スマホをポケットにしまって、私がスーパーバイザー、つまりちょっとしたリーダーを務める第2サービスセンターへの扉を開けた。
総勢60名程度の部署で、5年目の私の部下として働いてくれているのは7名だ。

部下たちの様子をぐるっと確認する。この春から入ったばかりの可愛らしい新人、水戸さんがデスクで電話対応中だ。

席に戻るとすぐ、水戸さんから半泣きで声をかけられた。

「坂上さん……このお客様が急に怒鳴って、私びっくりして。何を言っているのかもう全然わからなくて」

私の顔を見て安心したのか、ぽろっと一粒、水戸さんの目から涙が零れる。

「わー泣かないでー、大丈夫だから」
「す、すみません、私、職場で……」

席を立って水戸さんの真っ新なワイシャツの背を擦る。このサービスセンターでは自動車事故の後処理を担当していて、気が立って電話してくる人も多いのだ。

「怒鳴られるとびっくりするよね、私も最初はいっぱい泣いたよ」

水戸さんからお客様の名前を聞くと、クレーマー常習の厄介な相手だった。もう事故処理は終わっているのに、後遺症があってイラつくのか定期的にかけてくるのだ。新人には荷が重い。

「まずクレーム専用履歴に名前検索するように教えておかなかった私のミスだ。ごめんね」

水戸さんの背を撫でて落ち着かせながら、ふと斜め前の席を見てしまう。

バチッと目が合った彼のふわふわの黒髪がかすかに揺れる。鼻筋が通っていて整った顔立ちなのに、にこっと人懐っこい笑みを見せる彼は犬沢くん。

彼が新人の頃、私が教育係を担当した後輩だ。今はもうすっかり独り立ちして私の下で安定して働いてくれている。

「犬沢くん、悪いんだけどこのクレーム処理してくれる? 私これから本社で会議があって」
「いいですよ。でもサヤさん、今夜は飲みお願いしますね。もちろんサシで~」

軽い調子で言う彼のおかげで、クレーマーに重くなっていた空気が和む。

「おねだり上手だなぁ。わかった、よろしくね」

さっき他の男性からのサシ飲みを断ったばかりだが、犬沢くんとは教育係時代から何度も二人で飲んでいるので快諾する。

「水戸さん、彼の隣に座ってクレーム対応を見せてもらって。すごく勉強になるよ」
「わ~、サヤさんが俺にプレッシャーかけてくる~」

涙を拭いた水戸さんを隣に招きながら、犬沢くんがニッと歯を見せて朗らかに笑う。彼が電話を取った。

「大変お待たせして申し訳ございません。お電話代わりました、犬沢です」

ぴっと背筋を伸ばした彼から出た声は明るくて真摯で、感じが良い。

「ああ、それは自分だけが損をしたようでお辛いですよね」

明るい声、やや軽い調子、ユーモアを交えながら会話がすすむ。犬沢くんは相手の感情を受け取り、相手の苦しさを言葉にして寄り添い、対応していく。

彼に任せておけばもう大丈夫だ。

私は支度を整えて、犬沢くんに仕事が終わったら連絡するとラインを送ってから、部署を後にした。